第2話(♂:♀:不問=3:3:0)

【台本名】

 アークホルダー・フラグメントレコード

 Fragement.01 流星のおとし子、星の涙 / 第2話

 副題:『ラムネの味は、優しさの味』


【作品情報】

 脚本:家楡いえにれアオ

 所要時間:55~60分

 人数比率 男性:女性:不問=3:3:0(総勢:6名)


【登場人物】

 コーネリア・エンゲルマン / Cornelia Engelmann

  性別:女、年齢:20代前半、台本表記:コーネリア

  <Overview>

   物語の主人公で、アスクレピオス・ラボラトリー医療部所属の研究員。

   真面目でまっすぐな性格をしており、そして責任感が強い。

   ステラの主治医として、彼女の様子には常に気を配っている。


 ステラ・ディーツ / Stella Dietz

  性別:女、年齢:10歳、台本表記:ステラ

  <Overview>

   物語のもうひとりの主人公で、重症アーク瘴気被曝者として医療部の保護下

   となり、覚醒療法かくせいりょうほうによってアークホルダーとなった。

   〝ある実験〟の被害者であり、そのショックによって心を閉ざしている。


 ハイネ・ウィリアムズ / Heine Williams

  性別:男、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ハイネ

  <Overview>

   アスクレピオス・ラボラトリーの統括補佐とうかつほさ(ナンバー2)

   を勤める男性。

   常に厳しい口調で喋り、冷静な様子を崩すことが無い。

   少し天然なところがある。


 ヴェルナー・ストレンジラブ / Werner Strangelove

  性別:男、年齢:40~50代、台本表記:ヴェルナー

  <Overview>

   アスクレピオス・ラボラトリー医療部部長であり、コーネリアの

   直属の上司。

   世界的権威のある研究者で、温厚おんこう聡明そうめいな人物。


 ロイド・ヴィーデマン / Lloyd Wiedemann

  性別:男、年齢:20代前半~20代後半、台本表記:ロイド

  <Overview>

   アスクレピオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部所属の研究員。

   軽薄けいはくなお調子者ではあるが面倒見がよく、

   後輩のコーネリアの事を気にかけている。


 ユーティライネン・リーズベリー / Juutilainen Leesbury

  <Data>性別:女、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ユティ

  <Overview>

   アスクレピオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部部長であり、

   ハイネとは大学時代の腐れ縁。

   活発でユーモアあふれる女性で、しばしば常識にとらわれない行動をとる。


 研究員A……医療部所属の臆病おくびょうな性格をした女性研究員。

       名前は『リズ・ヴァージニア』

 研究員B……医療部所属の真面目な男性研究員。

       名前は『マイケル・グッドウィル』

 研究員C……医療部所属のプライドだけが高い男性研究員。

       名前は『ケント・マックイーン』

 研究員D……医療部所属の陰湿な女性研究員。

       名前は『リン・マーカロイド』


※詳細なキャラクター設定は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073232406047



【用語説明(簡易版)】

 『アーク鉱石』……莫大ばくだいなエネルギーを持つ不思議な物質で、人体に

          有害となる瘴気しょうきを放つ。

 『アーク瘴気』……アーク鉱石から放たれる瘴気しょうきで、瘴気しょうきさらされた

          ヒトを『被曝者ひばくしゃ』と呼ぶ。

 『アーク・ホルダー』……『アーク瘴気しょうき』に耐性と特殊な能力を持つ存在。

 『アスクレピオス・ラボラトリー』

   ……今回の物語の舞台となる最先端テクノロジー企業兼研究所。

     通称、ALエーエルラボ


※詳細な設定資料は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073231929525


【台本・配役テンプレート】

 台本名;

 アークホルダー・フラグメントレコード

 Episode.01 流星のおとし子、星の涙 / 第2話


URL https://kakuyomu.jp/works/16818093073232574599


 <配役>

  コーネリア・エンゲルマン:

  ステラ・ディーツ:

  ハイネ・ウィリアムズ:

  ヴェルナー・ストレンジラブ:

  ロイド・ヴィーデマン:

  ユーティライネン・リーズベリー:


※配役検索に役立ててください。

☆:コーネリア

●:ステラ、研究員A、N②

□:ハイネ

△:ヴェルナー、研究員B、研究員C、N③

◇:ロイド

▽:ユティ、研究員D、N①


――――――――――――――――――――――――――――――――――


【0】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部・職員休憩室>


▽N①:アスクレピオス・ラボラトリー医療部にある休憩室きゅうけいしつ

    コーネリアとロイドは、つかの間の休息をとっていた。


☆コーネリア:流石、統括補佐とうかつほさですね。

       ステラを笑顔にするだけじゃなく、薬も飲ませちゃった。


◇ロイド:だろ~?


☆コーネリア:なんで、先輩が自慢気じまんげになっているんですか。


◇ロイド:そりゃあ、お前さん。

     ステラを笑わせるのに、俺の秘策ひさくがあったからな!


☆コーネリア:まあ、それは否定しませんですけど……


●研究員A:ドクター! ロイドさん!!


◇ロイド:んっ? どうしたんだ、リズ。

     そんな焦った顔をして――


●研究員A:大変なんです、ステラが!!


☆コーネリア:ステラが……わかりました!

       すぐに行きます!!


◇ロイド:おいおい……何をやらかしたんだ!?



□ハイネ:アークホルダー・フラグメントレコード、エピソード1。


◇ロイド:『流星りゅうせいのおとしほしなみだ』、第2話。



【1】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部・ステラの病室>


●ステラ:いやあああああああ!


□ハイネ:ステラ、しっかりするんだ!


▽N①:ステラは頭をかかえて泣きさけんでいた。

    そばにいたハイネは困惑こんわくしながらも、

    何とかなだめようと声をかける。

    しかし、状況は変わらなかった。


●ステラ:ああああああああああ!


☆コーネリア:失礼します!


●ステラ:あああああああああ!!


☆コーネリア:大丈夫よ、ステラ。大丈夫。


▽N①:そう言って、コーネリアはステラを優しく抱きしめた。

    徐々じょじょにステラは落ち着いていき、

    やがて泣き疲れたのか眠ってしまった。


☆コーネリア:ふぅ……良かった……


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン……ステラは……?


☆コーネリア:もう大丈夫です。

       泣き疲れてしまったのか、今は眠っています。


□ハイネ:そうか……


◇ロイド:アンタらしくないな、先輩。


□ハイネ:ロイド……


◇ロイド:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ……何があったんですか?

     教えてください。


□ハイネ:――お前の怒りはもっともだ。

     そうだな、君たちには話しておいたほうがいいだろう。

     だが、ここでは話せない内容もある。

     場所を変えよう。



【2】


<アスクレピオス・ラボラトリー ハイネの自室>


□ハイネ:コーヒーで良かったか、二人とも。


☆コーネリア:はい、ありがとうございます。


▽N①:コーネリアとロイドはハイネの自室にいた。

    運搬うんぱんドローンが部屋に入って来て、

    二人分のコーヒーを彼らの前に置いた。

    そしてドローンはハイネの前にもコーヒーを置き、

    彼は一口すすった。


□ハイネ:――それじゃあ、何があったのか話そう。

     最初のうちは、ステラは私の質問に対して

     うなずくことで応えていた。

     同席してもらっていたグッドウィル研究員に感情波形の

     モニタニングをしてもらい、多少の波形の揺れはあるも

     おおむね問題はなかった。

     だが……〝ある単語〟が出た途端とたん、事態は急変した。


◇ロイド:〝ある単語〟……?


