第5話 二人の旅は続く

「おおい。聞こえなかったのか?」

「ああ。すみません」

 反応できたのは尾川君だった。


 俺はその隙にドラゴンの鱗をはがせるだけはがした。

 仕事に使えるかもしれない。


 基本は魚の鱗っぽいが、表面に塩の結晶のような物が被っている。


「それは魔結晶よ。それが体の表面で効率的に魔法を発動している。まあ魔導具みたいな物の一種ね。魔力を通すだけでシールドと重力遮断。それと風魔法」

「すげえ」

 淑子にも手伝ってもらい。ムキになって剥がす。


「お待たせ。帰るのか?」

 小山君達は武器と鎧は放棄。

 制服の入った袋と鞄を持っていた。


「旅に出るのに、持っていたんだ?」

「魔王を倒して、そのまま帰れるって聞いたから」

「ああ。そうだよ。騙された」

「そうだよ。魔王は死んだのに変化無しだ」

 三人ともじろっと兵達を見る。


「じゃ。まあ帰ろう」

 そう言って、元来たところで穴を広げる。


「あっ畳」

 恭子ちゃんが飛び込む。

 それを見て彼らも続く。


 一応牽制のために、兵達を睨む。

 十メートル以上離れているから良いか。

 先に淑子を送り、自分も飛び込み。

 一気に、閉じる。


「わあ。アンティークな家」

 帰ると夜だったので彼らを風呂に入れて飯を食わせる。

 満場一致で、希望メニューはカレーだった。


 時間は、夜明け間際。食べると、その場で皆寝てしまった。


「安心をしたのか、皆顔が戻ったな」

 向こうでは、皆険しい顔をしていた。

「そうねえ。向こうは兵の感じだと十四世紀以前の雰囲気? 高校生には辛いわよ」

 充電し始めたスマホに、メッセージが山のように入り始めた。


「うわぁ」


 この時は気にしていなかったが、世の中には未成年を、親の許可なく泊めてはいけない法律があるらしい。


「宿泊ではなく休憩です。異世界から連れて帰り、風呂と飯。そして仮眠を与えましたが、駄目だというなら連れて帰ってこなければ良かったと?」

「通常なら、保護したときに警察へ速やかに連絡をして……」

 その言い草にむかっときた。


「警官を呼べ? 彼らを誘拐したのはエルネスタ=グルレという国の国王だと名乗っている奴のようです。速やかに捕まえてください。出来もしないで人に文句を言っているのなら詐欺で訴えます」

「詐欺というなら、金品などを奪ったり、損害を与えたと言う事になる」

「今実際、私たちの時間を無駄に使い、身体の拘束をしているじゃありませんか?」


 その様子を見ていた、制服じゃない人たちが発言を始める。

「まあ特殊事例というのは確認できています。言われているように、お時間を取らせて申し訳ありませんでした。並びに彼らの保護ありがとうございました」

 そう言ってくれて、解放される。


「ああ面倒。礼を言われる筋合いはあっても犯人扱いだとは」

「そうね。最初っから彼らは助けて貰ったと言っていたのにね」

 今朝、と言っても十時過ぎくらい。

 着信に気が付いた、恭子ちゃんが電話に出たらしい。

 そこからすぐに、警察へ連絡が行くとパトカーが押し寄せた。


 そのまま引っ張られた。ドラゴンの鱗も一枚取られたし。

 奴ら検疫がどうこう言ったので、淑子に残りは収納して貰った。


 そして、月曜日。

 研究所に行き、鱗を走査型電子顕微鏡で観察する。

 一応、元素解析も出来るモデル。


 ウエットタイプで高真空にならない奴。

 チャージするかもしれないので、加速電圧を一キロボルト程度まで下げる。

 電子顕微鏡は、光の代わりに電子線を使う。そのため尖ったところが帯電して光り始める。


 特に走査型は電子線を直接見ずに、細く絞った電子線を上から下に走査する。

 そして出てきた二次電子を検出器で捕らえ、モニターの走査線に輝度信号として乗せる。

 高速で動かせば画が出来上がる。


 ハイドロキシアパタイト。リン酸カルシウムが主成分。

 表面魔結晶はケイ素。ガラスかシリコンか?


 試料チャンバーの外から、魔力を流し込む。

 すると、電子線を反射するらしく画像が見えなくなった。


「こんな欠片でも働くんだ。面白い」

 いくつか写真と解析結果をクラウドに上げる。


 サンプルは、カーボンの導電テープを剥がして証拠隠滅。


 だが俺は、安易にフォルダー名に、ドラゴン_ナンバーワンという名前を付けた。

 上司が見たらしく、呼ばれる。

「このサンプルは何だね?」

「コモドドラゴンです」

 うん? と言う顔を一瞬するが、だませなかったらしい。

「このシリコンは?」

「さあ、コンタミでしょう」


 コンタミとは、コンタミネーション。つまり、紛れ込んだゴミのこと。


「どこから拾ってきた?」

「家にあったので」

「確認するために装置を使ったのか。経費は自腹で払え」

 畜生。最近何でもかんでも金を取りやがって。


 だけどまあ面白い。この構造でパネルが作れれば、航空機が軽くなる。

 実重量ではなく、飛ぶときに軽ければ燃費が上がる。問題は、魔力の供給装置。

 修行した従業員が、飛行機の真ん中で座禅を組むのは勘弁願いたい。



 そして昼飯を食いに帰ると、珍しくお客さんが来ていた。

「今回はどんな感じが良いですか? 泣き叫ぶ女? 襲ってくる男? それとも三角地とか?」

「いや雰囲気だけで良いので。この前使った廃屋。スタッフ全員熱が出たし、霊能力者さん。あれから一切出なくなったでしょう。憑いてきたって言って、耳なし芳一状態で体中にお経を書いているそうですよ」

 その男は言いながら、汗を拭う。


「ちっ、霊能者なら祓えや」

 毒舌淑子。

 珍しいな。

 それに、その男。後ろにいるのは、生きている女の人かな?

 おっと目が合った。


「やめさせて…… 彼…… 死んじゃう」

 そう言って、涙を流す。


 そっと、淑子に聞く。

「なあ、後ろの女の人」

「あら見えるの?」

「最近ね」

 男が帰ってから聞くと、憑いていた女の人は、彼の愛人か何からしく、テレビで見たとき何かを感じて男に注意をした。

 その頃ブームだったらしく、聞いてくれず。

 ホラー、お化けと、走る彼を心配して出てきているらしい。

 霊能者を追い込んだのも彼女。


 知らなかったが、この店。安心堂は、知る人ぞ知る不動産屋だったらしい。

「あなたの希望に合わせ、ステキな内見会を行います」と言うのが、売りだとか。

 ただ誰も、買ってくれず。廃屋の雰囲気がドンドンらしくなっていく。


 淑子が金に困って始めた商売が、さらに首を絞めるという悪循環。

 因果応報とか悪銭身につかずと言うが、その通り。


「本業では、ご飯がたべられなくなったのぉ」

 そう言って、甘える彼女を養っていく……

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