怪しい不動産屋 安心堂。ドタバタ話が今日もまた。 

久遠 れんり

彼女との出会い

第1話 やばそうな店、その名は安心堂

「あのーお。すみません」

 僕は徒歩だったために、手近な店へ入った。


 『安心堂』という名前。不動産屋さんだよな?


「金ならないよ」

 店の奥から、ぶっきらぼうな声が聞こえる。


「いえ。この辺りで、住まいを探していまして」

 そう答えた瞬間。

 カウンターの向こう側で、何かを派手に引っくり返す音が聞こえる。

 そして、それが飛びだしてきた。


 どこかに引っかけたのか、肩紐がちぎれている。

 そのためカップがパタンと倒れて片方の乳をもろ出しにした、バニーガールのお姉さん?

「あんた客かい。客だね」

 その異様さに、つい問い返す。


「ここって、不動産屋ですよね」

「そうそう。でっ予算は? 条件は? あっ、ちょっと待って」

 そう言って、踵を返す。

 多分しっぽがついていて、ちぎれたのだろう。

 後ろを向いたお尻の所に、ぽっかりと穴が開き。すごくやばそう。


 あぁああ。かがまれると、何かが見えそう。

 顔をそらせば良いが、健康な男子。

 見ちゃうよね。

 そう、僕は若い。

 遼遠導男りょうえん みちお二十三歳。


 おかしな人そうだけど、美人だし。

「あったこれだ」

 何かを持ち、振り返ったお姉さんと目が合う。


 必死に覗きこむ俺に気がついたのか、彼女はにやっと笑う。

「これ。希望を書いてくださる?」

 さっきと、打って変わって、突然上からの態度になった。


 右手にその紙を持ち、しゃなりしゃなりとやって来る。そう、大昔にマリリンモンローという人が見せたと言うモンローウォーク。

 お尻を左右に振りながら、和やかにこちらへとやって来る。

 ただ。片乳は出しっぱなし。


「独り者なので、1DK。お風呂は大きめ。部屋は六畳もあれば」

 説明しながら、書き込んでいく。

 その時に、ぼくは気がついた。


 彼女は妙に汗をかき、出してる胸の先っちょがピンと立っている。

 もしかして、わざと出してる?

 変な性癖の人?


 だが、違ったようだ。


「あなた。ステキね」

「はい? ありがとうございます」

「ねえ。永遠の命。興味ない?」

 そう言われて、顔を上げる。


 彼女の目は赤くなり、犬歯が伸びていた。

 そう、彼女は俺を餌として認識し、興奮状態となっていた。


 思わず叫ぶ。


「まて」


「わん」

 なぜか従った。


「ええと、お名前は?」

「今は、何だったかしら? えーと」

 また奥へ行き、何かを探す。


 もう色々ズレて、もういいや。殺されるなら楽しもう。


「あった。杉田淑子すぎた としこですって」

「ですって?」

「ああ、うん。彼女は去年亡くなって、後を引き継いだだけだから」


「元は? カーミラとか?」

「それって、大昔の吸血鬼に使われた名前よね。よく知っているわね」

 それがヒントになったのだろう。

 彼女は真顔になった。


「あっ。やだ、ごめんなさい。犬歯がこんなに。私ったらはしたない」

 彼女は自分の状態に気が付いたようだ。

 話を聞くと、ウルフ系の種族だそうだ。興奮すると犬歯が伸びる。武器だからね。

 それなのに、大魔道士で有り大賢者。


 永遠の命という下りは、魔法だそうだ。

 魔力を取り込み、細胞を活性化させて云々かんぬん。

 老化を治癒する。みたいなことを言われた。


 元の世界で、ちょっとした収納を作っていて、空間魔法を使い損ねたらしい。

 気が付けばこっちへ来たらしい。



 時は、戦国時代。

 裏で暗躍し、今まで生きて来たとの話。

 明治までは結構な立場だったが、裏切られ。地の底へ捨てられたらしい。

 山口県の辺りだと言うから、カルストに開いた縦穴ドリーネやウバーレと言われるものだろう。

 ちなみにドリーネがさらに溶けて大きくなるとウバーレでさらに大きくなるとポリエと言うらしい。調べると書いてあった。


 それはさておき。

 話をしていて、なぜか誘われるまま、奥にあった住居部分に上がり込む。

 酒を飲みながら、彼女の話を聞く。


 ああ、そうそう。

 至近距離で目に毒だし、いつまでも彼女は気がつかないから、途中でもろ出しおっぱいは指摘した。

 あわてて隠して、真っ赤になっていたから、羞恥心はある様だ。



「それでね。あなたの匂い。ものすごく美味しそうなの。さっき近付いただけで興奮しちゃって。ちょっとだけ食べて良い?」

 麻酔無しでどう囓られても痛そうだ。

 それとも、牙に麻酔効果でもあるのだろうか?

 なぜか冷静に、そんなことを考える。


「ちょっとだけって、痛いのはやだよ」

「えーじゃあ。痛くしないからぁ。ねえぇ。ちょっとだけぇ。だめ…… かなあぁ」

 妙にかわいく見えてきた。そう言って、にじり寄ってくる。


 痛くないことはないだろうが、予防の足しだとばかりに、缶に残ったチューハイを一気に飲む。そして、腹を決める。


 どうせ秘密を知った僕を、彼女は許しはしないだろう。


 ――短い人生だったが、まあいい。


「じゃあ。来い」

「ありがとう」

 彼女は、よほど嬉しいのか、目をうるうるしながら嬉しそう。一気にガバッと、襲いかかってくる。


 僕は食われた……


 ぱっくりと……


 でも……


 思っていたのと違う。


「ねぇえ。りょーくん」

「なに?」

「一緒に暮らしてくれない? やっぱりステキな血筋。立派な魔道士にしてあげるから」

 彼女は横に寝転がる、僕の上にのしかかる。


 よくは分からないが、血中や汗に濃厚な魔力成分がある様で、彼女はそれに反応したようだ。


 対処する間もなく、一気に食われた僕は、躊躇無く彼女の中へと放出したが、それを受け。彼女は完全に確信をしたらしい。


「すべて教えてあげるから。こんな気持ち初めてなの。ねえぇ。りょーくん」

 僕は流された。

 どうせこの近くに、家を借りる気だった。

 ここからなら、仕事場にも近い。


 歳は聞いてはいけないだろうと思ったが、千年と二十一歳だと言うから。二十一歳だと思うことにする。

「ねえ。りょーくん。うふっ」

 そして、彼女は甘えんぼでさみしがり。

 たまにしっぽが生える。


 そんな彼女に、魔法を習う。


 その日から、修行と、冒険の日々が始まった。

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