【声劇台本】流星のおとし子、星の涙(アークホルダー・フラグメントレコード Ⅰ)

家楡アオ

第1話(♂:♀:不問=3:2:0)

【台本名】

 アークホルダー・フラグメントレコード

 Fragement.01 流星のおとし子、星の涙 / 第1話

 副題:『在りし日の記憶と、その始まり』


【作品情報】

 脚本:家楡いえにれアオ

 所要時間:35~40分

 人数比率 男性:女性:不問=3:2:0(総勢:5名)


【登場人物】

 コーネリア・エンゲルマン / Cornelia Engelmann

  <Data>性別:女、年齢:20代前半、台本表記:コーネリア

  <Overview>

   物語の主人公で、アスクレピオス・ラボラトリー医療部所属の研究員。

   真面目でまっすぐな性格をしており、そして責任感が強い。

   ステラの主治医として、彼女の様子には常に気を配っている。


 ステラ・ディーツ / Stella Dietz

  <Data>性別:女、年齢:10歳、台本表記:ステラ

  <Overview>

   物語のもうひとりの主人公で、重症アーク瘴気被曝者として医療部に

   入院し、覚醒療法かくせいりょうほうによってアークホルダー(特殊能力者)となった。

   〝ある実験〟の被害者であり、そのショックによって心を閉ざしている。

   ※


 ハイネ・ウィリアムズ / Heine Williams

  <Data>性別:男、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ハイネ

  <Overview>

   アスクレピオス・ラボラトリーの統括補佐とうかつほさ(ナンバー2)を勤める男性。

   常に厳しい口調で喋り、冷静な様子を崩すことが無い。

   少し天然なところがある。


 ヴェルナー・ストレンジラブ / Werner Strangelove

  <Data>性別:男、年齢:40~50代、台本表記:ヴェルナー

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリー医療部部長であり、

   コーネリアの直属の上司。

   世界的権威のある研究者で、温厚おんこう聡明そうめいな人物。


 ロイド・ヴィーデマン / Lloyd Wiedemann

  <Data>性別:男、年齢:20代前半~20代後半、台本表記:ロイド

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部所属の研究員。

   軽薄けいはくなお調子者ではあるが面倒見がよく、後輩のコーネリアの事を

   気にかけている。


 研究員A……医療部所属の臆病おくびょうな性格をした女性研究員。

       名前は『リズ・ヴァージニア』

 研究員B……医療部所属の真面目な男性研究員。

       名前は『マイケル・グッドウィル』

 警備員……アスクレピオス・ラボラトリー危機管理ききかんり部の警備員。

 調査員……アスクレピオス・ラボラトリー行動調査こうどうちょうさ部の調査員。


※詳細なキャラクター設定は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073232406047



【用語説明(簡易版)】

 『アーク鉱石』……莫大ばくだいなエネルギーを持つ不思議な物質で、人体に

          有害となる瘴気しょうきを放つ。

 『アーク瘴気』……アーク鉱石から放たれる瘴気しょうきで、瘴気しょうきさらされた

          ヒトを『被曝者ひばくしゃ』と呼ぶ。

 『アーク・ホルダー』……『アーク瘴気しょうき』に耐性と特殊な能力を持つ存在。

 『アスクレピオス・ラボラトリー』

   ……今回の物語の舞台となる最先端テクノロジー企業兼研究所。

     通称、ALエーエルラボ


※詳細な設定資料は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073231929525


【台本・配役テンプレート】

 台本名;

  アークホルダー・フラグメントレコード

  Episode.01 流星のおとし子、星の涙 / 第1話

 URL https://kakuyomu.jp/works/16818093073232574599


 <配役>

  コーネリア・エンゲルマン:

  ステラ・ディーツ:

  ハイネ・ウィリアムズ:

  ヴェルナー・ストレンジラブ:

  ロイド・ヴィーデマン:


※配役検索に役立ててください。

☆:コーネリア

●:ステラ、研究員A、アナウンス、N①

□:ハイネ

△:ヴェルナー、警備員、研究員B、N②

◇:ロイド、調査員


――――――――――――――――――――――――――――――――――


【0】


<アスクピレオス・ラボラトリー ???>


●アナウンス:緊急事態発生、緊急事態発生!

       ラボ全職員に通達、至急避難をしてください。

       緊急事態発生、緊急事態発生!

       ラボ全職員に通達、至急避難を——


●N①:けたたましいサイレンの音と共に、緊急避難を繰り返し告げられる。


☆コーネリア:ハァ……ハァ……!


●N①:ひとりの女性研究員が、避難方向とは反対に向かって走る。


☆コーネリア:お願い、無事でいて……ステラ……!!


△警備員:っつ! 何をしているんのですか!!

     ドクター・エンゲルマン! こちらは危険です!

      今すぐ避難を!!


☆コーネリア:ステラは……


△警備員:えっ?


☆コーネリア:ステラ・ディーツは、どこにいるの……!!


△警備員:……警戒けいかい対象、ステラ・ディーツは、

     ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ交戦こうせん中です!


☆コーネリア:ぐっ!


△警備員:お待ちください! 特殊能力者とくしゅのうりょくしゃ同士の戦いです!!

     巻き込まれますよ!!


☆コーネリア:はなし……てっ……!!


△警備員:お待ちください! ドクター!!

     ドクター・エンゲルマン!!


☆コーネリア:くっ……火の勢いが強い……!

       でも、早く行かないと!


