一章 『デスフラッグ編』

第1話  「デスフラッグ開幕宣言」


まえがき


こんにちは、神里です。

一章始まります。


序章が長かったですが、サクサク読めるように頑張って削りながら掲載していきます。途中で流れが変になってないか心配になりながらの本編突入です。学園関係、王政、14歳たちの深い情緒を描いていきます。


評価やいいねフォロー等、励みになります。

ご挨拶にもいきますので仲良くしてください。それでは。


一章『デスフラッグ編』 開始



××××××××××××××××××××



 空高い位置から膨大な大陸を進む土埃が五つ。

 近づいていくと、大型の馬車のような乗り物が同じ方向に進んでいることがわかる。


 防風防塵防水を兼ねた箱型の部屋を運ぶのは、岩も動じない金属製の車輪――そして巨大な竜だった。これは箱型巨竜車と呼ばれる移動用の乗り物だ。


 運ぶのは全長6メートルもある四足歩行の巨竜グレバルムだ。環境によって独自の形状進化を遂げており、いくつかの種に分けられる。箱型の巨竜車に用いられる種はビブラム種と呼ばれ、高低差の激しい土地を闊歩し寒さに強い特徴を持つ。


「――――、」


 五つの内、黒い旗が掲げられている巨竜車の中でアオイコウキは窓から外を見る。

 黒髪黒眼、14歳で二ヶ月以前の記憶がない現状以外はごく普通の少年だ。比較的理解力が高く機転が効くタイプだが、ナイーブな一面は年相応。記憶喪失の影響か、日々を埋めるように学業をこなす努力家でもある。


「この運んでくれてる巨竜、一応魔獣なんだよな?」


 コウキが視線を変えて車内を見渡す。

 車内は中心のテーブルと向かい合う二列のシートで構成され10人以上がくつろげるほど広いが、座るのはたった6人だ。今は半分に分かれて向き合っている構図だった。


「左様だ。正確にはグレバルムは益獣と呼ばれる。殆どの種が我らと生活を共にできる知能を持っている」

「詳しいなマリード」

「常識である」

 

 向かいにいるのはスキンヘッドに刺青が入った金眼の巨漢。

 二メートルはある体躯で威圧感はあるが、見た目以上に堅実さのあるマリード=デリアだ。その佇まいから不安よりも安心や信頼の色が強いとコウキは評価する。


「ヴァーリア王国には“一家一匹グレバルム”ってことわざがあるくらいだかんな。ボクん家には5匹いたぜ」

「なるほど。俺は記憶がないから分かんなかったのか」

「そうだな、多分オマエの家にもいるだろうよ」


 朝食の肉を齧りながら呟くのは、コウキの右側にいるロイ=スリアだ。

 寮のルームメイトで金髪碧眼、やや癖のある髪質をしていて涙黒子が特徴的だ。犬系の甘い顔をしているものの、欠点はすこしおバカな所だろう。


「でもコーキ、グレバルムには人を襲う種も一応いるからね〜。あと信頼関係の無い相手には厳しいかな?とにかく魔獣は魔獣って訳」

「ほーん。じゃあ見かけても触っちゃダメなのか」

「そだね。アタシ家に100匹近く居るけど、グレバルムを入り口に配置して防犯にしてるくらいだよ」


 さらっととんでもない事を言うのは隣左側に居るテイナ=フォン=イグニカ。

 名家イグニカのお嬢様とは思えない制服の着崩しである。金髪に翡翠の瞳、ざく切りの前髪とパーマのかかったロングヘア。首や太ももにベルトを巻いたギャルだ。髪にはコウキがあげたヘアピンが付いている。


「私が聞いた話では飼育が難しいものの1学年でも管理可能。コウキは聡明だ。向いてるのではないか?」

「俺が?グレバルムを?生き物は飼いたくないな」

「何を言う。レイス学園は3学年から1人一匹が必須項目だ。卒業した兵士や騎士たちは皆パートナーがいるぞ」


 初耳だ、とコウキは返答した。

 話したのは向かいの右側、マリードの隣に居るネイ=オラキア=トリネテスだ。銀髪を肩の部分でバッサリと切った深い緑目の中性的な少年。特徴的なのは尖った耳で御伽噺のエルフを思わせた。ネイは尊敬と平等を大事にしそうな人柄をしている。