□ハイネ:――『スターロンバー秘密研究所』。


▽N①:都市伝説の一種と知られている、非道な人体実験を行う

    殺戮さつりく研究所。

    人々が面白おかしく作り出した、想像の産物さんぶつ

    ――だから、信じられない。信じられるはずがない。


◇ロイド:統括補佐とうかつほさ、本当にそれってあるのか?

     冗談じょうだんがきついぜ……


□ハイネ:私が冗談じょうだんをひとつも言えない人間であること

     は知っているだろ。


◇ロイド:確かに。


□ハイネ:それに、お前のことだ。

     軍の情報部から私の調査について聞き、

     ドクター・エンゲルマンに話したのだろう。


◇ロイド:えっ、なんで知って……まさか、コーネリア、お前!


□ハイネ:うわさ好きのお前の事だ。

     おおかた、予想はつく。


◇ロイド:オッシャルトオリデゴザイマス。


□ハイネ:まったく……

     本来ならば、機密漏洩きみつろうえい処罰しょばつ検討けんとうしなければいけないが……


◇ロイド:えっ、まじ!?


□ハイネ:今回は不問ふもんにしといていやる。


☆コーネリア:先輩、反省してくださいね。


◇ロイド:ありがたき幸せ!!


□ハイネ:――話を戻そう。

     非人道的な実験を行い、そして実験体を消費し、

     阿鼻叫喚あびきょうかん狂気きょうき蔓延はびこ地獄じごく

     本来であれば、そんな戯言ざれごと一笑いっしょうすものだ。

     それに、うわさが本当ならば軍だけじゃなく、ラボも黙っていない。


◇ロイド:でも、何でソレが実在する事を軍はぎつけたんだ?


□ハイネ:情報提供者がいたそうだ。

     詳細なことを教えてくれなかったがな。


◇ロイド:――ハイラント諮問しもん委員会の連中だったりして。


□ハイネ:それも都市伝説の一種だろう。


◇ロイド:まあ、そうっすよね~

     ……それじゃあ、ステラは人体実験の被害者というわけか。


□ハイネ:そうだ。

     それに被害者はステラだけじゃない。


☆コーネリア:それじゃあ、ステラ以外は……


□ハイネ:……残念だが、ステラ以外の被験者はいたが全員亡くなっていた。


◇ロイド:死因しいんは?


□ハイネ:最初は爆発事故に巻き込まれたものだと思われたが……

     全員、毒薬による中毒死ちゅうどくしだった。


◇コーネリア:っつ!


□ハイネ:遺体いたいは隠し部屋に無造作むぞうさに捨てられていた。

     ステラは、奇跡的にまぬがれたのかもしれないな。

    

◇ロイド:でも、そうなると研究所のヤツらは——


□ハイネ:自身の犯罪を隠ぺいするために殺したのだろう。


☆コーネリア:ひどい……


◇ロイド:なんとなく予想は出来たが、こうして言葉に出すとえげつないな。


□ハイネ:爆発事故によって施設も半分以上は崩れてしまっており、

     資料もほとんど焼失してしまった。

     まだまだ内容が解明できていないのが現状だ。

     ――事の真相を聞き出そうとして、軽率な行動をした。

     私は、彼女を……ステラを追いつめてしまった。

     すまなかった、二人とも。


☆コーネリア:や、やめてください! 統括補佐とうかつほさ!!

       頭をあげてください!!


□ハイネ:しかし……


☆コーネリア:それに、今回の件については私の判断ミスであります。

       まだ彼女の精神状態が不安定であることをわかっていたんですから。

       ――だから、頭をあげてください。


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン……


☆コーネリア:ですが、今回の事でステラのストレス障害は

       予想以上に深刻であることがわかりました。

       なので……当分とうぶんは過去の事を

       思い出させるのは待ったほうがいいかもしれません。


◇ロイド:確かに、もう少し様子を見たほうがいいかもな。

     それでいいですか、統括補佐とうかつほさ


□ハイネ:それで問題ない。

     彼女の治療を最優先にしてほしい。

     ――世話をかけるな。


☆コーネリア:そんなことを言わないでください。

       彼女の治療は、私たちの責務せきむですから。

       ――あの、ウィリアム統括補佐とうかつほさ


□ハイネ:どうした?


☆コーネリア:お時間がある時で構いません。

       ステラに時折ときおり会いに来ていただけませんか?


◇ロイド:お、おい、コーネリア……


□ハイネ:しかし、私は……


☆コーネリア:確かに、今回は不測の事態が起きました。

       ですが、ステラが統括補佐とうかつほさのお姿すがたを見た時に、私たちと違ったんです。

       感情波形が今までにないぐらいに穏やかでした。

       ――ご多忙たぼうの身であることは承知しています。

       ですが……今のあの子には統括補佐とうかつほさ

       必要な気がするんです!

       お願いします!!


□ハイネ:……君は本当にまっすぐなヒトなんだな。

     あの時の〝彼女〟みたいだ。


☆コーネリア:えっ?


□ハイネ:いや、なんでもない……承知した。


◇ロイド:いや、それはいくらなんでも……えっ?


□ハイネ:私で力になれるのなら全面的に協力する。

     時間を作って、彼女の見舞いに来よう。


◇ロイド:大丈夫なんっすか、そんな無理しちゃって。


□ハイネ:問題ない。

     そもそも、ステラの件については私が持ち込んだ事案だ。

     それに対して協力するのはすじだろう。


☆コーネリア:あ、ありがとうございます!


□ハイネ:――すまない、そろそろ会議の時間のため失礼する。

     二人とも、コーヒーはそのままでいい。

     後で片づけておく。


☆コーネリア:……ふぅ、緊張したぁー


◇ロイド:大したもんだよ。


☆コーネリア:なにがです?


◇ロイド:あの統括補佐とうかつほさを動かすとはな。


☆コーネリア:そんな、大袈裟ですよ……


◇ロイド:こりゃあ、医療部やウチだけじゃなく他の部門に知れわたるだろうな~


☆コーネリア:うっわ……最悪……


◇ロイド:仕事に真面目すぎるお前にはわからないと思うが、

     統括補佐とうかつほさって結構おそれられているんだぞ?

     特に監査かんさの時なんか『死神』と言われているほどにな。


☆コーネリア:随分ずいぶんとひどいことを言いますね。


◇ロイド:でも、実際に多くの研究が中止命令出されたり、

     「成果を出せなかった」として多くの研究員たちが

     辞めさせられたからなぁ~

     ちなみに、うちのボスの研究もひとつつぶされた。


☆コーネリア:えっ?! 部長クラスでもそんなことがあるんですか!!


◇ロイド:だから言っただろ、『死神』だって。

     それにあのヒトは研究だけじゃなく、ケンカも強いからなぁ~

     ほら、ウチの危機管理ききかんり部って、謂わば警備けいび部門じゃん?

     武闘派ぶどうは集団じゃん?

     前までは部長を置いていたんだけど、あまりにも

     風紀が悪い上に、言う事を聞かないって不評だったからさ。

     改善命令に従わない、当時の部長をボコボコにしたことは有名だ。


☆コーネリア:……それなら、あながち『死神』というのも間違っていないかも。


◇ロイド:だろ?

     畏れ多くも、あのウィリアムズ統括補佐とうかつほさを動かしたのは、

     新進気鋭しんしんきえいの医療部所属の女性医師!