●ステラ:ああああああああ!!


☆コーネリア:このさけび声は……ステラだ……

       ステラ! ステラ!!

       どこにいるの、ステ――


●N①:爆発の衝撃波しょうげきはによって、コーネリアの身体が思いっきり

    壁に打ち付けられる。


☆コーネリア:ぐっ……あっ……いったぁ……

       でも、こ、んな……ところで……!!

       ――あれは……ウィリアムズ統括とうかつ――


●N①:彼女のひとみに映る光景。

    傷だらけの少女が倒れており、そして

    その少女の首をつかんで、

    ひとりの男性がナイフを首元にあてていた。


☆コーネリア:だめ、やめて……


●N①:男性がコーネリアに気付き、覚悟かくごを決めた表情をした。

    そして、ナイフを振り上げる。


☆コーネリア:だめええええええ!!



(間)


<ヘリックス・ライフライン・カンパニー ???>


◇ロイド:どわぁ!? びっくりしたー!!


☆コーネリア:あ、あれ……? わたし……


◇ロイド:おいおい、大丈夫か?

     いきなりさけびだしたもんだから――


☆コーネリア:ステラは!?


◇ロイド:うおっ!!


☆コーネリア:ロイド先輩、ステラは!?


◇ロイド:おいおい、落ち着けって!

     ここはラボじゃねえぞ。


☆コーネリア:あっ……


◇ロイド:それに、ステラちゃんは今、任務中だろ。


☆コーネリア:そっか……夢、だったんだ……

       最悪だぁ……


◇ロイド:――あの時の夢を見たのか?


☆コーネリア:はい……あまりにもリアル過ぎて……

       っつ! 頭が痛い……


◇ロイド:ふぅ……最近はいそがしかったしな。

     まともに寝ていないだろ?


☆コーネリア:寝ていますよ。


◇ロイド:嘘つけ、さっきまで気を失ったように寝ていたんだぞ。


☆コーネリア:あっ……そっか、レポートを書いていて……


◇ロイド:今は落ち着いているから、ちゃんと休んだほうがいいぞ。

     レポートは明日にしろ。

     締め切りまで、まだ期日があるんだからさ。


☆コーネリア:そうですね……わかりました。


◇ロイド:それに、ステラちゃんのそばにはアレックス隊長がいる。

     あのおっさんの近くにいれば、とりあえずは安心だろ。


☆コーネリア:はい……それじゃあ、お言葉にあまえて休んできます。


◇ロイド:ごゆっくり~

     ――さて……で、いつになったら出てくるんですか?

     ハイネ先輩?


□ハイネ:……気付いていたのか。


◇ロイド:そりゃあね~

     それに、アンタだったらアイツの悲鳴ひめいひとつでも聞いたら

     速攻そっこうけつけるでしょ?


□ハイネ:…………。


◇ロイド:って、冗談じょうだんっすよ、冗談じょうだん

     先輩ってポーカーフェイスだから、怒っているのかどうか

     わからないっすよ~


□ハイネ:言われ慣れている。


◇ロイド:ほら、こうやって口角こうかくを指で持ち上げて

     ニッとやればいいんですよ! ほら!


□ハイネ:…………。


◇ロイド:ちょっと、黙っていないで何か言ってくださいよ。

     俺がスベったみたいじゃないですか……


□ハイネ:いや、なつかしいと思ってな。


◇ロイド:なつかしい?

     今日って……ああっ、確かにそうっすね……

     ラボにいた頃を思い出しますよ。

     ――まさか、こうやって離れることになるとは

     思いませんでしたけど。


□ハイネ:後悔こうかいはしているのか?


◇ロイド:どうでしょうねぇ……まあ、全くないと言ったらウソっすよ。

     でも……ありゃあ、いただけないですよ。

     俺にも科学者としての矜持きょうじがありますから。


□ハイネ:――そうだな。


◇ロイド:極東きょくとうの言葉に「知らぬが仏」ってあるんっすけど、

     良く出来た言葉っすよ。

     無知むちであることが一番不幸にならずに済む。


□ハイネ:〝あの事件〟からちょうど2年経過したのか。


◇ロイド:コーネリアのヤツも、そんな日にあの時の夢を見るなんて。

     ……何とも、数奇すうきな事があるもんだ。



☆コーネリア:アークホルダー・フラグメントレコード、エピソード1


●ステラ:『流星りゅうせいのおとしほしなみだ』、第1話。



【1】


<アスクレピオス・ラボラトリー エントランスホール>


△N②:時は二年前へとさかのぼる。

    多民族国家・ユグドラシル誓約者せいやくしゃ自由連邦、

    研究学園都市けんきゅうがくえん『イディア』、アスクレピオス・ラボラトリー本社。


●アナウンス:弊社へいしゃ、アスクレピオス・ラボラトリーは研究機関であり、

       臨床医療りんしょういりょう、バイオテクノロジーそしてアーク鉱石こうせきに関する

       研究開発などの幅広はばひろ領域りょういき事業じぎょう展開てんかいしている

       最先端さいせんたんテクノロジー企業きぎょうです。

       統括制御とうかつせいぎょ部を中核に、7つの部署ぶしょ併設へいせつし、

       日夜にちや研究けんきゅうはげんでいます。

       責任者であるフローレンス・ブラックウェル統括とうかつは、

       フレスベルク連邦れんぽう科学院かがくいん大学を卒業後に、

       当時のご学友がくゆうであったハイネ・ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ

       と共に弊社へいしゃ創設そうせつしました。


△N②:時刻は午前9時。

    エントランスホールには多くの人々が行きかう。

    医療いりょう部所属のコーネリア・エンゲルマンもそこにいた。

    彼女のPHSピー・エイチ・エスに着信が入る。


☆コーネリア:はい、こちら医療いりょう部のエンゲルマンです。

       はい……はい……急患きゅうかんですね!