「………………」

「何だよライラ」

「別に」


 マリードを挟んでネイの反対側に居るライラ=ナルディアがコウキを見ていた。

 見た目は人形のように美しく、ミルクティー色した波打ちパーマのボブと栗色の瞳。すらっとした目鼻立ちと華奢な体をしている。深淵を覗くような視線を受けて声をかけても、返事は雑だった。


「まぁ、ライラは通常運行か」


 そんなこんなでこの6人がデスフラッグのパーティだった。

 もう1人、参戦はしない仲間にエリシア=エリミールという電波少女がいるが割愛。


「あ、多分もうすぐ迷宮に着くよ」

「早いな」


 生徒手帳の地図を確認したテイナが言う。


 今日は全色階級合同対魔獣初人試験の当日。


 通称、デスフラッグの開催日だった。

 クラス別のグループで危険な迷宮を攻略する事になる。死にも近い環境で目的地に旗を刺して戻ってくる事から、デスフラッグと呼ばれていた。


 デスフラッグは王下レイス学園の中でも1学年の選ばれた特別生だけが行う試験で、その年の入学生の力を王族や世間が確認するという目的がある。その為迷宮内での活動の一部は映像モノリスを通して放映される、入学最初の一大試験と言っていい。


「エリエリと行った街があれだけ賑わってたの、デスフラッグの為だったんだな」

「そうだぞ。変な事言ってると全国放送されるかんな!」

「俺はロイ、お前が一番心配だよ」

「ボクは大丈夫だ!」


 ロイは失言が多い上に少し阿呆だ。能力は充分で心は優しい性格をしているが、コウキにとっては不安要素が残る。下ネタだけは勘弁して欲しい。


「あー、えっとこの巨竜車ってクラス別なんだよね?」

「そうだ。掲げられた旗が目印で、私たちノアールのクラスには黒の旗がついている」


 レイス学園は生徒を4つの色に区分している。これを色階級クラス制度といい、分け方は1人に1つ与えられる世界の恩恵、精霊剣のタイプで決まる。


 光、炎、水、闇、4つのタイプの精霊剣に対して。

 白、赤、青、黒、4つのクラスに分け教育すると言う訳だ。


光は白を示し自由と解放を意味する。

炎は赤を示し闘争と本能を意味する。

水は青を示し鎮静と理性を意味する。

闇は黒を示し混沌と束縛を意味する。


 この理念のもと別々が独自のカリキュラムを用意している。

 ブレザーの制服は共通デザインだが、襟のパイピングのカラーでクラスがわかるようになっていた。加えてアウターの形が色階級ごとで違う為、見た目の差別化はある程度できていた。


「白、赤、青、そしてアタシたち黒はわかるじゃん?でも巨竜車は五台あって、緑の旗を立てたのが走ってるんだけど……」


 テイナが車窓から外を見ながらそう言った。

 色階級は4色。それぞれの参加者パーティが色別に乗車している中で、5つめにあたる別の色の旗を掲げた箱型巨竜車がある。


「あれは教師と物資を乗せた貨物車だ」


 テイナの疑問にネイが外を見ながら応えた。


「へぇ〜、何で緑なんだろう?」

「ヴァーリア王国では緑は平和と繁栄を意味する。緑の木々から由来したり、植物が何もない所から生える事でそう比喩されている。故に平和の象徴である指導者職や物資等に用いられる色だ」