     ――社内ニュースの大見出しになってもおかしくない程だ。


☆コーネリア:なんですか、その週刊誌みたいな見出しは。

       はぁ……めんどくさいことにならないといいんですけど……



【3】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部>


●N②:月日つきひは流れ、ステラの体調は安定な経過をたどった。

    精神的な部分も安定し、やがて主治医のコーネリアだけじゃなく、

    ロイドなどの治療に当たっていたチームの研究員たちにも

    心を開くようにもなってきた。


△ヴェルナー:――これは、すばらしい。

       順調な経過だな。


☆コーネリア:はい、能力制御についてはまだまだ課題がありますが、

       以前と比較ひかくすると無差別に発動することも

       少なくなりました。


◇ロイド:そっちについてはウチに任せてくださいよ!

     ステラの能力についても徐々じょじょ解析かいせきが進んできたので!


△ヴェルナー:それは頼もしい、よろしく頼むよ。

       だが、油断せずに行こう。

       順調な時こそ気が緩んでしまい、

       失敗につながりかねない。


☆コーネリア / ◇ロイド:はい!


△ヴェルナー:いい返事だ、二人とも。

       それでは引き続き頼むよ、期待している。


☆コーネリア / ◇ロイド:ありがとうございます!



(間)



☆コーネリア:んん~~! つかれたー!


◇ロイド:あいよっと。


☆コーネリア:うわ!? びっくりした……


◇ロイド:お目覚めのコーヒーでもどうぞ、ドクター・エンゲルマン?


☆コーネリア:あ、ありがとうございます。


◇ロイド:どういたしまして~

     ――てか、そろそろ2徹目だろ?

     今日はもう切り上げて、もう休め。

     明日、非番なんだろ?


☆コーネリア:ありがとうございます。

       ですが、他のデータの分析やまとめもしないと――


◇ロイド:いいから休めって。

     後輩は、先輩の言う事を聞いておくべきもんだ。


☆コーネリア:そうかもしれませんが……まだ、大丈夫ですよ。


◇ロイド:さっき、モニター前で船をこいでいた人間が

     何を言ってんだか……説得力ねぇーぞ。


☆コーネリア:うっ……それは……


◇ロイド:それによだれもたらしちゃって~


☆コーネリア:う、うるさいです!


◇ロイド:とりあえず、今のお前に必要なのは休息だ。


△研究員B:そうですよ、ドクター。

      後は、私たちがやっておきますので。


●研究員A:それに、ドクターが倒れてしまったら大変です!!


◇ロイド:ほら、リズやマイケルだってそう言っているしさ。

     今日は、ウチからも何人か応援に来ている。

     チームの仲間を信頼するのも、仕事をする上で大事だぞ?


☆コーネリア:……そうですね。

       わかりました、みんな、ありがとうございます!



【4】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部>


●N②:時刻は深夜。医療部と実験棟をつなわた廊下ろうか

   山積やまづみになった資料を運ぶコーネリアとロイドが歩いていた。


◇ロイド:――って、なんで俺たちは資料を運んでいるんだよ!


☆コーネリア:あはは……すみません。

       流石にこの資料については、ちゃんと整理して

       おかないといけないので。


◇ロイド:別に休みの後でもいいだろ……


☆コーネリア:ダメですよ、大事な資料なんですし。

       それに「研究資料は、我々科学者にとって宝」、ですよ。


◇ロイド:へいへい……たく、どこまでワーカホリックなんだか。

     いいか、これをお前の部屋に戻したら休むんだぞ?

     決して資料の整理とかするんじゃねえぞ!

     じゃないと、俺がやすめねぇからな!!


☆コーネリア:はい、わかりました。


△研究員C:おい。


●N②:2人の背後から声が聴こえた。

    声の方向に振り向くと、不機嫌そうな男性研究員と、

    ヒトを子馬鹿にしたようなニヤニヤとした笑顔を

    浮かべる女性研究員がいた。


◇ロイド:なんだ、お前……?

     あっ! 医療部のマックイーンと、マーカロイドじゃねえか。


☆コーネリア:すごいですね、他の部門の研究員を覚えているんですか?


◇ロイド:お前は、もう少し周りに関心を持て!

     ――でっ、何の用だよ。

     俺ら、忙しんだけど。


△研究員C:お前に用はない。


◇ロイド:あっ?


▽研究員D:私たちの用があるのは、そこの被曝者ひばくしゃ

      ザコは黙っていなさいよ。


◇ロイド:誰がザコだ……えっ? 被曝者ひばくしゃ


☆コーネリア:…………。


△研究員C:なんだ、お前、知らなかったのか?

      こいつは、瘴気しょうき被曝者ひばくしゃなんだよ。


▽研究員D:部長のお気に入りなんだか知らないけどさ。

      病人が研究員になるとか、それに医療部所属とか!

      そんなおかしなことがある?


△研究員C:薬の投薬がないと、研究がまともにできないくせにな。


▽研究員D:病人が病人の治療をしているとか笑えるわ。


△研究員C / ▽研究員D:(笑い)


◇ロイド:テメェら、こいつを馬鹿にするのはいい加減に――


☆コーネリア:大丈夫です、先輩。


◇ロイド:っつ、けどよ……


☆コーネリア:いいんです、慣れていますから。


△研究員C:ふんっ、野蛮やばんな奴だ。


▽研究員D:こわーい!

      もしかして、アンタ、あの実験体に頭、毒されているじゃないの?


◇ロイド:あっ? 今、何て言った?


▽研究員D:だーかーらー、アンタの頭はあのステラっていうガキのアーク瘴気しょうき

      毒されているんじゃないの~?


◇ロイド:お前ら、流石にいい加減に——


☆コーネリア:ふざけるなァ!!


●N②:コーネリアの怒号どごうが響いた。

    自分自身が馬鹿にされることは、彼女は耐えることが出来た。

    しかし自分以外に対しては別だ。

    特にステラのことなら尚更なおさらだった。

    彼女は持っていた資料をその場に無造作むぞうさに投げ捨て、

    2人の研究員にる。


◇ロイド:こ、コーネリア……?


☆コーネリア:私を馬鹿にするのはいいが、あの子を馬鹿にするな!


△研究員C:な、なんだお前――


☆コーネリア:ステラががどんな辛い目にあったのか!

       今だって必死に生きようとして如何いかに努力をしているのか!

       そうやって自分のおろかさをひけ散らかし、

       何も知らないくせに好き勝手に言うな!!


△研究員C:こんの生意気なまいきな女めぇ……!!


●N②:怒りくるった男性研究員がこぶしを振り上げ、コーネリアになぐりかかる。


◇ロイド:コーネリア!!


☆コーネリア:っつ!


●N②:なぐられると思い、コーネリアは目を閉じた。

    その瞬間―― 


□ハイネ:――なにをしている。


●N②:静かに重い声が聞こえた。

    男性研究員は動きを止め、声の主を恐る恐ると確認する。


▽研究員D:ウ、ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ……


□ハイネ:もう一度を聞く、何をしている?


△研究員C:ひっ!


▽研究員D:こ、これは……ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ……

      もしかして、あの実験体のお見舞いに……


□ハイネ:実験体ではない、ステラ・ディーツという名前がある。


▽研究員D:し、失礼いたしました……


□ハイネ:お前は、医療部のドクター・マックイーンだったな?


△研究員C:そ、そうです!

      統括補佐とうかつほさに名前をおぼえて頂き、とても光栄――


□ハイネ:私は全職員の名前を記憶している。

     お前が特別と言う訳ではない。


△研究員C:そ、そうですか……


□ハイネ:はぁ……ここまで恥知らずなのは怒りを通り越してあきれるな。


△研究員C:ご、誤解です!

      その、なんというか……先輩としての指導をですね、その……


□ハイネ:被曝者ひばくしゃへの差別と暴力が、お前の指導に入っているのか?


△研究員C:…………。


□ハイネ:至極しごく簡単な質問をしよう。

     お前は、同じ医療部のリン・マーカロイド研究員だな?

