第9話 案内役は仕事をしている?


 どのぐらい気を失っていたのだろう。

 レグナスはゆっくりと体を起こす。まだ、微妙に体がきしんでいる。


(くそっ、痛いな――)


 あの力の反動か?

 レグナスは、左手の手甲がすでに消失していることを確認し、現在は安全だということに気が付くとすこし安心した。


 そうだ、剣はどこにいった?


 今一度、腰の鞘に手を伸ばすが、やはり、剣はどこかへ落としてしまったようだ。腰には鞘だけが残されている。


 辺りにはまだ血の匂いが漂っており、「緑色の子供たち」の遺体がころがっていた。


(あの剣は夢じゃなかったんだな――。でも、あれが使えるとしても、使ったことで気を失うような力があるとしたら、そうそういつもいつも使えない。やはり、どこかで『得物えもの』を手に入れないと……)


 『得物』? レグナスはあることに気が付いた。


 そう言えばこいつらがいろいろと持ってたなと、そう思いだすと、「遺体」の周囲に視線を投げる。

 そこには何やらそれらしきものが一緒に転がっていた。


 短剣に、手斧、手槍――。


 どれも手入れすらされていない。だが、何もないよりはましだ。


 レグナスは、短剣を数本拾い上げ、取り敢えずのところそれで急場をしのぐことにした。



 手甲は消失しているが、辺りを照らす紫色の明るい光は相変わらず存在しているので、この暗い洞窟の中でも視界は確保できていた。

 

 レグナスは入口の方へと戻ろうかとも考えたが、もしあの羽虎がまだ狙っていたとしたら、追い払う自信が今はない。


(仕方がない。先へ進んでみよう――)


 そう思った時だった。

 左腕からぽわんとまた「地図」が浮かび上がった。

 この「左腕」、何かと自分の思考に連動しているようだ――。ただ、未だに「確信」には至っていない。


 ここでゼクスを呼び出して――それが可能であるならだが――、詳細の説明を受けたいところだが、いまそう念じてみたが、左腕の反応が無いということは、やはり、こちらの一存でゼクスを呼び出すというのは無理なようである。


――まったく、やくにたたないカミサマだな。


 少々恨み言を呟いてみるが、それでも反応が無いところを見ると、やはりそういうもののようだと割り切るしかない。


 左腕に浮かんでいる「地図」をよく見てみると、この洞窟が基本的には一本道で、いずれ終わっていることが判明した。

 終わりがある、ということはそこは「出口」であるのだろうことはなんとなくだが理解できる。ただ、その出口がどこに繋がっているかというのはまた別の話だ。


(出口があるのなら、行ってみるしかないよな。実際、「地図」が――)


 「地図」を信じて進んできた結果がこれだというのに、それでもなお「地図」を頼りに行動するしかない事実を突きつけられているこの状況を受け入れるしかない今の自分を、情けなく思うが、いまは「案内役ガイド」を信じて進むしかない。


 レグナスは意を決して、歩み始める。



 数分後――。

 洞窟はそこで終わっていた。

 まさしく「地図」のとおり、「出口」だったのだ。


 出たところは、小道が先へと続いている林の間だった。後ろを振り返ると、切り立った崖に今出てきた洞窟の入り口が口を開いている。


 「地図」はすでにさっきの森で見たものと同じ、俯瞰視線による表示へと変わっている。そして、その「地図」の端の方に、何やら明らかに「違う」場所が表示されていた。


(これ、街じゃないか?)


 「地図」に顔を近づけて、確認する。

 

 自分の今いるあたりは緑に覆われていて、茶色い一本の筋が前方へと向かって伸びている。そしてそれはやがて緑の地域を抜けて、その「街」(らしきもの)へとつながっているのが確認できた。


(とにかく、行ってみるしかないな――)


 レグナスがそう決意して歩き始めて数十分後、レグナスは「地図」のとおり林を抜けると、視界の前方に明らかに人工物と思われる建造物群を発見した。

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