「勉強になるなぁ、流石ネイ君って感じ」

「優秀なテイナに評価されれば、私も救われる」

「なんか褒められた!ありがと〜」


 ネイはリスペクト肯定系と言った具合の対応で、慣れたテイナも簡単に礼を言う。真っ直ぐな男だ。


 そしてしばらくすると巨竜車が一度大きく揺れ直ぐに速度減少。

 カラカラと車輪が無機質な音を立てた。


「ついたか」


 マリードが腕を組みながらそう呟いた。

 コウキは外を眺めると、先程までの荒れた荒野から、緑のない山の麓のような石造りの大地が広がっていた。


「あれ、迷宮のスタート地点ってクラス毎に違う入り口から入るんじゃなかったっけ?」

「左様だ。どうした、コウキ」

「巨竜車が五台とも近くにいるけど」

「ふむ。おそらく、今から最後の集会が成されるのであろう」


 なるほど、とコウキが呟くとテイナが補足する。


「コーキ、今回の錯綜迷宮デリオロスゲートは最初に巨大な入り口を入って、そこから更にまたクラスで別々の入り口を目指すじゃん?」

「それは理解してるな」

「たぶんここ、最初の入り口の前だよ!」

「つまり最初の入り口は巨竜車で通らず、ここを拠点に集会して以後は歩きでクラス毎の入り口を目指すのか」

「多分ね〜じゃないと、ここで止まる意味わかんない」

「まぁそうだよな」


 軽く思考して返事をすると、隣のロイが話し始めた。


「名前の由来にもなった大量発生のデリオロスがあらゆる生物を食らう暴食だからな。ボクらの巨竜車がこれ以上進むとマズいんだろ」

「まぁ、にしてもここから各々の入り口まで徒歩で行くとしたら、初手からだいぶ酷だな」

「言えてるね。逆に従来と違う動きは、難易度20倍を示してる気がするぜ。あー帰りたい」


 気怠そうにロイがいうと、6人は下りる為に立ち上がった。

 出入り口に向かって外に出る。


 そこに広がっていたのは無機質な光景。

 洞窟があると予測できる地点は巨大な山をかなり低い位置で水平に切り落としたような土地だ。しかし緑や土は殆どなく、全てが岩で緑ひとつなかった。


 巨大で奥の見えない入り口の前に巨竜車は五台停車しており、水平でかなり低い山の上を何かが飛行している。

 それはかなり遠くコウキからみると蝙蝠が飛んでるようにも見えるがおそらくデリオロスだろう。


 上から見た中心の位置にでも大穴が空いて地下の迷宮に繋がっているのだろうか、頻繁にそれは出入りしているように見えた。


「あれ、多分デリオロスだよな」

「あぁ……考えたくもないけどね。数が多すぎるぜ」

「一匹あたり3から5メートルあるんだろ?」

「そうさ。ボクの村を食い散らかしてたよ」


 6人で入り口の方を歩きながら、コウキとロイは呆然とその光景を見ていた。ロイの皮肉が笑えないと思った時、他の4人気付いたのか……視線がデリオロスの群れにしか向いてない。