       わかりました、今すぐ向かいます!


(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療局ラボ>


●研究員A:ドクター・エンゲルマン!


☆コーネリア:患者はどこにいるの?


●研究員A:ご案内します!


☆コーネリア:患者の説明を。


●研究員A:患者は10歳女性で、高濃度こうのうどアーク瘴気しょうき曝露ばくろによる

      重度瘴気被曝者です!


☆コーネリア:10歳……!

       どうして、そんなおさない子供が瘴気しょうき被曝ひばくを?


●研究員A:つい先程さきほど搬送はんそうされてきたばかりなので詳細不明しょうさいふめいです。

      なにせ、ハイネ・ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ

      突然とつぜん連れてきましたので……


☆コーネリア:統括補佐とうかつほさのような偉い人がどうして……

       いいわ、とにかく急ぎましょう!


●研究員A:はい!



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療局ラボ・中央処置室>


☆コーネリア:到着しました! 患者はどこに?


□ハイネ:来たか、こっちだ!


☆コーネリア:医療いりょう部のコーネリア・エンゲルマンです!

       私がますので、その子を搬送はんそうドローンに!


□ハイネ:頼んだ。

     君たちの手で、この子を助けてやってくれ。


☆コーネリア:わかりました、全力をくします!

       リズ、今すぐ緊急処置しょち室の手配てはいを!


●研究員A:は、はい!



(間)



☆コーネリア:アーク瘴気しょうき急性中毒きゅうせいちゅうどく

       ショックバイタルになっている。

       輸液ゆえき速度そくど全開ぜんかいにして、追加の静脈路じょうみゃくろ確保かくほを!


△研究員B:かしこまりました。


●研究員A:さらなる血圧低下けつあつていかを確認!


☆コーネリア:ノルアドレナリンの持続注射じぞくちゅうしゃを開始!

       元々入っているルートの側管そっかんから入れて!

       念のために、ピトレシンの準備も!!


●研究員A:了解です!


☆コーネリア:血中けっちゅうアーク瘴気しょうき濃度は?


△研究員B:血液ガス迅速じんそく検査にて3200μg/dLマイクログラム・パーデシリットルと基準値の300倍!

      危険域きけんいきです!!


☆コーネリア:アーク瘴気しょうきアンタゴニストを10アンプルと、

       ブラッドアクセスカテーテルを用意して!

       アンタゴニストは原液げんえき急速投与きゅうそくとうよ

       カテーテルを入れた後に、血液透析けつえきとうせきを開始する!


△研究員B:わかりました、薬品と機材を至急しきゅう手配します。


●研究員A:メディカルエンジニアに透析とうせき実施じっし連絡れんらくをしました!


☆コーネリア:ありがとう!

       ――絶対に……助けるからね……!



(間)



△研究員B:――バイタル、安定してきました。


●研究員A:透析とうせき開始して4時間経過、血中アーク瘴気しょうき濃度は

      95μg/dLマイクログラム・パーデシリットルまで低下しました!

      安全域あんぜんいきです!


☆コーネリア:そう……なんとか落ち着いたわね……良かった……


●N①:拍手はくしゅをしながら、熟年じゅくねんの男性研究員が入ってきた。


△ヴェルナー:素晴らしい。


☆コーネリア:ストレンジラブ部長……!


△ヴェルナー:話は聞いたよ、エンゲルマン君。

       未成年の重症アーク瘴気しょうき患者を救った、と。

       若いながらも大したものだ。


☆コーネリア:そ、そんなこと……ありがとうございます。


△ヴェルナー:助手に入ったヴァージニア君に、グッドウィル君もお疲れ様。

       ――疲れているところ申し訳ないが、エンゲルマン君。

       少し話があるんだが大丈夫かな?


☆コーネリア:えーっと……


●研究員A:大丈夫ですよ、私たちで見ておきますから。


☆コーネリア:大丈夫?


●研究員A:はい!

      それに、そろそろ搬送はんそうドローンが来ます。

      なので、後は任せてください!


☆コーネリア:ありがとう。

       それじゃあ、お願いね。


△ヴェルナー:話はついたようだね。

       では、行こうか。



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部・部長室>


☆コーネリア:あ、あの部長……話というのは……


△ヴェルナー:とりあえず、そこのソファに座っていてくれ。


☆コーネリア:わかりました。


△ヴェルナー:あぁ、私だ。

       ホットコーヒーを3つ用意してくれ。


☆コーネリアM:3つ? 2つじゃなくて?


●N①:すると、とびらをノックする音が聴こえてくる。


□ハイネ:ストレンジラブ医療部長、ハイネ・ウィリアムズ統括補佐とうかつほさです。


☆コーネリア:えっ?