     少なくともユグドラシルで瘴気しょうき被爆者ひばくしゃの社会参加に制限が

     かけられているか?


▽研究員D:い、いいえ……


□ハイネ:では、ドクター・マックイーン。次は貴様の番だ。

     アーク瘴気しょうき感染かんせんおよび被曝ひばく経路を答えろ。


△研究員C:アーク鉱石こうせきから発生するアーク瘴気しょうき被曝ひばく

      鉱石塵こうせきじん吸入きゅうにゅうおよび鉱石片こうせきへん創傷部そうしょうぶへの

      侵入しんにゅうなど……です……


□ハイネ:そうだ。

     今、お前たちが答えた内容は学生がまず学ぶ基礎中の基礎だ。

     では、お前たちの先程の発言は正しいのか?


△研究員C / ▽研究員D:…………。


□ハイネ:ラボで重要視されるのは地位や名誉ではない。

     研究能力と科学的探究心、そして社会使命だ。

     コーネリア・エンゲルマンとロイド・ヴィーデマンは、

     ステラ・ディーツの治療を通して、その責務せきむを果たしている。

     ケント・マックイーン、貴様は有名な学者の一族だな?


△研究員C:うっ……はい……


□ハイネ:にも関わらず、みにくい感情をさらけ出すことに飽きたらず、

     暴力という愚行ぐこうおか始末しまつだ。

     次にリン・マーカロイド、お前の故郷の国では瘴気しょうき被曝者ひばくしゃ

     が困窮こんきゅうに置かれている状況を知っているはずだ。


▽研究員D:そ、それは……


□ハイネ:彼らが置かれている厳しい現実を知りながらも、

     そこに目をそむけ、嬉々うれうれと差別に加担する人間なのか?


▽研究員D:そんなことは……


□ハイネ:両二名。

     明日、朝一で懲罰ちょうばつ委員会への反省文提出を命ずる。

     委員会からの正式な処分が下りるまでは、無期限の研究停止および

     謹慎きんしんを命じる。


△研究員C:おおお、お待ちください!

      やっと、研究に軌道きどうが乗り始めたところなんです!!


▽研究員D:そうです!

      研究停止なんて、そんな——


□ハイネ:いいな!!

    

△研究員C:ひっ!


▽研究員D:ま、誠に申し訳ありませんでした!!


△研究員C:おい、逃げるなって! 待てよ!


●N②;先程までの様子とは変わり、2人の研究員は無様ぶざま

    その場から逃げ出した。

    そんな彼らの姿を、ハイネはするどい目でにらみつけていた。


◇ロイド:まじで、めっちゃいいタイミングで

     現れるじゃないですか! 先輩!!

     まさにヒーロー参上!、みたいな。


□ハイネ:そうやって茶化ちゃかすな。それに先輩呼びもやめろ。

     ――ドクター・エンゲルマン、大丈夫か?


☆コーネリア:は、はい……私は……大丈夫です。


□ハイネ:すまない。

     ラボの代表者のひとりとして謝罪する、本当に申し訳ない。


☆コーネリア:そんな、統括補佐とうかつほさが頭を下げないでください。

       それに被曝者ひばくしゃであることを隠していた私が悪いんですか――


◇ロイド:お前は悪くねぇーよ。


☆コーネリア:えっ?


◇ロイド:お前は悪くねえ。

     そもそも瘴気被曝者しょうきひばくしゃと普通の人間の間に変わりない事は

     初等教育の段階で教わるものだ。

     まったく……アイツら、お前に勝てねぇからって……

     とんだクソ野郎共だな!


☆コーネリア:ロイド先輩……


◇ロイド:てか、俺の方こそごめんな。

     まさか、そんな大変なことになっているのを知らなくて。


☆コーネリア:先輩も悪くないです。

       瘴気被曝者しょうきひばくしゃとなったのは先輩が

       大学を卒業してからですし……

       むしろ、お二人ともには感謝しかありません。

       ――ありがとうございます。


□ハイネ:珍しく先輩としての振る舞いが出来たな。


◇ロイド:ハイネせんぱーい?

     ちょーっと、どういうことか説明してもらってもいいですか~?


□ハイネ:近付くな、暑苦しい。


◇ロイド:うわっ、もっとひどいことを言ったよ! このヒト!!


□ハイネ:それよりも床に散らばった資料を拾おう。


☆コーネリア:あっ……そうですね。


□ハイネ:ヴィーデマン研究員、手伝え。


◇ロイド:俺、資料で両手が塞がっているんですけど~


□ハイネ:いいから、手伝え。


◇ロイド:えっ、無視!?



(間)



□ハイネ:これで全部か?

     確認してくれ、ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:――はい、大丈夫です。

       不足ないです。


□ハイネ:それは良かった。


☆コーネリア:あ、あの……それで統括補佐とうかつほさはどうしてここに……?


□ハイネ:ステラの見舞いに行こうと医療部に向かっている最中、

     お前たちを見つけた。

     それよりも、そんな多くの資料を持ってどうしたんだ?


☆コーネリア:えっとですね。

       残業が終わって、私の部屋に研究資料を

       持っていく途中だったんです。


◇ロイド:そして、俺は後輩にパシリとして使われていまーす。


☆コーネリア:ちょっと先輩……


□ハイネ:そうだったのか。

     となると、ステラは寝ているのか?


☆コーネリア:はい、折角せっかく御足労ごそくろうを頂いて申し訳ないのですが。


□ハイネ:そうか、間に合わなかったか……


◇ロイド:それじゃあ、統括補佐とうかつほさも資料運ぶの手伝ってくれませんか?


☆コーネリア:ちょっと先輩!?


◇ロイド:お前の部屋に行くんだ、今日の容体ようだいについてそこで教えればいいじゃん。


□ハイネ:そうだな、お願いできるか?


☆コーネリア:わかりました……統括補佐とうかつほさがそれでいいのでしたら。


□ハイネ:決まりだな。

     では、ドクター・エンゲルマンの資料は私が持とう。


☆コーネリア:えっ!? いいですよ!!

       悪いです!!


□ハイネ:女性が重たい物を持っているのに、大の男が

     持たないわけにもいかないだろう。


◇ロイド:センパーイ、俺のも持ってほしいんですけどー


□ハイネ:お前は自分で持て。


◇ロイド:デスヨネー

     ワカッテオリマシター



【5】


<アスクレピオス・ラボラトリー 実験棟・コーネリアの部屋>


☆コーネリア:どうぞ入ってください。


●N②:コーネリアが扉を開き、資料を持ったハイネとロイドが入る。

    必要最低限のものしか置かれていない彼女の部屋は、

    その真面目まじめ性格せいかくを表していた。


◇ロイド:おじゃましまーす。


□ハイネ:資料はどこに置けばいい?


☆コーネリア:えーっと……そちらに置いて頂きますと助かります。


□ハイネ:了解した。


◇ロイド:ふぅ~~疲れたー!

     腰がいってぇ……


☆コーネリア:お二人ともありがとうございます。

       統括補佐とうかつほさ、少しお待ちくださいね。

       今日の分と、比較用のカルテと……それに経過表もっと。


◇ロイド:ふぁ……コーネリア、俺は少し眠らせてもらうぜ。

     話が終わったら起こしてくれ。


☆コーネリア:わかりました。そこに毛布があるので使ってください。


◇ロイド:あいよっと……それじゃあ、二人ともごゆっくりどうぞ~



(間)



□ハイネ:――ふむ、経過は順調だな。


☆コーネリア:まだ能力の制御については課題が多いですが、それでも

       ステラは頑張って課題をクリアしています。


□ハイネ:まさか、〝覚醒療法かくせいりょうほう〟がここまで上手く行くとは予想以上だ。


☆コーネリア:そうですね……ただ、上手く行っている時にこそ

       緩んでしまって失敗を犯してしまうリスクがあります。

       なので、気を引き締めて治療を継続していきます。


□ハイネ:素晴らしい心がけだ。


☆コーネリア:ありがとうございます。

       あの……


□ハイネ:んっ、どうした?


