第5話 最後の再開

「あーあ~!あーあ~!」


「はい、もう一度」


「あーあ~!あーあ~!あーあ~!」


「うん、もう大丈夫そうですね。声帯の方も問題無さそうですし」


「本当に?私、今、普通に喋れてるかな?」


「はい、問題無く、聞き取れます。発音もしっかりしていますね。良かった。良かった」


「本当だ。本当に500年振りに普通に喋れてる。やったぁ、やったぁ、……………嬉しい、嬉しいよぅぅ!!え~ん」


私は嬉しさの余りその場で泣き崩れ。年甲斐もなく泣き始めた。


なぜ、このようになったかというと理由はちゃんとある。

私はここ数ヶ月の間。ずっと、声を出す為のリハビリや声帯を治すための薬を毎日の様に飲んでいた。

そして今日、その努力が実を結び普通の人達の様に自分の声で言葉を話すことが出来るようになったのだ。

その嬉しさの余り。現在、泣き続けている状態なのである。


「姫君、本当におめでとうございます。僕もいち、治癒師として肩の荷が降りました。本当に良かったです」


「うぇぇん!エドワード君のお陰だよ~!本当にありがとう。えぇ~ん!」


そして暫く、泣き続けた私は泣きつかれて寝てしまった。


「ふぅ、姫君の声も戻りましたし。お体の方も問題ありません。はい、…………では、………、そろそろお会いなりますか………、分かりました。………アルベルト殿」



翌朝


「えぇ~!!そろそろ、故郷へ帰る?どっどういう事?エドワード君!」


朝、私が起きるとエドワード君からいきなり説明をされて私は驚いた。


「ひ、姫君。そっそれ程。驚かれるとは思いませんでした」


「これが慌てずにいられないわ。何でいきなり故郷に帰るのよ?」


私はエドワード君に詰め寄り彼の目を真剣に見ながら問い詰めた。


「ぼ、僕ももう暫く姫君のお側で経過観察をしていたいのは山々なのですが、元老院より。故郷に戻るよう手紙が送られてきまして」


エドワード君はそう言うと懐から手紙を出して私に見せてくれた。


「ほっ本当ね。手紙にもそう書いてある。でッでもエドワード君の故郷ってどこなの?それに元老院って?」


「僕の故郷は、現在、王都にもなっている首都アルベルトです」


ん?首都アルベルト?


「えっ、その首都の名前ってもしかして?」


「はい、姫君のお察しの通り。500年前のカンナギ王国の王様であるアルベルト王を讃えて付けられた首都の名前です」


「そう、お父様の名前が現在の首都名なのね」


首都アルベルト、そう聞いて私は、昔の事を思い出す。


(レイカ姫よこっちじゃ)


(レイカ姫よ誕生日おめでとう)


(わしの可愛い姫よ)


(お主はわしの宝じゃ)


頭にお父様との色々な記憶が甦る。


「お父様……………」


「…………、姫君」


私は下を向きしばらく、沈黙した。そうだ、もう今の世界には私の肉親や知人はもうこの世にいないのだ。

呪いから解放されたんだ。これからは1人で生きていかなくちゃ。お世話になったエドワード君にこれ以上、迷惑はかけられない。


「………よし!!エドワード君さっきはごめんなさい。少し取り乱したわ。君も色々、大変なのに故郷へ帰る時間を取らせてしまってごめんなさい。今までありがとう。私も準備ができしだいここを去るわ」


私はそう言うと洞窟の方へと向かおうとした。


「まっ待ってください!姫君。……いいえ、レイカ姫様」


後ろを振り向いた私の右手をエドワード君が掴んできた。いきなり手を掴まれたのもビックリしたけど。昔の………第一王女だった頃の名前で呼び止められた事の方が驚いた。そして、彼の行動に私は、驚いてしまってつい。


「なっなに?いきなり!」


「姫様、貴方に是非、会わせたい方がいるのです」


「会わせたい?言っとくけど私の知り合いはとうの昔ににいなくなっ」


「貴方のお父様でもあるアルベルト王に是非、お会いして欲しいのです」


一瞬、エドワード君が何を言っているのか。分からなかった。


「貴方、バカなの?お父様はもうとっくの昔にいなくっていのよ」


私がそう言うとエドワード君は少し考えてから話始めた。


「姫様は、憑依術と言うのをご存じですか?」


「なによ?いきなり?それと今のお父様の話とどう関係が………憑依?」


「なんとなく分かって頂けましたか?そうです。憑依術です。今からその憑依術を使って僕の身体にアルベルト王の意識を入り込むので、そのタイミングで姫様はアルベルト王と再開して頂く流れです」


「えっ?会えるの?お父様と、話せるの?」


「はい、もちろんです。現代、治癒師は万能なんですよ。お任せください」


エドワード君はそう言うと何かの詠唱を始めた。


お父様に会える。500年振りに会える。やった。やった。本当に夢見たい。嬉しい、嬉しい。


大好きなお父様。最後にもう一度会いたかったお父様。


「よし、姫様、準備出来ました。僕が、最後の詠唱を終わらせたら。話しかけて下さい」


「えぇ、分かったわ」


「………、ではいきます。善たるカノ物をこの身体に憑依させん。…………」


私は恐る恐る、エドワード君に話しかけてみた。


「おっお父様ですか?」


「……………」


返事が無い。まさかあの憑依術って技が失敗したの?


