1人住宅の内見

Tonny Mandalvic

とある住宅展示場にて

 平日でも住宅展示場は営業しているし、休日休みの人が来ることもあるので、気は抜けない。

 というか今のご時世に風呂だのサッシだのトイレだの金額がすべて上がっているので、住宅を買いに来てくれる人なんていないのだから、冷やかしでも仕方ないだろう。

 現に日本の北のほうでは、金を持っている漁師しか家を買わないとかなんとか言われていて住宅着工数が減っているらしいし。


 とりあえずなんだかんだやっていると、家族連れではない一人の男がやってきた。

たぶん冷やかしだと思ったので、何か聞かれた際に話をすることとする。


 「そうだね。」

 「うん。」

 「こんな家がいいね。」


 男の声がする。

 まあ、やばい人だと思ったが、今のところ何か危害を与えているわけではないので、放置する。

 

 「そうか、お母さんはこんな家がいいのか。」

 嘘つけ、お前結婚していないだろ。心の中でツッコみながら別のことをやっている。

 「すいません、あのお客様どうします。」

 部下に尋ねられる。

 「現段階では基本的に関与しないでいいだろう。何かあったら言ってくれ」

責任者はつらいよ。まあ破壊し始めたら、警察呼べばいいだけだし何もしていない人間を犯罪者扱いすることは望ましくない。

 彼にはいったい何が見えているのだろうか。



 「子供も大きくなったしとりあえず住宅でも買いに行くか」

 今のご時世の住宅相場なんかよくわからないし、それ以前に一生賃貸のほうが安くてそれなりに職場の近くの都心に住めるのに一軒家を建設しようと思ったので、俺は妻を連れて住宅展示場へ向かうこととした。

 「とりあえず車を停めて」

 「どんな家がいい」

 「どうでもいい」

 妻は住宅を購入することに乗り気ではないようだ。

 それもそうだ、住宅を買ったらローンだらけになってしまう。

 その後転勤とかが発生したら住めなくなってしまう。

 「だけども住宅を建てておけば老後に住む場所がなくならないと思うけど。」

 「それ以前に老後は老人ホームに行くんじゃないの。」

 それもそうだけれど。

 とりあえず自分の好みの家が見られるように住宅展示場に行って内見を行う。

 「とりあえず自分が好きなように家を建てられるけど」

 「たくさん家があるね」

 「そうだね」

 「ところで本当にあんた家建ててローンなんか大丈夫なの」

 「大丈夫だよ、うん」

 「聞いていないし」

 「こんな家がいいね」

 とりあえず家を買うのか買わないのかは見てから考えればいい。

 なので妻の言うことは無視して家を観察する。


 ところで、この住宅展示場に人はいないようだ。

 今日は平日から人がいないのだろうか。

 俺はそう思いつつ住宅展示場を見る。


 「おい、店員どこにいるんだ」

 「あんた、うちは家なんか買えないでしょ。さっさと帰りましょというか帰らせろ、つまんねえから」

 妻は退屈し始めた。これ以上つきあわせると発〇する。

 「わかった。もう帰るから。わかった。」

 仕方がないので、退散することにした。



 「すいません。さっきの人たち帰ったみたいですね。」

 「何もものを壊したりしなくてよかったな。」

 とりあえず警察沙汰にならなくてよかった。


 閉店の時間になり、

 「すいません。駐車記録見ても人が来場した形跡がないんですけど。」

 「入場のゲートの記録は?」

 「そっちもないです。」


 俺と部下は気味の悪さを感じながら閉店作業を進めた。

 というか今日あったことは何もなかったこととした。

たぶんすぐ忘れるだろ。きっと。うん。





 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

1人住宅の内見 Tonny Mandalvic @Tonny-August3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