△ヴェルナー:あぁ、待っていたよ。入りたまえ。


□ハイネ:失礼します。


△ヴェルナー:――エンゲルマン君、改めて紹介しよう。

       ハイネ・ウィリアムズ統括補佐とうかつほさだ。

       ウィリアムズ君、こちらが先程治療にあたった

       コーネリア・エンゲルマンだ。


□ハイネ:こうやって顔を合わせるの初めてだな。

     ハイネ・ウィリアムズだ、急にも関わらず対応をして頂き感謝する。


☆コーネリア:いえ……患者を治療する私たちの役目ですから。

       改めて、お初にお目にかかります。

       御評判ごひょうばんはかねがね……


□ハイネ:君が優秀ゆうしゅうだと、ストレンジラブ医療部長から聞いてくれる。

     是非ぜひともラボで君の力を発揮してくれ。

     期待している。


☆コーネリア:あ、ありがとうございます!


□ハイネ:早速だが、患者の容体ようだいを教えてもらってもいいか?


☆コーネリア:はい。

       今回は、高濃度こうのうどのアーク瘴気しょうき曝露ばくろによる

       急性中毒きゅうせいちゅうどく症状を認めました。

       それによって拒絶きょぜつ反応を起こし、

       急性循環不全きゅうせいじゅんかんいたっていたと考えます。

       血中アーク瘴気しょうき濃度の著名高値ちょめいこうちと、

       GVHDジー・ブイ・エイチ・ディーのように異常リンパ球が多く認めました。


□ハイネ:アーク瘴気しょうきの除去は出来たのか?


☆コーネリア:緊急処置で安全域あんぜんいきにまで改善はしましたが、

       完全ではありません。

       臓器ぞうきしょうがい障害も重度で、自浄じじょう作用による完全な除去

       は難しいです。


△ヴェルナー:となると、定期的な投薬とうやく維持透析いじとうせきが必要な感じかね?


☆コーネリア:それだけで済めばいいのですが……


□ハイネ:状況じょうきょう深刻しんこくそうだな。


☆コーネリア:免疫めんえき系にも異常があるため、

       感染症や膠原病こうげんびょうのリスクがあります。


△ヴェルナー:ふむっ……

       確かに補体ほたい全般ぜんぱん的低下に、好酸球こうさんきゅう増多ぞうた

       も認められる……免疫不全めんえきふぜん状態だな。


□ハイネ:すると、つまり彼女は……


☆コーネリア:はい……重度瘴気しょうき被曝ひばく者として今後も集中治療が必要です。


△ヴェルナー:未成年の瘴気しょうき被曝ひばく症例しょうれいは無い訳ではないが、

       成人と比べると限りなく少ない。

       ほとんどの報告で、血中アーク瘴気しょうき濃度を

       安全域にしたとしても合併症がっぺいしょうによる

       死亡が多いとされている。

       平均生存率はおおよそ15~20%と予後不良よごふりょうだ。


□ハイネ:…………。


☆コーネリア:幸運な事に、彼女のバイタルは落ち着いています。

       それでも、ステラの命はまだ危険にさらされているため

       油断は出来ません。


□ハイネ:んっ?


△ヴェルナー:どうしたのかね?


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン、どうして彼女の名前を知っている?


☆コーネリア:えっと、その……腕にIDナンバーと、Stella Dietzステラ・ディーツ

       名前の印字いんじがあったものですから……


□ハイネ:そうか……

     ならば、こちらから情報開示をしなければならないな。

     この少女――ステラ・ディーツは、ある研究所で

     収容しゅうようされていた実験体だ。


☆コーネリア:えっ……?


△ヴェルナー:…………。


□ハイネ:国家機密こっかきみつ抵触ていしょくする可能性があるため詳細しょうさいせる。

     軍部ぐんぶからブラックウェル統括とうかつに調査の依頼があり、

     そこで私と行動調査こうどうちょうさ部による特別チームを編成へんせいし、

     東にあるヒューリンデンに向かった。

     その後、軍の調査隊と合流し、研究所についた時には

     爆破事故が起きていて火事になっていた。


△ヴェルナー:事故については何かわかっているのかね?


□ハイネ:いや、まだわかっていない。

     そもそもどうして爆発が起きたのかもはっきりはしていない。


☆コーネリア:ステラは、その事故の生存者ということですか?


□ハイネ:唯一ゆいいつの、な。


(回想シーン:開始)


●N①:ステラがラボに来る前日、ヒューリンデン某所ぼうしょ


◇調査員:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ! こちらに生存者が!!


□ハイネ:状況は!


◇調査員:この瓦礫がれきの下に少女がひとりいます!

     幸い下敷したじきにはなっていませんが、すぐに救出しなければ危険です!


□ハイネ:あなせまいな……広げられないか?


◇調査員:重機をここまで運ぶのに時間がかかります。

     それに火事がこちらまで来ています。

     人力じんりきで広げたところで我々も手遅れになる可能性が……


□ハイネ:聞こえるか!


◇調査員:統括補佐とうかつほさ!?


□ハイネ:私の名前は、ハイネ・ウィリアムズだ!

     君を助けに来た者だ! 残された時間は少ない!

     生きたいと思うなら、私の手をつかめ!!


●N①:倒れていた少女は、ハイネの声に呼応こおうする様に

    ゆっくりと立ち上がった。

    ゆらゆらと歩きながら、一歩ずつ歩き出す。

    顔はどこかかげりがあるも、ひとみにはまだ光があった。


□ハイネ:あともう少しだ!


●N①:少女は手を伸ばし、ハイネの手首を掴んだ。


□ハイネ:ぐっ……!


