転生王子の俺が治癒した義妹たちを激戦区へ次々放り込んでいたら、舐めプしてた敵国が病んだ
十森メメ
第1話 じいや、覚醒 [セイサル]
「じいや!じいや!」
ミルトラン王国第二医務室内に僕、ラスト・ミルトランの泣き叫ぶ声が響き渡る。
「死なないで!僕を置いて逝かないでよ!お願いだよ!じいや!」
目の前には病魔に蝕まれた僕の敬愛する執事、セイサルが軋むベッドの上で苦しんでいる。
何度も唸り声を絞り出し、目は虚ろ。
じいやの命の灯が消える瞬間が近いことを、僕はすでに悟っていた。
「ラ、スト……様。申し訳……ござ……いませ……ん。じいやは……もう……」
「ダメだよ、じいや!みんなして僕を置いて先に逝かないでよ!」
僕の近親者が病気でこの世を去る瞬間を目の当たりにするのは、じいやが初めてじゃない。
母も、父も、義理の母も、親はみな病気でこの世を去った。
そして義理の母の連れ子、3人の可愛い義妹たちもまた病床に伏し、いつ命の灯火が消えるかわからない日々を送っている。
完全に呪われた王家。
あげく弱小国家であるミルトランは群雄割拠の時代に入った昨今において、隣国の脅威につねに怯え続けていた。
いつ侵略戦争をしかけられ、領土をすべて奪われるかもわからない、そんな絶望的な状況に、今はある。
「……」
「じいや!返事をして!じいや!」
徐々に呼吸が穏やかになっていくじいや。
呼びかけても返事を返してくれない。
このままじゃ……また……。
もう嫌だ!
僕が愛する家族をこれ以上見送るのは!
僕はまだ18歳になったばっかりなんだぞ!
なんでみんな僕より先にあの世へ逝ってしまうんだ!
クソっ!
僕に、僕に力さえあれば……!
みんなを救える、圧倒的治癒の能力さえあれば!
両親も、じいやも、そして俺の愛する3人の義妹たちも!
みんなみんな、救うことができるのに!!
『貴方はすでに持っているわよ』
「えっ?」
『この世界の理すらも凌駕する、絶対的治癒の力を』
大人の女性、の声が聞こえたような気がした。
じいやの手を握りながら、周りをキョロキョロと見まわしてしまう。
だが、この部屋には女性の使用人2人と医療専門のヒーラーが1人いるだけで、他にはだれもいない。
空耳、かな。
『空耳ではありません。私は女神。現世で死んだ貴方をこの小説世界に転生させた張本人です』
現世?小説世界?
何を言ってるんだ、この
『めんどくさいので単刀直入に言います。とにかく私の言う通りにしなさい』
はぁ?
いきなり人の頭に直接語り掛けてきて、言う通りにしなさいだって?
女神様か何か知らないが、ワケのわからないこと言って僕を混乱させるのは止めてほしい。
こんな状況になって、幻聴でも聞こえているんだろう。
じいや……。
みんなが先に逝くから、僕、ちょっと頭おかしくなっちゃったのかも。
『いい?まずは右手をそのおじいさんの心臓の位置に置く。あ、肌が触れ合ってないと効果発揮しないから、服は脱がせて直接触れてね』
はは……。
もうなんかどうでもよくなってきた。
どうせ僕には誰も救えないんだ。
錯乱した頭はもう考えることを放棄してる。
幻聴に任せて言われたとおりになんだか身体が勝手に動いている。
「ラ、ラスト様!いったい何を……」
「ちょっとどいてよ」
僕の目の光は確実に失われていたと思う。
絶望の淵に立たされ、奇怪な行動を取る僕をヒーラーの男が制する。
そもそもあなたがもっと優秀なら、こんなことには……。
いや、彼は優秀だ。
悪いのは病魔だ。
彼を責めるのはお門違い。だけど……
「ごめんね、じいや」
そう言って僕は、じいやの上着をやさしく取り払い、上半身を露わにした。
続けて右の手のひらを開き、じいやの左胸の辺りに押し当てる。
えっと、心臓ってここらへんでよかったかな……。
「……おふん」
「……」
少し敏感な箇所に触れてしまったようだ。
死に際で黙っていたじいやが、わずかに意味の分からない声を発した。
ちょっと、気持ち悪いと思った。
『いや心臓はもう少し真ん中寄り』
女神に突っ込まれ、俺は手の位置を左胸の突起がある地点から少し右にずらす。
『そこでいいわ。それじゃあ、念じなさい』
念じる??
『ただ、救いたいと強く念じるのです』
そんなんで救えればヒーラーなんていらないよね。
でも……。
ほかにすがるものもない。
今は言われた通りやってみるしかない。
じいや!お願いだから、戻ってきてよぉぉぉ!!
パァァァァァァ
「えっ?」
ベットで横たわるじいやに異変が起きた。
突然、薄緑の淡い光にじいやが包まれる。
これは……
『
「
『そう。私が貴方に与えた、あらゆるケガや病気を治し、眠れる才能を呼び覚ます絶対的な王の
「王の……
『呪われし王家に生まれし第一王子、ラスト・ミルトラン。いえ、転生者・
……記憶が、鮮明になってくる。
そうだ。思い出した。
俺の本当の名前は
21歳。大学3年生だった。
寝坊して講義に遅れそうだった俺は、メシも食わずに家を飛び出して……
いきなりトラックに引かれた、ところまでは覚えている。
ただ、それ以降の記憶はまったくない。
気が付いたらこの状況だった。
ラスト・ミルトランとして生きた18年の記憶と混同し、頭がこんがらがる。
脳内を整理する時間が欲しいところなのだが、今は……
「うっひょぉぉぉ!!ラスト様!じいや、完全復活しましたぞぉぉ!」
「あ、ああ。よかったな、じいや」
俺の執事、セイサルが復活したことを喜ばなきゃいけないだろう。
「まさか……まさかラスト様に病魔を取り去るヒーラーとしての資質があるなどとは……。このじいやの彗眼をもってしても見抜けませんでしたぞ!」
「もっと早く、この
泣きながら強く俺の手を握るじいやをよそに、ふと、死んだ母や父のことを思い出す。
この能力があれば、彼らもきっと救ってやれただろう。
何故もっと早く覚醒させなかったんだ。
女神よ。
『この日この時間でなければならなかったというだけのこと。そういうものなのよ、運命って。あ、ちなみにさっきも言ったけど、その回復を心臓から摂取した者は隠れた才能を呼び覚ますことになるのだけど、そのおじいさんは……』
「ラ、ラスト様……」
「な、なに?」
「わし……わし……」
「?」
「今、猛烈にラブラブチュッチュゆっさゆっさがしたいですのじゃぁぁぁ!!!」
はいい???
「うおおおお!わしの……わしのワシが轟き叫んでおりますぞぉぉ!!」
「ちょ、いきなりなに言ってんだじじい!」
思わずじじいと言ってしまった。
「セリーヌ!ラメール!クリスティーナ!今夜は寝かせんぞぉぉ!!」
そう言って急にベッドの上に立ち上がったじじいは、はだけた上着を直しもせず、そのままの姿で部屋の扉を突き破る勢いで開け、第二医務室を去っていった。
なにが起きたのかまったく理解できないメイド2人とヒーラーの男はただ、立ちすくんでいた。
俺も、立ちすくんでいた。
『どうやら彼には【性獣】としての才覚があったようね』
「……」
『まぁそういうことだから。あと、よろしくね』
「いやアレなんとかしろよ、女神」
俺の覇道は、ここから始まる。
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