【KAC20242】そこにはシロクマが居た

熟々蒼依

クロクマハウスの野望

「あの、ここ僕の家です」

「……え?」


 坂本智美の目の前には、二本脚で立つ白熊が居た。トランクスを履き、一升瓶を片手に持ってべらべらと喋る白熊。それが現実か、智美には確かめる術がなかった。


 事の始まりは、智美がふとSNSの広告で見た『家賃5000円以下の駅チカ物件しか取り扱わない不動産屋』を訪れた事だった。


 上京したてで金欠だった智美は、すぐにその不動産屋に行く。そこで紹介されて内見に訪れたのが、今まさに珍事が起きているこの物件だ。


「いや、私は不動産屋に紹介されてここに来ただけで」

「不動産? ああ、クロクマハウスか。ついに僕のところにも来たか……」

 白熊はポケットから小さいお猪口を取り出し、瓶の中の液体を注ぐ。

「飲んで」

「私が?」

「警察呼ばれたくないでしょ、ほら」


 言われるがままに中の液体を飲む智美。しかし次の瞬間、智美の視界が急速にぼやけ、智美は思わずその場に崩れ落ちる。


「クロクマハウスの狙い、教えてあげる。アレはね、非合法の仲介業者だよ」

「ふぇ……?」

「クロクマは広告に釣られてやって来た人にお香を嗅がせてから、会員の物件に向けて被害者を派遣する。そして物件に着いた瞬間、お香の効果が発揮されて催眠状態になるんだ。後はもう、会員のお望み通りさ」

「そ、そんな……」

「厄介だよねぇ、あの広告自体若い女性にしか配信されないようになってるし。でも大丈夫、僕は君に何もしないよ」


 白熊は智美の目の前で指を鳴らす。すると智美の視界は明瞭になり、意識も完全な覚醒を遂げる。


「その酒には、お香の効果を打ち消す効果がある。さあ行きな、そしてSNSに真相を投稿するんだ。そして投稿の最後にこう付けてくれ、正義のシロクマハウスが、クロクマの蛮行を止めるってね!」


 逃げるように白熊の家を去る智美。シロクマは口角を上げ、携帯電話を取った。


「宣伝成功だ。またよろしく頼むよ、クロクマ君」

『もちろんです、シロクマ様の仰せの通りに』

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【KAC20242】そこにはシロクマが居た 熟々蒼依 @tukudukuA01

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