●N①:少女の手がハイネの手首を掴んだ瞬間、

    火に焼かれるような痛みを感じる。

    しかし、彼は力をゆるめることなく少女の腕をつかみ、

    引き上げた。


□ハイネ:よく、頑張ったな……


(回想シーン:終了)


□ハイネ:この手首の傷は彼女が生きようとしたあかしだ。


☆コーネリア:そうだったのですね……


△ヴェルナー:なるほどな……ステラ・ディーツは我々の患者

       だけじゃなく、君たちの調査における重要な

       証人しょうにんとなるのだね。


☆コーネリア:ですが……彼女の容体ようだいを考えると……


□ハイネ:やはり、厳しいのか?


☆コーネリア / △ヴェルナー:…………。


□ハイネ:沈黙が答え、か。


△ヴェルナー:いや——彼女を救える手が無い訳じゃない。


☆コーネリア / □ハイネ:えっ?


△ヴェルナー:大きな博打ばくちになる。

       ——〝覚醒療法かくせいりょうほう〟を試してみないか?


☆コーネリア:部長! それって……


△ヴェルナー:ステラを後天的こうてんてき特殊能力者とくしゅのうりょくしゃ

       ――すなわち、覚醒者かくせいしゃへと至らせる。


□ハイネ:聞いたことがある。

     元々はシュレースヴィヒ帝国の軍研究所が戦力拡大を目的に、

     人工的に特殊能力者を産み出す研究で発見された、

     重症アーク瘴気しょうき患者の治療法だったな?


△ヴェルナー:そうだ、覚醒者かくせいしゃに至らせることで、

       身体がアーク瘴気しょうきに対して耐性たいせいを持つようになる。


☆コーネリア:確かに有効な手かもしれませんが——


△ヴェルナー:エンゲルマン君、キミの心配は理解できる。

       帝国は一度も成功することは出来なかった。

       だが……ラボのパートナー企業であるヘリックスが

       1症例ではあるが、成功した事例もある。


□ハイネ:ならば、ヘリックスに協力要請ようせいを——


△ヴェルナー:いや、それは不可能だ。

       ヘリックスのオーガスタ博士は「世界の均衡きんこう

       くずす恐れがある」と報告し、

       研究資料を焼却しょうきゃく処分したそうだ。


☆コーネリア:そんな……


△ヴェルナー:だが、我々は何も指をくわえて黙っていたわけではない。

       医療部は、アーク・サイエンス部と合同に

       類似るいじ研究を進めてきた。

       それで、シュレースヴィヒの覚醒療法かくせいりょうほうを改良した

       独自療法を開発した。


□ハイネ:成功する確率は?


△ヴェルナー:正直言うと、ゼロに近い。

       だが、ゼロではない。


☆コーネリア:覚醒療法かくせいりょうほうはまだ臨床試験りんしょうしけんもしていません。

       今、あの子に適用てきようしてしまうのは危険です。


△ヴェルナー:エンゲルマン君、キミの言っていることは正しい。

       しかし、我々には選択肢せんたくしはないのだよ。


☆コーネリア:それは……


△ヴェルナー:げんにステラ・ディーツは生と死の狭間はざま

       にいるような状態だ。

       少しでも悪いほうにかたむけば、簡単に死んでしまうだろう。

       ――であれば、けるしかない。

       それに緊急事態下での実験的治療については

       前例が無い訳ではない。

       もちろん倫理委員会の承認は必要だ。

       ブラックウェル統括とうかつには、私から進言しよう。


□ハイネ:――いや、その必要はない。

     私の権限を使用し、緊急の倫理委員会を開催かいさいしよう。

     統括とうかつには私から報告をしておこう。


△ヴェルナー:おおっ、それはとても助かる。

       すぐに治療計画の策定さくていにかかるよ。

       それでは、ドクター・エンゲルマン。

       ステラの第二主治医として、この件を主導しゅどうしてもらう。

       できるかね?


☆コーネリア:――はい! 必ず救ってみせます!


△ヴェルナー:いい返事だ。

       今回は、アーク・サイエンス部との合同になるだろう。

       ひとり、助手をつけてもらうようリーズベリー君に

       お願いしておこう。


□ハイネ:であれば、ひとり、適任者てきにんしゃがいます。



【2】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部>


●N①:2人の研究員がステラの居る病室へと向かう。

    ひとりは、コーネリアで、もうひとりは上機嫌な様子の

    男性研究員。


◇ロイド:――と言うことで俺が選ばれた訳ね!


☆コーネリア:…………。


◇ロイド:てか、なんでそんな不満そうな顔なんだよ~


☆コーネリア:別に……不満と言う訳じゃありませんが……


◇ロイド:おいおい、同じ大学の先輩と後輩だろ~?


☆コーネリア:ロイド先輩は、先輩の威厳いげんが全くありません。

       ただの年上の知り合いです。

       同じ大学の先輩であるウィリアムズ統括補佐とうかつほさとは

       全く異なります。


◇ロイド:おいおい、統括補佐とうかつほさを引き合いに出すのは

     流石さすがにひどすぎだろ!

     てか、ただの年上ってなんだよ!?

     一応、先輩よ! 俺も!!


☆コーネリア:はいはい、わかりました。


◇ロイド:たくっ……天才な後輩と先輩を持つと肩身かたみせまいもんだぜぇ~


☆コーネリア:――私は別に大したことないですって。


◇ロイド:相変わらずの謙遜けんそんぶりだねぇ。

     主席だったのに。


☆コーネリア:そんなことはどうだっていいじゃないですか。


◇ロイド:はいはいっと……なぁ、それよりも知っているか?