 例えば、あの群れが一気にこっちに来たとしたら。

 6人は同じ想像をして緊張感を味わいながら現実を見る。


 一歩、また一歩と進む。


「……ついた、もう皆いるみたいだよ」


 テイナが指を刺すと入り口の前にはグェン教頭の姿があった。

 その直ぐ側には、他のクラスが一列に並んでいる。


「お疲れ様、ノアールクラスの皆さん。集会を始めるから代表者を先頭にして一列に並んでくれないかい?」


 近くまで行くと、グェン教頭がノアールクラスに指示を振る。

 教師はグェン1人だけだろうか。他の大人は見当たらなかった。


「コウキ。貴殿が先頭をいけ」

「えっ、俺?マリードじゃダメか……?」


 5人に聞いてみるものの、全員異論なしといった所だ。そもそもマリードとテイナは特別生ではなく追加サポーターの枠で来ている為、先頭にするのも何か違うのだろう。


「――わかったよ!とりあえず、行くぞ」


 コウキが指示を出し、列に並ぶ。コウキ側から見て左から黒ノアール、青ブル、赤ルージュ、白ブロンの構成で一列になっていた。


「……では、皆さん。そろそろ映像モノリスによる中継が始まります。生徒手帳でメンバーを改めて確認しながらお待ち下さい」


 グラウンドにある朝礼台の代わりだろうか。入り口付近にある程度の良い岩の上にグェンが立ち、その前方に生徒が並んでいる形だ。


 コウキはメンバー確認の為、改めて生徒手帳を確認した。


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【参加者一覧】


※先頭を代表者とする。

※集会時点の列順を記載。

※現時刻確定クラスを反映する。

※五番目以降はサポーターの生徒となる。

※性別は国登録の情報を記載したものである。


白色階級ブロンクラス 4名

・キオラ=フォン=イグニカ Bランク 男

・ミア=ツヴァイン Sランク 女

・グレイオス=ヴァリアード Bランク 男

・ラン=イーファン Bランク 女


赤色階級ルージュクラス 5名

・ガミア=イシュタル Bランク 男

・テオ=ランティス Bランク 男

・ゼクトロドリゲス Aランク 男

・プラハ=ヴァリアード Cランク 女

・クリーク=バラモア Bランク 男


青色階級ブルクラス 4名

・シュウメイ Bランク 女

・リアス=クロイ Bランク 女

・ヒメ=オオタケノミズチ Bランク 女

・ナナミ=カトラッゼ Bランク 男


黒色階級ノアールクラス 6名

・アオイコウキ Bランク 男

・ロイ=スリア Cランク 男

・ネイ=オラキア=トリネテス Bランク 男

・ライラ=ナルディア Bランク 女

・テイナ=フォン=イグニカ Cランク 女

・マリード=デリア Bランク 男


【ランク 合計 男女比】


S1名 A1名 B14名 C3名

計19名 内男11名 内女8名


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 錚々たるメンバーが並び其々が名前順に並んでいる。細かい順番が前と変わっている為、おそらく今の並びに合わせているのだろう。


 ふとコウキが隣を見る。

 青色階級ブルクラスの代表者が生徒手帳も見ずにぼーっとしている事に気付く。


 紺の髪で青色の目をしたツインテールの女子生徒だった。

 その目の下には小さなピンクのアイジュエリー、輝くストーンが2つずつ付いている。髪留めは赤い飾り付きの紐、短いスカートに編みタイツとニーハイをレイヤードしている少女だ。


 おそらく、彼女がシュウメイという生徒だろう。


「――――、」


 鼻筋がすんとしており、特に意味もなく横目で観察しているとシュウメイがこちらに気付いて目が合う。


 やばい、とコウキが思う。

 しかしシュウメイはコウキを見て何事もなくそのまま生徒手帳を見始めた。


「――――、」


 一安心したコウキも、合わせてもう一度生徒手帳を見る。

 最大24人参加可能で19人が参加。男女比率も大きな差はない。


「問題は、ランク」


 コウキは周りに聞こえないよう呟く。


 ランクはBが多く普通に見えるが、このBは大きな課題だ。

 Aランクに近いBとCランクに近いBとでは実力に差が出る。

 元にAランクは一人しかいない上に、三週間で限界まで詰め込んだコウキですらCに極めて近いBランクだ。


「Bの幅があまりに広すぎる。俺がCに近いB。ここにいる生徒の平均はBの中盤あたり。そして、最もAランクに近い人がシュウメイ」


 最後の修行時にマリードと確認した生徒手帳の情報では、Bランカーの平均は中盤あたり。あれだけやってもまだコウキはかなり遅れをとっている状況だ。


 特にシュウメイを見ていたのも、彼女がAに一番近い実績を持つ上に特徴的な容姿をしているからだ。生徒手帳からは学生証写真しか確認できないので初めて全貌を見た。


 そしてコウキは最も気になっていたゼクトロドリゲスを見ようとした。

 その瞬間、グェンが声を出す。


「それでは、放送と集会を開始します」


 掛け声と同時にグェンの背後に巨大な映像が出現する。


 画面は横に二つあった。

 一つはコウキたち生徒を写したもの。

 もう一つは、参加者の名前と顔写真だった。


「皆さん、おはようございます!ヴァーリア王国レイス学園、教頭のグェン=レミコンサスと申します」


 グェンはその場で一礼した。


「本日は全色階級合同対魔獣初人試験……通称デスフラッグの開催日。各地のあらゆる人々が見ている中で、この日の為に選ばれた新入生の精鋭たちと共に今……開幕宣言いたします‼︎」


 大きな身振り手振りで話すのをコウキはただ見ていた。

 放送用の動きなのだろうか、結構様になっている。


「――、」


 すると右側の生徒から舌打ちが聞こえてきた。

 おそらくシュウメイではない。その隣のガミアだ。

 獰猛な顔でグェンを見ているのがわかった。一応全国放送中である。


 グェンは今回の錯綜迷宮デリオロスゲートの特徴や由来、デスフラッグにおける一通りのルールを解説。各クラスの参加者の平均的な特徴を写真付きの図で説明した後、まとめに入っていった。


「代表者4名――前へ!」


 言われて、キオラ、ガミア、シュウメイ、コウキの4人が前に出た。グェンの前に集まりコウキたちは振り返って参加者の生徒を見る。


 集まった精鋭たちがコウキたちを見つめる。


 そして背後のグェンが間をおいて大きく息を吸った。


「彼の者達、天上へ至る刃の加護があらんことをッ!」


 色階級合同対魔獣初人試験。

 通称デスフラッグ、ここに開幕。

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