☆コーネリア:先程は、本当にありがとうございました。


□ハイネ:礼を言われる必要はない、当然のことをしたまでだ。

     あのような思慮しりょが欠けた無責任な人間は、

     必ず取り返しのつかないことをしてしまう可能性がある。

     そして、それは結果として本人だけじゃなく、

     周囲の者たちにも被害がおよぶ。


☆コーネリア:――ストレンジラブ部長も同じことをおっしゃていました。


□ハイネ:君は……確か、ストレンジラブ部長の推薦すいせんをもらっていたな。


☆コーネリア:はい、大学生の頃部長に——



(回想シーン:開始)


<研究学園都市『フレスベルク』・フレスベルク連邦科学院大学>


●N②:彼女がフレスベルク連邦科学院大学の学生だった頃。

    瘴気被曝者しょうきひばくしゃに偏見を持つ、ある教授

    の授業で彼女は笑い者にされていた。

    多くの学生は教授の振る舞いや言動に対して

    嫌悪感けんおかんを抱くも、何も言えずにいた。

    一部の学生は教授と共に、コーネリアに対してひどい言葉

    を投げ返していた。

    ――すると、突然、教室の扉が開かれた。


△ヴェルナー:突然失礼するよ。


●N②:突然の科学界の権威が突然現れたことで、

    先程までの騒ぎが嘘のように静かとなった。

    気にする素振りをみせず、ストレンジラブは会話を続ける。


△ヴェルナー:それにしても……母校の卒業生として嘆かわしいことだ。

       仮にも生命科学のともがらでありながら、瘴気しょうき患者に対する

       無理解を自覚しない厚顔無恥こうがんむちさに。

       ――さて、君がこの授業の教授かね?


●N②:先程まで威勢いせいが良かった教授が、申し訳なさそうな顔を浮かべて萎縮いしゅくしていた。


△ヴェルナー:久しぶりの口頭試問こうとうしもんをしようじゃないか。

       卒業して久しいことだろう?

       さて、問題だ。

       アーク瘴気しょうきの感染経路は?

       瘴気被爆者しょうきひばくしゃに対する治療方法は?

       瘴気被爆者しょうきひばくしゃ合併症がっぺいしょうは?

       そして、瘴気被爆者しょうきひばくしゃの社会参加率と、ユグドラシルに

       おける政策はどうなっているか?


●N②:ストレンジラブのマシンガンのように放たれた質問を、教授は

   ふるえた声で答える。

   途中とちゅうで言葉がまった時は、謝罪の言葉を述べる程、目の前の

   人物に畏れを抱いていた。


△ヴェルナー:――――ふむ、正解だ。

       まあ、教職に就く者ならば答えられて当然の内容である。

       さて、君の資質ではあるが……生半可な理解で科学を

       学徒たちに教授するとは……科学だけじゃなく、

       教育に対しても無責任ではないのかね?

       そこにいる学生諸君にも言えることだ。


●N②:ストレンジラブは学生たちへと視線を向ける。

    そして、ひとりの女学生を見つけると、

    穏やかな笑顔を浮かべた。


△ヴェルナー:キミが、コーネリア・エンゲルマン君だね?


☆コーネリア:は、はい! どうして、私の名前を……


△ヴェルナー:キミは、ウチのラボに就職試験を受けるのだろう?


☆コーネリア:はい!


△ヴェルナー:希望部署はどこかね?


☆コーネリア:い、医療部です!


△ヴェルナー:そうか……我々、アスクレピオス・ラボラトリーは

       地位や立場は関係ない。

       それが特殊能力者とくしゅのうりょくしゃであろうと、

       瘴気患者しょうきかんじゃであろうと関係ない。

       科学者ならば、科学に対して真摯しんしでなければならない。

       そして科学者の責務せきむは、科学技術の発展をうながし人類の発展に

       貢献することだ。

       目先の誘惑ゆうわくに負け、思慮しりょが欠けた無責任な行動は

       自分だけじゃなく、周囲の者たちにも害をなすことがある。

       科学のともがらに席を置くなら、許される事ではない。

       ――だから、がんばりなさい。


☆コーネリア:はい! ありがとうございます!



(回想シーン:終了)



<アスクレピオス・ラボラトリー 実験棟・コーネリアの自室>


□ハイネ:あのヒト、そんなことを言ったのか……驚きだな。


☆コーネリア:その後は、大騒ぎでした。

       あのヴェルナー・ストレンジラブに激励げきれいの言葉を投げかけられた!

       って周りが大騒ぎしちゃって。

       それに推薦状も作って頂いたのです。

       正直、あまりの嬉しさに私も興奮してしまいました。

       いつか部長のような科学者になるんだって。それを目標に

       ここまでやってきました。


□ハイネ:そうか……君はストレンジラブ部長を尊敬しているのだな。


☆コーネリア:はい! 今でもあの時の恩は忘れません!

       部長がいなければ、今の私はありませんでしたから。


□ハイネ:――ドクター・エンゲルマン。

     先程も言ったが、君は優秀な研究員だ。

     ストレンジラブ医療部長が君を認め、信頼している。

     今後、またいわれのない不当な評価を受けたとしても

     その事実は変わらない。


☆コーネリア:統括補佐とうかつほさ……。


□ハイネ:そして、その事実は私が保証する。


☆コーネリア:……私はとても幸せです。

       ありがとうございます、頑張ります!


□ハイネ:それにしても、本当に君もそうだが、チーム全体も

     よくやってくれているな。


☆コーネリア:恐縮です。

       ですが、ストレンジラブ部長のご指導の賜物たまものです。

       ステラの第一主治医は部長ですし、部長自身が

       治療方針などを大まかに決めていますので。

       それに、〝覚醒療法かくせいりょうほう〟のメカニズムを解明していけば、

       特殊能力者とくしゅのうりょくしゃにならずとも、

       瘴気しょうき患者を救う可能性が出てきます。

       今回の事を通して、多くの事を学ばないと……


□ハイネ:この先の治療もよろしく頼む、期待しているぞ。

     参考程度として聞くが、ドクター・エンゲルマン。

     ステラの今後の経過だが。理想的な状態に到達するまでは

     おおよその期間は推定できるか?


☆コーネリア:そうですね……特殊能力の制御を除けば

       2週間ぐらいと考えます。

       メンタルケアも順調ですので、もしかしたら

       過去の話を聞くことが出来るかもしれません。

       神経精神医療チームのお墨付きです。


□ハイネ:なるほど、了解した。

     ――っと、もうこんな時間なのか。

     すまないな、疲れているのにこんな夜分遅くまで

     付き合ってもらって。

     明日、休みなのだろう? しっかりと休むがいい。


☆コーネリア:はい、ありがとうございました!


□ハイネ:礼を言うのはこちらだ、ありがとう。

     では、統括とうかつとの会議があるから失礼する。


☆コーネリア:――はぁ……かっこいいな……


◇ロイド:これはこれは、女の顔をしていますなぁ~?


☆コーネリア:うわっ!? 先輩、いつから起きていたんですか!


□ロイド:ずぅーっと、起きていました。

     ったく、イチャコラしているんじゃねえっての。


☆コーネリア:別にイチャコラなんかしていません!