☆コーネリア:何がですか?


◇ロイド:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさが何を調べていたのか?


☆コーネリア:統括補佐とうかつほさは国家機密に触れるからくわしい理由

       は話せないって、言ってましたけど……


◇ロイド:――人体実験だってよ。


☆コーネリア:えっ!? 人体実験!!


◇ロイド:バカッ! 声がでかいって!!


☆コーネリア:あっ……スイマセン。

       それよりも、どういうことですか?

       私をからかうために適当に言ってます?


◇ロイド:そんなんじゃねーよ。

     軍情報部にいる友達からの話だから信憑性しんぴょうせいはあるぞ!


☆コーネリア:……機密漏洩きみつろうえい逮捕たいほされますよ。


◇ロイド:だいじょーぶだって!

     でだ、ヒューリンデンにはNSエヌエスインダストリー

     の研究所があるんだ。


☆コーネリア:NSエヌエスインダストリーってあの化学企業の……って、あれ?

       ヒューリンデンに研究所なんかありましたっけ?


◇ロイド:秘密研究所があったんだよ!

     聞いて驚くなよ~?

     その研究所の名前は——スターロンバー秘密研究所。


☆コーネリア:……先輩。


◇ロイド:なに?


☆コーネリア:うそをつかないでください。

       そんな都市伝説を私が信じると思いますか?


◇ロイド:本当だって! うそをついて――


●ステラ:いやあああああああああ!!


☆コーネリア:この声……まさか……!


◇ロイド:おいおい、なんだなんだ!?



(間)



●研究員A:大丈夫……大丈夫だから……!

       お願いだから、そのハサミを返してね? ねっ?

      きゃー!


◇ロイド:何があったんだ?!


△研究員B:食事の時間だったので、配膳はいぜんしようと

      ヴァージニアが近づいたら。


●研究員A:興奮しちゃったんですよー! うわーん!


◇ロイド:おいおい、何かしでかしたんじゃねーの?

     はいはーい、入りま――うおっと、あぶねぇ!?

     こりゃあ、随分ずいぶんと興奮なさってることで!

     怒っているのか?


☆コーネリア:――いや、彼女の感情は怒りではなく、

       恐怖に支配されています。

       

◇ロイド:えっ?


☆コーネリア:ロイド先輩。

       ステラは人体実験の被験者だったんですよね?


◇ロイド:具体的にどういった実験をされていたかわからないが、

     そうだと言われている。


☆コーネリア:だったら——


◇ロイド:おい! 

     コーネリア、あぶな——わっ!


☆コーネリア:白衣、持っておいてください。


△研究員B:お待ちください。


☆コーネリア:マイケル、そこをどいてください。


△研究員B:危険です、怪我をしてしまうかもしれません。


☆コーネリア:だからと言って、このままにしておくわけにはいきません。


△研究員B:しかし……


☆コーネリア:大丈夫です、私に任せてください。

       今は彼女を落ち着かせることが大事ですから。

       ――私を信じて下さい。


△研究員B:――わかりました。


●N①:そう言って、研究員は不安そうな表情を浮かべ、ステラが

    収容されている病室の扉のロックを解除させた。


☆コーネリア:リズ、後は任せて。


●研究員A:あ、ありがとうございます……


☆コーネリア:ステラ。


●N①:コーネリアに名前を呼ばれると、興奮していたステラは我に返った。


☆コーネリア:私の名前は、コーネリアよ。

       大丈夫、私はお医者さんなの。

       あなたを元気にするためにここにいる。

       安心して、ここにあなたを傷つけるヒトはいないから。


●N①:そう言って、彼女はステラの元にゆっくりと近付く。

    そして、少女から警戒心けいかいしんが無くなっていることに気付いた。


☆コーネリア:そのハサミ……危ないから、私に渡してもらえるかな?

       お願い……


●N①:そしてステラは無言でうなずき、ハサミをコーネリアに渡した。


☆コーネリア:ありがとう、ステラ。


●N①:一方で、ステラは不安そうな表情を浮かべている。

    自分がやったことを理解しており、怒られるのを恐れていた。


☆コーネリア:怖かったね、でも……もう大丈夫。

       疲れちゃったでしょう?

       今は、ゆっくりと眠りなさい。

       大丈夫……私たちがあなたを守るから。


◇ロイド:――寝ちゃったかんじ?


☆コーネリア:はい……なんとか落ち着いてくれて、ホッとしています。

       この子は、白衣に対して恐怖きょうふを抱いているんです。

       きっと、実験でひどい目にあって……


◇ロイド:それで白衣を脱いだのか。


☆コーネリア:はい……ステラは、私たちが想像している以上に

       恐怖と緊張にさいなまれていたんだと思います。

       目を覚ましたら、自分にひどいことをした人間

       と同じ姿のヒトたちが沢山たくさんいた。

       ……とても怖かったと思います。


◇ロイド:それで、パニックを起こしたのか……


☆コーネリア:私、許せないです……

       こんな幼い子に、ひどいことをしたヒトたちを……!


◇ロイド:怒る気持ちはわかるが、今はこの子の治療に全力を注ごうぜ。

     怒りは目先の視野をせまくし、判断をにぶらせる。


☆コーネリア:はい、そうですね。

       ――ふふっ。


◇ロイド:な、なんだよ……


☆コーネリア:いや、初めて先輩らしい所を見た気がします。


◇ロイド:おまっ!!


