第3話 パーディディットムンヅデゥム。失われた世界

「閉じる穴を、不安な顔で見つめるりょーくんであった」


 服はそれなり。と、いっても、デニムの上下で、プロテクターの入った革製のライダーズジャケットを装備。さっきまで二人で、ペアルックだね。ぽっ。なんてことをしていた。


「実況しないでくれ」

「大丈夫よ魔力の糸は見えるし」

「時間とか言葉は?」

「さあ? 何とかなるんじゃ無い」

 何とかなるわけが無い。

 一時間後、話しかけた農民達に囲まれていた。


 多分だが、「何だお前達どこから来た」そんなことを言っているのだろうか?

「あー。私達、来た。別の世界」

「あんた達、日本人か? 連れて帰ってくれ」


 街道?といえるのか、幅二メートルの未舗装路そっちから来た、十人ほどの軍団。

 その先頭にいた若そうな男が聞いてきた。

「日本語がわかるのか?」

「やっぱり、日本人だ。もう人を殺すのも動物を殺すのもイヤなんだ。連れて帰ってくれ」

 いきなり、人の襟首に手を掛けてきやがった。

 頭に、空手チョップを落とす。


「ぐはっ」

 そう言って、そいつは膝をつく。

「「「「おおおっ??」」」」


 そう言って驚き、周りの奴らが少し下がる。そして躊躇無く剣を抜く。

「お前達、ちょっと待て。何やってんだよ隆史」

 もう一人の兄ちゃんが、助け起こす。


「あー俺ら、この世界に召喚されたんだ」

「何だ、魔王を倒せってか?」

 そう言うと、俺にすると冗談だったが、彼らはこっくりと頷く。


「マジか?」

「マジっす」


 仕方が無い、農民と喧嘩するよりはましだ。

 彼らと話すことにした。


 彼らは、小山隆史こやま たかし君と尾川深志おがわ ふかし君。

 そして、ちょっと小柄な子は弾沙恭子だんさ きょうこちゃんと言って女の子だったようだ。


 ちなみに、三人ともクラスメートで、恭子ちゃんは二人と付き合っている状態らしい。

 まあ、異世界に来て淋しいから、仲間内で固まり。傷のなめ合いか。


 この世界。

 正式な名前はないが、パーディディットムンヅデゥム。失われた世界だと現地人は言っているようだ。

 ちなみに、ここは王国で、名前はエルネスタ=グルレというらしい。


 恭子ちゃんの格好が、男っぽいのは盗賊に襲われたときに、女だとわかると一目散に攫われるから。奴らは、戦闘よりも奪うことが主目的だからだそうだ。

 そう言っていた。

 どうも、仲の良かった女性騎士が、少し目を離したスキに攫われて、変わり果てた姿で見つかり、結構心が折れているらしい。


「ふーん。それで魔王はどこに居るの?」

 淑子があまり興味なさそうに聞くと、あっちという感じで兵士があっちこっちを指さす。

 きっとどれかが本物。

 昔うそつき村と正直村という、なぞなぞがあったな。


「兵達は、また方向がわからなくなっているな。魔王領は王国のから見て西方です」

 方角がわからないようだ。


 淑子が魔力を錬り、俺でも分かる様な、強烈な探査魔法を発動した。

「いや今のは、探査じゃないな。呼んだのか?」

「弱い奴らなら、今のでびびって逃げるでしょ。プライドがなければだけど」


 それから、インスタントのコーヒーを入れたり、持ってきたおやつを分け与え、まったりする。


「来たわよ」

 淑子が立ち上がり、みんなに告げる。

「さあ勇者。魔王が来たから倒せ。帰るわよ」

「「「えっ?? 魔王」」」

 さすが仲が良いな。見事にハモった。


 ずずーんという感じで、見事なバッファローぽいオーガ?が地面に着地した。

 集団なら、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れとなるだろう。


「不快な魔力を発したのはお前か? そう言っています」

 小山君が通訳をしてくれる。


 淑子はすくっと立ち上がり、ビシッと、小山君達を指さす。

「「「おいー」」」

 小山君達は大慌てで立ち上がり、戦闘態勢になった。


 魔王はご立腹だったようだ。

 消えたと思えるスピードで、勇者の前にはだかる兵を殴った。

 見事に腰の入ったストレート。

 拳が光っていたから、魔力も乗せているな。


 その威力はものすごかった。

 一気に五メートルくらい吹っ飛んだ。

 俺がとっさにシールドを張っていなけりゃ、首が飛んでいたな。


「くっ早い」

 尾川君がついぼやき。恭子ちゃんが何か詠唱をしている。


 その間に、小山君がゴテゴテした装飾がついた剣を、やっとの感じで背中の鞘から引っこ抜く。

「うおおおおぉ」

 そんなことを言いながら、剣に魔力を流し込むと、白い光を発し始める。


「まるで、最近のLED照明みたいだな」

「そうね。まぶしいわ。あれを何もせずに待つのは、魔王としての様式美かしら?」

 言った通り、魔王は何もせずぼーっと立っている。


 勇者くんに聞くと、聖なる光で動けなかったのだろうと言うことだ。

 再び、小山君が吠え、恭子ちゃんの詠唱も終わったのか、少し前に光の壁ができた。

 シールドかと思ったら、壁から白い光を放出する。

 白く塗りつぶされる世界。

 その中を、少し元気になった勇者小山君が走って行く。


 白い光を浴びた魔王は、ダメージがあるのか、全身から煙を上げ始めた。

「ガッ。ガアアアアァ」

 魔王の気合い一つ。

 恭子ちゃんの光の壁がはじける。


「きゃああっ」

 恭子ちゃん転がっていく。

 だがその時には、すでに接近していた小山君が聖剣を振り下ろす。

 だが魔王。いつの間にか右手に剣を生やし、それを受ける。


 キーンと言う金属同士を叩いたような音が響き、聖剣が纏っていた光がはじけた。


 そこに、尾川君が光の矢を撃ち込む。


「皆、以外とやるなあ」

「そうだね」

 まぶしいので、サングラスを淑子に借りてかけた。

 お茶のペットボトルを煽り、羊羹をつまむ。

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