第11話 旅の途中でいろいろあった


 あれから2カ月――。


 レグナスは散々な目に遭い続けた。

 すべては「左腕ゼクス」のせいだ。


 この「左腕」はいつもいつもレグナスの意思とは関係なく動くことがある。


 例えば、はじまりの街――ギルド登録をした街を便宜上そう呼ぶことにしている――の次に訪れた田舎町ヨーデルブラウでのことだ。

 酒場で食事をしている時に3人の冒険者パーティが店に入ってきた。

 その日の冒険で嫌な事があったのか、それともいつもそうなのかはレグナスにはわからなかったが、あまり品がいい者たちとは言えなかった。

 レグナスも旅に出たばかりで面倒事を起こすのは避けたいと思いつつ、そのグループに絡まれないように静かに食事を摂るつもりだった。


 つもりだった、のだ。


 それなのにこの「左腕」は、あろうことか傍を通った3人のうちの一人を「掴んでしまった」。


「――なんだ小僧? なにしやがる? この手は何の真似だ?」


 そこからは急転直下だ。


 いきなり胸ぐらをつかまれると、店の外へと引きずり出され、3人は全くこちらの話を聞く気配も見せずに剣を抜いた。


 あとはなるようになるだけだ。


 いきなり斬りかかってくるそいつらを何とか躱し続けているうちに、どんどん体の動きがよくなってゆく。何と言えばよいか、そうだ、動くごとに筋力が増強され、俊敏さが増してゆく。

 数分も経つうちには「何とか」躱していた初めのころからは比べようがないほどに「いとも簡単に」躱せるようになっていた。


 ついには、3人は打ち込みに疲れ果ててしまい、剣を振るうことができなくなってしまう始末だ。


 そしてまた「左腕」が暴走した。

 3人の頬にそれぞれ一発ずつ高速パンチを見舞ったのだ。


 その高速パンチは紫色の効果光エフェクトを発しながら3人の頭を「ぶっ飛ばした」。あ、こう書くと、頭が吹っ飛んで死んでしまったように聞こえるか。いや、実際は死ぬ手前でかろうじて堪えている。が、おそらく無事では済まないだろうレベルにはなっているかもしれない。


 そうして、さらに「左腕」は暴挙に出る。

 男たちの装備から、こしらえの良い剣を取り、幾つか残った割れなかった薬瓶ポーションを抜き取り、次いで、懐から金貨袋を奪い取った。


 レグナスはそれを抱えると一目散に街をあとにした。衛兵に捕まればさすがに相手がいきなり襲い掛かってきたと言っても簡単に言い逃れできないかもしれないと思ったからだ――。


 あの3人、死んでなきゃいいけど――。


 それから幾日経って、違う町に立ち寄った際に、衛兵が捕らえに来ることはなかったから、どうやら捕吏に追われる展開にはならなかったようで助かった。


 

 またある時は、「地図」に従って歩いている時に見知らぬ迷宮に誘い込まれたこともあった。

 そこでは、結局迷宮ボスの討伐までする羽目になったが、詳細をここで書くほどの「余白」はない。字数には限りがあるのだ。

 簡単に言えば、この間奪い取った「拵えの良い剣」のおかげで打ち倒せたと言っておく。なかなかにワザモノだったらしく、過酷な戦闘によく耐えてくれた。

 ――が、最終的には使い物にならなくなった。

 かわりにボス部屋の奥に安置されていた宝物庫の中から新たな剣を獲得した。もちろんこちらの方が「上等」だった。その剣は今もレグナスの腰に下がっている。



 そして極めつけは、コイツだ。


「なあ、レグナス。そろそろ旅の終着点が見えてきたよ? この旅が終わったら、『約束』を果たしてくれるよね?」


「『約束』ってなんだよ? 僕は何も『約束』などした覚えはないよ?」


「――いや、間違いなくしたよ? だって、ボクにはその声が聞こえたもの。その『左腕』からね」


「それは何度も説明してるし、お前も見てるだろ? 『あれ』は「僕」じゃない――」


「でも、レグナスの『左腕』だからね。だから、レグナスの責任なんだよ」


「どういう道理だよ? たしかに『左腕』は僕の左腕だけど、その左腕は僕じゃない、って、あ~! もう! なんだか言っててよくわからなくなってくる!!」


「あきらめなよ? なにを言ったって、その左腕はレグナスの左腕には違いないんだから」


 そういってにかっと笑うそいつの名は、エルセーヌ・キーラインと言った。

 森の中で「拾った」女の子だ。年齢は16だと言っているから、レグナスよりは6つほど下だ。


 なんだかんだ、すでに一月以上もこうしてレグナスについて旅をしている。

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