       それに、部長もそうですが統括補佐とうかつほさとこうやって

       お話出来ること自体が奇跡に近いんですよ!!


□ロイド:「ウィリアムズ氏、ブラックウェル氏の新進気鋭しんしんきえい

      2人の天才科学者が、イディアに研究機関を設立!」

      ――って、当時は大いに世間を騒がさせたからな。


☆コーネリア:世間だけじゃなくて全世界ですよ!

       たった、4年で世界的な研究機関にまで発展したんですから!!


□ロイド:驚いたわ。


☆コーネリア:なにがですか?


□ロイド:お前、そんなキャラだったっけ?


☆コーネリア:学生の頃から憧れていたんです!

       アスクレピオス・ラボラトリーの研究員に

       なることが唯一の願いだったのですから!


◇ロイド:わかった! わかった!!

     話が長くなりそうだから、今日はここまでだ!

     いい加減に休まないと死ぬ!!

     俺も、お前も!!


☆コーネリア:……わかりましたよ。



【6】


<ヒューリンデン NSインダストリー 第八研究所(スターロンバー秘密研究所)>


●N②:イディアから30㎞離れた地方都市、ヒューリンデン。

    そして化学企業NSエヌ・エスインダストリー第八研究所。

    通称、スターロンバー研究所がそこにあった。

    爆発事故で廃墟はいきょとなった研究所に2人の人物が調査をしている。


▽ユティ:――ねぇ。


□ハイネ:…………。


▽ユティ:――ねぇ!


□ハイネ:…………。


▽ユティ:ねぇ、たら!


□ハイネ:っつ!


▽ユティ:ちょっと返事ぐらいしなさいよ!


□ハイネ:耳元で大きな声を出すな、ユーティライネン。


▽ユティ:アンタが反応しないからでしょ!

     今更、瓦礫がれきの山となった廃墟はいきょを調べてどうするの?

     わざわざ来なくてもステラ・ディーツだっけ?

     あの子に聞いたらいいじゃない。


□ハイネ:ステラは、まだ過去に対するストレス障害の治療中だ。

     まともに聞けるはずがないだろう。

     それに、実地調査は必要だ。


▽ユティ:だからって、アスクレピオス・ラボラトリーの統括補佐とうかつほさと、

     アーク・サイエンス部長の仕事じゃないでしょ。

     行動調査こうどうちょうさ部に任せればいいじゃない。


□ハイネ:行動調査こうどうちょうさ部は「これ以上、調査する必要はない」と

     判断している。

     ――しかし、決定的な証拠が見つかっていない。


▽ユティ:決定的な証拠ねぇ……


□ハイネ:この研究所は、特殊能力やアーク鉱石こうせきに関する研究をしていた。

     ならば専門家であるお前の力が必要だ。

     やる気がないなら帰っていいぞ。


▽ユティ:そう怒らないでよ、ちょっと愚痴ぐちこぼしただけじゃない。


□ハイネ:それに——


▽ユティ:んっ?


□ハイネ:この調査についてはなるべく内密に進めたい。


▽ユティ:それなんだけどさ、どうして?

     フローレンス統括とうかつにも内緒ないしょって言うのが気になるんだけど。


□ハイネ:――ラボ内部に不穏ふおんな動きがある。


▽ユティ:えっ? 本気で言っているの?


□ハイネ:俺が冗談じょうだんを言えるような人間だと思うか?


▽ユティ:――まあ、そうね。

     アンタが、冗談じょうだんを言ったら天変地異てんぺんちいが起きてしまうわ。

     でも、不穏な動きって具体的にどうなの?


□ハイネ:そもそも、統括とうかつがここの調査を命じたのが正直疑問だ。

     お前も知っての通り、スターロンバー研究所というのは

     都市伝説の一種に過ぎなかったモノだ。

     しかし、それが現実に存在するモノであり、軍部と協力して

     至急調査をするように突然命じられた。

     それに、今回の爆破事故――あまりにも出来過ぎている。


▽ユティ:ってことは、ハイネ。

     アンタは、フローレンス統括とうかつがこの件に

     関わっていると思っているの?


□ハイネ:……できれば、そうでないことを願うばかりだ。


▽ユティ:疑っているの~?


□ハイネ:そのようにブラックウェル統括とうかつに言えばいいだろう。


▽ユティ:まるで私が統括とうかつのスパイみたいじゃない。


□ハイネ:だったら、サボっていないで仕事をしろ。


▽ユティ:はいは~い、統括補佐とうかつほさ様のおおせのままに……あっ!


□ハイネ:どうした?


▽ユティ:そういえば、アンタのお気に入りの子はどうなの?


□ハイネ:誰の事だ?


▽ユティ:とぼけちゃって~

     例のコーネリアちゃん、よ。


□ハイネ:彼女は優秀な研究員、ただそれだけだ。


▽ユティ:ほんとうに~?


□ハイネ:何が言いたいんだ、ユーティライネン・リーズベリー部長?


▽ユティ:ごめんって……冗談。


□ハイネ:無駄話むだばなしをしないで探すぞ。


▽ユティ:はーい



(間)



▽ユティ:それで、何を探しているの?


□ハイネ:実験室を探している。


▽ユティ:実験室って……見つかっているんじゃないの?


□ハイネ:公式調査で見つかった実験室は、旧式のモノしかなかった。

     それに、軍部の連中が意図いと的に深くを探らせないよう

     にしていたのが気になる。

     それに、フェルディナンドの調査記録にも、明らかな

     改竄かいざんされた痕跡こんせきがあった。


▽ユティ:なるほどねぇ~

     まあ確かに、あのお坊ちゃんについてはきな臭い噂を最近聞くしね。


□ハイネ:なんのことだ?


▽ユティ:あら、知らないの?

     中央司令部のとある将官と懇意こんいにしているらしいわよ~?


□ハイネ:そうか……なら、今回の事が厄介やっかい事に

     ならないのを願うばかりだ。

     ――んっ?


▽ユティ:どうしたの?


□ハイネ:どうして、ここにサーバーがあるんだ?


▽ユティ:別に不思議なことじゃないでしょ。


□ハイネ:電気が止められているはずなのに動作をしている。


▽ユティ:本当だ……動かしてみたら、何かあるのかしら?

     それじゃあ——


□ハイネ:ふんっ!


▽ユティ:ちょっと、いきなり能力を使って壊さないでよ!

     ……って、あれ?

     扉が……


□ハイネ:なるほど、ここが本丸かもしれないな。


▽ユティ:扉に鍵はかかっていないようね……開けるわよ。


□ハイネ:階段だ……


▽ユティ:どうやら、ビンゴみたいね。



(間)



<NSインダストリー 第八研究所(スターロンバー秘密研究所) 地下実験フロア>


▽ユティ:驚いたわね……地下にこんな立派な研究フロアがあるなんて……

     NSエヌ・エスインダストリーは小さい会社ではないけど、

     ここまでのものがそろえられるとは考えにくいわ。


□ハイネ:随分ずいぶんと広いな。


▽ユティ:ハイネ、これを見て。最新式のアーク瘴気しょうき測定器よ。

     ウチで使っているものよりも優れた性能を持っている。

     それだけじゃない。

     一目見ただけでも最新鋭の機器が此処に備わっているわ。


□ハイネ:つまり、アスクレピオス・ラボラトリーと同等、もしくは

     それ以上の実験設備なのか。


▽ユティ:ええっ、嫉妬するぐらいね。

     いいな~

     この機械欲しかったんだけど、予算が下りなかったのよね~

     だれかさんのせいでね~?


□ハイネ:ユーティライネン。


▽ユティ:なに?