「ん?ここは、お、おぉ、あの若者は本当にわしを自らの身体を使い憑依させたのか凄いなぁ」


エドワード君の声から生前のお父様の声と同じ声が聞こえる。


「あっあの?貴方はその、お父様ですか?」


「ん?そこの君は…………、レイカ姫か?」


それを聞いた私は目が一筋の涙を流した。


「はい、はい、はい、私です。カンナギ・レイカです。お父様ぁ、お父様ぁ、私、私、ずっと、ずっと会いたくて、会いたくて、うぇええええん!」


私は、感情が押さえきれず。憑依しているお父様に抱きつき子供の様に泣きじゃくってしまった。


「おぉ、レイカよ!久しぶりじゃ!本当に久しぶりじゃ!すまぬ、本当にすまぬ!わしは父親失格じゃ。本当にすまぬ」


お父様はそう言うと私の頭をポンポンと幼少の時のように優しく触れてくれた。

お互い、しばらく泣いた後、お父様が何故、私の前に現れたのかを説明してくれた。


「わしはのう。レイカ姫よ。わしはお主が心配で心配で死ぬ間際まで後悔しておった。あの時、わしがちゃんとお主を止めていれば不老不死の呪いをかけられること無く生涯を終えていたんじゃないかとな。その未練があったからなのかわしは王都の王立図書館で地縛霊となり500年間もの間、王都でさ迷っていてな。そんな、ある日。地縛霊退治にやって来た。エドワード殿と出会ったのは」


「お父様、500年も地縛霊だったんですか?」


「うむ、それでじゃ!わしを退治に来た筈のエドワード殿はかなりの博識でのう。カンナギ王国の歴史にも詳しく。エドワード殿はわしを見るなり。一目でわしが遥か昔の王・アルベルトと気づいてのう。わしの話を真剣に聞いてくれたのじゃ」


「そっそれでどうなったんですか?」


「その後、エドワード殿はわしを何かの魔法で地縛霊から彼の守護霊に代え。その後、彼はずっとわしをレイカ姫の近くに居られる様にしてくれたのじゃ」


「えっと、じゃあ、私が呪いから解放されてからずっとお父様は私の近くに居てくれてたんですか?」


「ふむ、そうなるなのう?まぁ、それでじゃ、レイカ姫がある程度、回復したらエドワード殿は己の身体にわしを憑依術で憑依させ、レイカ姫と再開させてあげると言ってのう。それが今、やっと実現されて。今、こうしてレイカ姫に会えた。わしは嬉しくてしょうがないわい。わっはっはっはっは!!」


そう言ってお父様は私と二人っきりの時の笑い方で豪快に笑った。


「おっと!もう余り時間がないのう」


「えっと?お父様、時間がないと言うのは?」


「うむ、どうやら憑依術をかけられるのは霊魂1つにつき一回だけだと説明せれてのう。その後は、天界へと行き。転生の時期を待っのだとエドワード殿が言っておった」


「………そんな、せっかくまた会えたのに!」


「おぉ、悲しまないでおくれ、可愛い我が娘よ。わしとは会えなくなってしまうがこれからは天界からレイカ姫の人生を見守ってあげられる。わしはそれだけで500年間もの間の地縛霊生活も悪くなかったと思うとるよ。だから、お主もこれからの人生を精一杯生きてくれぬか?それが、バカなこの父親の最後の願いじゃ。頼めるかのう?」


「はい、………はい、私、カンナギ・レイカはお父様に、言われた通りに、この、今の世界を………精一杯生きます」


また、私は涙を流す。


「………そうか、そうか!わしは最後にレイカ姫からその言葉を聞けて満足じゃ!ありがとうレイカ姫よ。…………、そして、カンナギを、この国を救ってくれてありがとう。レイカ姫よお主には苦労をかけた。不甲斐ない父親ですまなかった」


「いいえ、いいえそんなこと…………、ありません。私のお父様。優しくて、強いお父様、私の方こそごめんなさい。500年も心配をかけてごめんなさい」


そしてまた、私とお父様はお互いに抱き締め会い涙を流した。


「……………、おっと本当に最後の時間のようじゃな。では、最後になるがよいかレイカ姫よ」


「はい、お父様。何でしょうか?」


「この先もしいく宛が無いのなら王都に行ってみてくれぬか?」


「王都にですか?」


「うむ、わしが在位中に作った隠し部屋があってのう。そこの部屋にはお主の持ち物とお主に渡す筈だったお主用の財産が保管されているはずじゃ。」


「私の持ち物と私用の財産ですか?」


「そうじゃ、そこまでの道のりの地図はエドワード君に渡してあるから後でもらうとよいぞ」


「わっ分かりました。私、一度、王都へ向かおうと思います」


「そうか、そうか。わしもこれで思い残すことも無くなった。レイカ姫よ。我が娘よ。最後になるが、わしはお主の幸せを願っておる。どうか、どうか幸せになってくれ」


「はい、お父様。私、絶対に幸せになって見せます。だから、だからもう少しだけ…………」


「それは無理な相談じゃが、わっはっはっは、レイカ姫はわしに似て欲張りじゃったな。それぐらいが丁度よい。では、これで本当に最後じゃ!さらばじゃ!レイカ幸せにな」


お父様は最後にそう言うとエドワード君の体が光、頭の上に光の球体が浮かび上がった。


「これって?お父様の魂?」


私がそう言うとその球体は、遥か天高く登りスーぅと消えて無くなった。


「お父様、私はこれから精一杯生きて行きます」


私は心の中でそう誓い。晴れた晴天の空を見あげた。

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