ミッドナイト・バタフライ

水野いつき

a working woman

 ――路地裏の行き止まり。月だけが見ている。



「まてまてまてまて」

「しーっ。し、し」

「金なら……」


 女は撃鉄を下げ、引き金を引く。一発。銃口から放たれたダイヤモンドは男の心臓をつらぬいた。




〈TITLE:MIDNIGHT BUTTERFLY〉




 ターゲットの胸から流れ出る深い赤はあたしの物欲をかきたてた。あの新作リップはやっぱり手に入れよう。


 キンと耳が痛くなり、顔をしかめた。新型の内耳トランシーバーは通信速度の引き換えに音質が犠牲になっている。アップグレードもここまで来ると好みの問題だ。


「――バッド・ビッチ。仕事は済んだか?」

「ファック・ユー。滞りなく」

「――くく、謝るよ。バタフライ」


 月を圧倒するけばけばしいネオンの光が路地裏に差し込みあたしの胸をときめかせる。


「――バタフライ?」

「聞こえてるわよ。余韻に浸ってたのに」


 こめかみを叩き、目に映る死体をボスの網膜スマートフォンに転送する。


 "送信完了worked"


 視界の隅に浮かび上がるメッセージを確認すると、再度こみかみを叩き網膜スマホを閉じた。


「――写真よりよっぽどスイートじゃないか」

「二度も天国に連れて行ってあげたわ」

「――公私混同だな。帰還せよ」

「ラジャ」


 カラダにぴったりと張り付くボディスーツはあたしの存在を闇夜に溶かしてくれる。

 

 別に急ぐ理由なんてない。あたしを家で待つ人もいない。


 腕を組んで地下クラブに消えるカップルを羨ましく思い、足早にダウンタウンを後にした。






〈END CREDIT〉

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ミッドナイト・バタフライ 水野いつき @projectamy

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