□ハイネ:あれを見ろ。


▽ユティ:監視カメラね……しかも、動作している。


□ハイネ:どこかに監視室があるはずだ。


▽ユティ:なら、あそこに立派な扉があるわ。

     行きましょ。



(間)



□ハイネ:ふんっ!


▽ユティ:……アンタねぇ、扉が開かないからって壊すんじゃないわよ。


□ハイネ:9桁の暗証番号を解読するには、2日程度はかかる。

     今は、少しでも時間が惜しい。


▽ユティ:防衛システムとかが作動したらどうするのよ。


□ハイネ:問題ない、全部壊せばいい。


▽ユティ:変なところ脳筋なんだから……

     それにしても、ここも立派な部屋ね。

     うらやましい限りだわ。

     あっ、名札が——Wegener Starlonverウェゲナー・スターロンバーって

     どうやらここに黒幕がいたようね。


□ハイネ:監視カメラの映像が視れないように壊されているな。

     事故で壊れたというよりは、意図的に壊した

     可能性がある。

     この部屋をくまなく探したほうがいいな。


▽ユティ:だけど、徹底して壊されているわね。

     余程、不都合なモノがあったようだわ。


□ハイネ:事故に乗じて隠ぺい工作を図ったか。


▽ユティ:だ・け・ど


□ハイネ:何をしている?


▽ユティ:でも、どこか違和感いわかんを感じるのよね。

     地下施設を見つけて欲しくなければ、ぜーんぶ爆発しちゃえば

     いいのになって。


□ハイネ:時間がなかったのだろう。


▽ユティ:そう! 時間がなかった!

     ならば……ビンゴっ!


□ハイネ:何かを見つけたのか?


▽ユティ:ビデオデッキにテープを1本発見!

     わかるわかる、入れっぱなしって、ついやっちゃうのよね~

     よいしょっと!


□ハイネ:取れそうか?


▽ユティ:うーん、瓦礫がれきが邪魔して無理そう。

     それにデッキが壊れているし、取り出すのは中々――


□ハイネ:後ろに下がっていろ。


●N②:ハイネはそう言うと、無言で瓦礫を持ち上げて退かす作業を繰り返していく。

    常人では有り得ないスピードで行われた作業にユティはしばらく目が点になっていた。


▽ユティ:……ねぇ、ハイネ。

     アンタの前世ってゴリラだったりしない?


□ハイネ:遠回しにものすごく失礼な事を言っているだろう、お前。



【7】


<NSインダストリー 第八研究所(スターロンバー秘密研究所) 入り口前>


△N③:証拠のビデオテープを持ち帰った二人は研究所を出て、

    そして入り口前に停めたユーティライネンの車内にいた。


▽ユティ:とりあえずは復元可能なところはやったわ。

     とは言え、100%出来たわけじゃないからノイズ

     が入りまくりだけど。


□ハイネ:構わない、映像が少しでも確認できればそれでいい。


▽ユティ:それじゃあ、再生するわよ。


△N③:ビデオテープが回り始める。

    モニターには、ノイズ混じりのブツ切りにされた音声と

    乱れた映像が映し出された。


▽ユティ:うーん、やっぱりダメかな……


□ハイネ:まだ再生時間がある、最後まで見よう。


△N③:それでも映像は変わらず、よくわからないままだった。

    しかし——


□ハイネ / ▽ユティ:えっ?


△N③:突然、映像が鮮明に映ったことに二人は驚いた。

    黒の背景に、『第29回、実験開始』と白の文字が映し出された。


□ハイネ:これは記録か?


▽ユティ:なんとか計画? だめだわ、ノイズが入って肝心なところが聴こえない。


△N③:すると、ひとりの子供の映像が映し出される。


▽ユティ:っつ! この子は……!!


□ハイネ:ステラ……!


△N③:手術台の上には拘束具で身体を固定されたステラがいた。

    よく見ると、ステラ以外にも何人かの子供たちも

    同様の状態だった。

    画面越しでもハッキリと分かる恐怖の色に染った顔に

    失禁する子や狂ったように笑う子供たちの姿が

    異様なまでに動じない研究員たちは慣れた様子で

    薬剤の投与を行う。


●ステラ:イヤァァァァア!


△N③:ステラと子供たちの泣き叫ぶ声が車内に響き渡る。

    小さな身体で必死にもがいても外れることの無い拘束具。

    バイタルサインと心電図の異常を告げるモニターの警告音が

    惨劇の映像と共に鳴り響いた。


▽ユティ:ひどい……


□ハイネ:…………。


△N③:そして、子供がひとり、またひとりと——

    全身を痙攣けいれんさせて動かなくなる。

    泣き叫ぶ声の数も少なくなっていき、

    ステラだけが泣き叫んでいた。


●ステラ:いたい! いたいよおおおおおお!

     助けて、誰かたすけ——


△N③:モニターの映像が黒くなる。

    ユーティライネンが停止のボタンを押していた。


□ハイネ:なにを——


▽ユティ:これ以上は見てはダメよ……

     怒りで判断が鈍くなってしまう。


□ハイネ:――くそっ! 奴らはこんなことをしていたのか!!


▽ユティ:まさか、NSインダストリーがここまで腐っていたとは

     想像もしなかったわ。

     ――このビデオ、さらに修復が出来ないかどうかやってみるわ。


□ハイネ:しかし、それでは先程の映像を視ることになるぞ。

     大丈夫か?


▽ユティ:正直言って知りたくなかった。

     出来れば、映像を二度と見たくない。

     でも……知ってしまった以上は看過できないわ。

     ひとりの人間としても、ひとりの科学者としても。

     こんなこと、許されるはずはない。

     いや、許しちゃいけない。


□ハイネ:ユーティライネン……


▽ユティ:ハイネ。アンタはどうするの?


□ハイネ:いきなり映像を見せるのは悪手だ。

     俺独自でNSインダストリーの内部調査を行おう。

     アテはある。


▽ユティ:そう、気を付けてね。

     行動調査こうどうちょうさ部に知られると、きっと妨害が入ると思うから。


□ハイネ:できれば、統括とうかつにも黙ってもらえるとありがたいんだが。


▽ユティ:善処ぜんしょしておくわ。

     ――でも、統括とうかつ……フローレンスは今回のことを

     実は知っていたりしないかしら?


□ハイネ:……俺が知る限り、アイツはこんな事に荷担を

     するような愚か者でない筈だ。


▽ユティ:長年連れ添ったアンタが言うんだもんね。

     でもさ、他人の全てを知っている訳じゃないでしょ?


□ハイネ:お前はどうなんだ?


▽ユティ:そうね……すべてを信用するなとは言わない。私の事もね。

     けど、この事にアンタと同様に怒っていることは信じて欲しい。


□ハイネ:それだけで十分だ……頼んだぞ。


▽ユティ:りょーかい。

     ――ほら、これでもとりなさい。


□ハイネ:キャンディ?


▽ユティ:ラムネ菓子よ、マシュー提督ていとくのラムネキャンディー。

     それ、手軽にブドウ糖がとれて頭がすっきりするわよ。

     ちなみに、アタシの大好物♪


□ハイネ:俺には無用だ。


▽ユティ:だったら、ステラにあげなさい。

     ――慰めになるかはわからないけど、あの子の人生には

     あまりにも苦しみがあふれすぎている。


□ハイネ:…………。


▽ユティ:ステラだけじゃない、あのビデオに映っていた他の子供たちも

     おそらくは孤児なんでしょうね。

     人種・種族関係ない。ただ実験体であることが平等。

     世界はキレイ事ばっかりじゃないっていうのは

     理解しているけど……

     だからと言って、アタシは受け入れるつもりはないわ。


□ハイネ:――あぁ、そうだな。



【8】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部・ステラの病室>


☆コーネリア:――ストレンジラブ部長、現在の薬剤投与量では危険です。

       ここ最近では、治療中の痛みが悪化している

       印象を受けます。


△ヴェルナー:エンゲルマン君、ステラは痛みに耐えながら努力して

       治療を受けている。

       彼女の努力を無駄にする気かね?