☆コーネリア:しっー! ステラが起きてしまいます!


◇ロイド:うぐっ!


●研究員A:ドクターとロイドさんって、後輩・先輩と聞きましたけど

      逆ですよね~


△研究員B:うんうん。


◇ロイド:お、おまえらまで……


●N①:ひとときのおだやかな時間。

    その様子を遠くから眺める、ヴェルナー・ストレンジラブ

    の姿があった。


△ヴェルナー:――さて、実験を再開しないとな。


●N①:彼はその光景を冷ややかな目で見ていた。



【3】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療局・中央処置室>


●N①:覚醒療法かくせいりょうの日。

    処置室にはコーネリア、ストレンジラブ、そして何人かの

    医療いりょう部の研究員がいた。

    外のモニター前には、ロイドなどの複数人のアーク・サイエンス部

    と医療いりょう部の研究員たちが手術の行方を見守っていた。


△ヴェルナー:では、ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:はい。

       これより、ステラ・ディーツに対する覚醒療法かくせいりょうほう

       ――人工アーク鉱石こうせき臓器定着術ぞうきていちゃくじゅつを実施します。

       手術時間は3時間半、出血に関しては500cc以上

       が想定されます。

       輸血ゆけつの準備は出来ていますか?


△研究員B:問題ありません。

      輸血ゆけつ課に予備の製剤を確保してもらっています。


☆コーネリア:手術に必要な画像の表示は?


●研究員A:CT、MRIそしてレントゲン。

      どれも準備出来ております。


☆コーネリア:麻酔ますいドローンの調子は問題ないですか?


△研究員B:問題ありません。


☆コーネリア:では、執刀医しっとういは、医療部・コーネリア・エンゲルマン。

       助手は、ヴェルナー・ストレンジラブ医療部長となります。

       それではよろしくお願いいたします。



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療局・病室>


△N②:手術から1週間後。


●研究員A:お願い、ステラ。

      大切なお薬だから……あぁ、そっぽ向かないでよ~

      お薬飲んでよ~


△N②:薬を渡そうとした瞬間、ステラから電撃でんげきが放たれる。


●研究員A:きゃ!


☆コーネリア:大丈夫!?


●研究員A:ドクター! ロイドさーん!

      私には無理です~~!

      お願い代わって~~!!


◇ロイド:しょうがねえなぁ……


□ハイネ:失礼する――どういう状況だ?


☆コーネリア:あー


◇ロイド:ハイネ統括補佐とうかつほさ!?

     なんで、ここにアンタがやってくるんだよ!


□ハイネ:ロイド・ヴィーデマン、ウィリアムズ統括補佐とうかつほさだ。


◇ロイド:さーせん。


☆コーネリア:ところでどうされました、統括補佐とうかつほさ


□ハイネ:患者……ステラの様子を見に来た。


◇ロイド:まあ、一目瞭然いちもくりょうぜんっすけど……めちゃくちゃ元気です。


□ハイネ:そのようだな。


☆コーネリア:人工アーク鉱石こうせき臓器定着ぞうきていちゃく率も良好、全身状態も

       落ち着いています……ただ。


□ハイネ:ただ?


◇ロイド:しつれいしますよーっと。

     ほら、ステラちゃーん。

     お薬を飲んでくれるかな~?


●ステラ:…………。


◇ロイド:おいおい、そんなにらまないでくれよ~

     ほら、どこからどう見ても優しいお兄さんだ~!

     そんなお兄さんからのお願いだ。

     大事なお薬だから、なっ?

     って、あっぶねぇ!?


□ハイネ:今のは……電流……!

     もしかして、これが彼女の能力か?


◇ロイド:そうっすよ、電気を操る能力だそうで。

     詳しい事は解析かいせき中っすけどね。

     だけど、困ったことに制御せいぎょが出来ていないんですよね~

     うおっ!?


☆コーネリア:ヴィーデマン研究員の言った通り、ステラは

       まだ自身の能力制御のうりょくせいぎょが出来ていません。

       恐らくは精神状態とリンクしている可能性があります。

       彼女が受けたトラウマは想像以上に深刻で、他人との接触せっしょく

       を嫌がります。

       私には何とか心を許してくれるところはありますが、

       他の研究員たちには……


□ハイネ:対応に苦慮くりょしているんだな。


☆コーネリア:ですけど、毎日がそんな状態ではないんです。

       普段はおとなしくて、言う事を聞いてくれる子なんですが……


◇ロイド:ステラー! ストーップ!!

     むやみに能力を使うと体にわるいぞー!!


●ステラ:うう……!


□ハイネ:脳に異常はないのか?


☆コーネリア:はい、画像検査や脳波のうはでは異常を認めませんでした。


□ハイネ:なるほどな。


☆コーネリア:なので、どうしても投薬とうやくが難しい場合は

       鎮静ちんせいガスを使用することがあります。

       ですが、なるべく使用したくないです。

       それに頼ってしまうことで、ステラとの信頼関係を

       構築できませんので。

       ストレンジラブ部長が「投薬を最優先とすること」と

       厳命しているため……悩ましい問題です。


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン。

     可能であれば、彼女に話をしたいんだが……いいだろうか?