☆コーネリア:そ、そんなことは……


△ヴェルナー:それに、治療に痛みを伴うことは何らおかしい話ではない。

       〝覚醒療法かくせいりょうほう〟――瘴気しょうき発生を抑えた人工アーク鉱石こうせきを身体に

       定着させる以上、通常の治療とは予測出来ないことが

       起こりえる事は想定済みだ。


☆コーネリア:しかし、彼女は10歳の少女なんです。

       それに、スターロンバー研究所でのトラウマも相まって、

       苦痛が長引ければ精神的な負担が

       より深刻になる可能性があります。

       やはり、定着活性剤の投与量を減らしたほうが……


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:…………。


△ヴェルナー:君の患者を思う気持ちは大事なものだ。

       しかし我々が行っているのは先進的なものであり、

       不明な部分が多い。

       少しでも解明し、成功へと近付ける。

       それが我々の仕事であり、患者、ステラ・ディーツを

       救う事にも繋がる。


☆コーネリア:……はい。


△研究員B:投薬完了しました。


●ステラ:はぁ……はぁ……


☆コーネリア:――ステラ!

       大丈夫、もう終わったから……よく我慢したね……


△ヴェルナー:…………。


□ハイネ:ストレンジラブ医療部長。


△ヴェルナー:おや?

       ウィリアムズ統括補佐とうかつほさか、忙しいのにステラの見舞いに

       来てくれて感謝するよ。


□ハイネ:大したことはない。

     彼女は今、どうなっている?


△ヴェルナー:……ふむ、治療中の痛みがここ最近は悪化していてね。

       あぁ、心配する必要はない。

       〝覚醒療法かくせいりょうほう〟に使用する定着活性剤の

       副作用と考えられる。

       痛みを伴う分、定着が出来ている筈だ。


□ハイネ:全ての治療が痛みを伴わずに済むなどと言えない事

     は理解しているが、彼女は身体的だけじゃなく、

     精神的な部分にもダメージを負っている。

     それに、苦痛緩和も治療の一環いっかんだろう。

     出来れば、鎮痛ちんつうについても心配りをしてほしい。


△ヴェルナー:それは勿論もちろんだとも、検討しよう。



(間)



□ハイネ:――ドクター・エンゲルマン、彼女の容体ようだいはどうだ?


☆コーネリア:ええっ、今のところは落ち着いています。

       ステラ、今日はウィリアムズさんが来てくれたわ。


●ステラ:…………。


☆コーネリア:どうしたの?


●ステラ:…………。


□ハイネ:どうした、ドクターの後ろに隠れて……はっ!


◇ロイド(回想):アンタ、顔が怒っているような顔をしているんだから

         笑わないとダメだろ。

         ほら、こうやって口角を指で持ち上げて

         ニッとやればいいんですよ! ほら!


◇ハイネ:ステラ。


△N③:そう呼びかけるとハイネは指で自らの口角を持ち上げ、

    ぎこちない笑顔を浮かべる。


□ハイネ:だい、じょうぶだ……こわくないぞ……?


△N③:予想外の行動にステラだけじゃなく、コーネリアを含めた

    他の研究員たちも呆然ぼうぜんとする。


◇ロイド:しつれいしま——って、なに、この空気?

     あれ? 統括補佐とうかつほさもなにやって——ぶはっ!?

     なにをしているんっすか!

     めっちゃおもしろい展開になっているんじゃないっすか!!


●研究員A:ちょっと、ロイドさん!?


□ハイネ:――やはり、慣れないことをするもんじゃないな。


●ステラ:……んな、かお(へんな、かお)

     お……さん、……ろ……ね(おじさん、おもしろいね)


☆コーネリアM:今、言葉を……!?


□ハイネ:そうか……おもしろいのか……


●ステラ:んっ……お……おもしろい。

     さいしょ、こわかっ……た、ごめん、な……さい。


□ハイネ:構わない、良く言われるから慣れている。

     そうだ……これ、食べるか?


●ステラ:……? ……これ、キャンディー?

     ……くれるの? ……たべても……いいの?


□ハイネ:食べても構わないか、ドクター・エンゲルマン?


☆コーネリア:ええっ、もちろんです。


●ステラ:いた、だき……ます……お薬じゃない……苦くない……

     ほんとに、ラムネの……キャンディーだぁ……

     あまい……おいしい……おいしい……おいしい……ふふ。


□ハイネ:よかったな。


●ステラ:あまい、しゅわしゅわ、おいしい……


☆コーネリア:ステラ……


△N③:キャンディーを頬張り嬉しそうな顔を浮かべたステラ。

    瞳からポロポロと涙を零し始めたのだが、

    ハッと気づき身体が震えだす。


●ステラ:あっ……ごめんなさい……


□ハイネ:ステラ、何故あやま――


▽ユティ(回想):――あの子の人生には苦しみがあふれすぎている。


□ハイネ:……ステラ、謝らなくていいんだ。

     おいしいときは、おいしいって言って良いんだ。

     泣きたい時は……泣いていいんだ。


●ステラ:っっう……ふっ……うぁぁあああぁぁあん!

     怖かったよぉおおおお、怖かったぁぁぁあ!!!

     うわぁぁぁぁぁぁん!!!!


□ハイネ:――大丈夫だ、私はお前を守るためにここにいる。

     それに、私だけじゃない、ここにいる皆がお前の味方だ。

     ……最後まで守ってやるとも。



(間)



●ステラ:……おじさん……もう、行っちゃうの……?


□ハイネ:すまないな、やらなければいけないことが他にあるんだ。


●ステラ:そう、なんだ……


□ハイネ:――キャンディーはおいしかったか?


●ステラ:うん……おいしかった……!


□ハイネ:なら、次来るときも持ってくるとしよう。


●ステラ:本当に……!!


□ハイネ:あぁ、約束しよう。


●ステラ:うん、やくそく……またね。



(間)



☆コーネリア:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ


□ハイネ:どうした、ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:本当にありがとうございました!


□ハイネ:礼には及ばない、少しでも彼女の心が和らいだのなら

     嬉しい限りだ。


☆コーネリア:……私。


□ハイネ:んっ?


☆コーネリア:私……必ず、ステラを救ってみせますから!


□ハイネ:――あぁ、君なら出来る。期待している。


☆コーネリア:はい!!

       呼び止めてしまってすみません! 失礼しました!!


□ハイネ:――頼んだぞ、ドクター・エンゲルマン。

     そして、その輝きを最後まで失わないでくれ……


▽ユティ:冷血漢れいけつかんと呼ばれた男がここまで丸くなるとは驚きだわ。


□ハイネ:ユーティライネン。


▽ユティ:映像の解析が終わったわ。


□ハイネ:それで。何かわかったのか?


▽ユティ:…………。


□ハイネ:どうした、黙っていてもなにもわからないぞ。


▽ユティ:スターロンバー研究所についてなんだけど

     ……どうやら、ラボが関与している可能性があるの。


□ハイネ:なっ……!?


▽ユティ:だけど、まだ可能性の段階よ。

     私の部屋で、一緒に映像を視て頂戴ちょうだい


□ハイネ:わかった、行こう。


△N③:物陰から様子をうかがう、ひとりの人物がいた。


◇ロイド:――さて、俺もそろそろ動きますかねぇ。



(To be continued......)

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