☆コーネリア:はい、それは構いません。

       ですが、ステラは目覚めてから一度もまともにしゃべったこと

       はありません。

       それに御覧ごらんの通り、不安定な状態のため統括補佐とうかつほさ

       傷つけてしまうかもしれません。


□ハイネ:それについては問題ない。

     アークホルダーの対応には慣れている。


☆コーネリア:あの……ウィリアムズ統括補佐とうかつほさは、

       救出の際にステラと会話はされたのですか?


□ハイネ:いや、私の呼び声に対して応えていただけだ。

     だが、あの時の彼女は必死だった以上、私の事を

     覚えているかどうかは難しいところだな。


☆コーネリア:――私の勝手な推測ですが……彼女、

       統括補佐とうかつほさのことを覚えていると思います。


□ハイネ:何故、そう思える。


☆コーネリア:その手首の傷です。

       あの子を助ける時に出来たんですよね?


□ハイネ:そうだ。


☆コーネリア:ステラが必死に生きようとしたあかしです。

       スターロンバー研究所という地獄から救い出してくれた、

       統括補佐とうかつほさのことを忘れていないと思います。


□ハイネ:ちょっと待ってくれ。

     どうして、彼女がその研究所にいたことを知っている。


☆コーネリア:あっ……えっと、その……


□ハイネ:大丈夫だ、怒っていない。

     大体は予想がつく。

     ヴィーデマン研究員がしゃべったのだろう。

     あのおしゃべりのことだ……いずれ伝わるのは時間の問題だった。


☆コーネリア:すいません……

       なので、ステラがされてきた仕打ちを考えると、

       自分の命を救った統括補佐とうかつほさは、あの子にとって

       希望の光だったと思います。

       それに、大人よりも子供のほうがしてもらったことに対して

       良く覚えているものです。


□ハイネ:そういうものなのか……


●N①:コーネリアの言葉を聞いて、ハイネは手首の傷を見た。

    ステラを救い出した時のことを思い出す。

    あの時の、彼女の瞳の輝やきを

    ——生きることを諦めていない意思を。


☆コーネリア:はっ!

       すいません、私、偉そうなことを——


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:は、はい!


□ハイネ:ありがとう。



(間)



◇ロイド:それにしても……あの統括補佐とうかつほさが子供のお守りが出来るのかねぇ?


☆コーネリア:そういう先輩は出来ていなかったじゃないですか。


◇ロイド:うっ……それはしょうがないだろ……


☆コーネリア:ほら、統括補佐とうかつほさが部屋に入りますよ。

       しっかりとモニタリングしないと。


◇ロイド:はいはい、わかりましたよーっと、ドクター・エンゲルマン。

     それじゃあ、統括補佐とうかつほさ

     準備はいいっすか?


□ハイネ:あぁ、こちらは問題ない。


◇ロイド:オッケーっす。

     ――部屋のロックを解除しました、お入りください。


□ハイネ:わかった……入るぞ。


●ステラ:――っつ!


△N②:部屋に入ってきたのがハイネと気付いたステラは驚く

    しかし、そこには恐怖や警戒けいかいなどの感情は無かった。


□ハイネ:ステラ……元気にしていたか?

     私の事を覚えているか?


●ステラ:んっ……


□ハイネ:そうか、覚えていてくれたのか。


△N②:彼女に警戒心を抱かせないように、ハイネはゆっくりと近付く。


◇ロイド:ありゃあ……緊張しているな。


☆コーネリア:えっ?


◇ロイド:あのヒト、顔、怖いだろ?

     だからよく子供が怖がって泣いちゃうんだよ。

     ゆっくりと近付いて、緊張させないようにしているけどさ。

     ほら、足の動き、見てみ? 硬いっしょ。


☆コーネリア:だ、大丈夫ですかね……?


◇ロイド:まあ、大丈夫だろ。

     幸いなことに、ステラの感情波形からリラックスしているのがわかる。

     このまま、行けば――


□ハイネ:ステラ、薬を飲むんだ。


●ステラ:いやっ!


◇ロイド:って、おい!


☆コーネリア:統括補佐とうかつほさ……ステラは

       10歳くらいの子供なので優しく言ってあげないと……


□ハイネ:や、やさしく……?


◇ロイド:てか、アンタ、怒っている顔をしているんだから笑わないとダメだろ。


☆コーネリア:ちょ、先輩!?


◇ロイド:大丈夫だよ、統括補佐とうかつほさとはそれなりに付き合いは長いから。

     ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ、今から俺がやること

     をマネしてくださいね。

     ――ほら、こうやって口角を指で持ち上げてニッと

     やればいいんですよ! ほら!


☆コーネリア:……先輩。


◇ロイド:んっ?


☆コーネリア:ふざけているんですか?


◇ロイド:ふざけていねぇって!!

     これやって、たっくさんの赤ちゃんを笑顔にしてきたんだぞ!


☆コーネリア:だからと言って、統括補佐とうかつほさにそんなことを——


□ハイネ:――こうか?


☆コーネリア:っつ!


◇ロイド:ぶっ! あはははは、やっぱ最高だよ、アンタ!!


☆コーネリア:くっ……ぷ……あっはは……


△N②:ハイネは、マジメに言われた通りのことをやっていた。

    予想外の行動にコーネリアだけではなく、事の成り行きを見ていた

    周囲の研究員たちも笑い始めた。


□ハイネ:な、なんだ……お前たち、突然笑い始めて……


●ステラ:クスックスクス……


△N②:周囲の笑いに誘われて、ステラも笑い始める。

    ただひとり、ハイネだけは困惑し続けたままであった。



(To be continued......)

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