第7話 オープンワールド

  

 チームの書記は魔法使いか僧侶がやる。

 その日常は冒険者の間では周知の事実であった。

 力の弱いものがやれ! という取り決めではないのだが。

 知力はお前らのほうが上だ、それは認めているだから頼む!

 というおだてに乗せられて、やらされるようになっただけだ。


 だが魔法使いマミーは時折、報酬の件で戦士ガギーと揉めていたそうだ。


 時間を惜しんで魔物をひたすらに狩る。

 何のためか。


 レベルを上げるためだ。

 魔物討伐以外で冒険者本人のレベルが上がることはない。


 レベルとは実質ジョブのレベルである。

 戦士、魔法使い、僧侶といった職種がジョブだ。

 冒険者とはその総称だ。


 記録係を雇って楽をしたいPTも増えてきたが、足元を見る奴がほとんどで優遇じゃなきゃ無理。


 この2人に出会ったのは五年前だった。

 彼らはまだ駆け出しの冒険者だった。ジョブレベルも依頼ランクも最低のもの。

 家を持ってないから、野宿も度々あったようだ。

 レベルを上げる主な理由がある。



 魔物と接触した者には魔物が全身から放つ【魔力たい】が付着する。



 それは放射能のような有害物質であり、肉眼では確認が取れないエネルギーだ。

 のちに魔法研究者達によって、様々な種族の生物組織にダメージを与える人口魔力に変換された。

 有能な魔法使いは変換魔法を操る。


 魔物の肉体に大小の組織被害を及ぼせる程度に作り変えて、その付着物をそのまま自分たちの武器に変えて行ったのだ。


 一度、変換を施した【魔力帯】は人間達にはほとんど害は出ない。

 変換しなければ有害物質の付着物で人体は蝕まれていく。

 とても冒険者以外の住民は魔物とは、まともにエンカウントなどできなかった。


 その町や村に変換魔法の扱える魔法使いが滞在していなければ、民間人は命が奪われていく。

 例せば、不治の病に侵されてじわじわと寿命を削られて短命に終わるような感じである。


 その変換魔法の使い手は各国でも希少で、とても世界の隅々にまで手が届かない。


 だが、やがて人類の染色体に適合する都合の良い物質を生み出すことに成功。

 回復魔法も元は害毒でしかなかった。

 その都合の良い物質は「人工血液」と呼ばれている。



 いわゆる「血清」のことである。



 場合によっては害毒にもなり、回復薬ともなる。

 冒険者はその人工血液を体内に注入するための資格を取得する必要がある。

 それによってのみ、回復魔法が効果てき面にあらわれるのだ。

 回復魔法を施した回復薬も同じだ。血清にしか反応しない。


 この「人工血液」自体も有害の【魔力帯】を生成素材としている。

 【魔力帯】に侵された人体に回復魔法が有効になるように改良されたのだ。


 といっても国家試験並みの桁外れな知力などは必要ではないが。

 ひとたび血清の受け入れをすれば、死ぬまでその性質を消すことができない。

 そして百パーセント安全という保証はない。


 稀なケースではあるが注入時に不適合者となる場合が確認されている。

 その際は身体に、無責任にも完治不能な「呪い」という名の障害が残る。


 障害が軽度ならば、そのまま冒険者を続投させてもらえる。

 ただ回復治療を受けながらである。

 そのため冒険者は家族を代表する者が就く、ワイルドな職種であった。

 資格取得条件とは、その覚悟が試されるだけなのだ。


 そして彼らもレベル上げを怠れば俺ほどではないが落ちこぼれ人生まっしぐら。

 適合者と見なされても鍛えを怠れば、体内の血清免疫が下がり一時障害がでる。

 血清免疫が低下し過ぎると回復魔法の効果が得られなくなる危険病原体と認定されてしまう。


 この世から【魔力帯】をすべて除去できれば誰も泣かなくて済むのだ。

 それには魔物を殲滅しなければならない。

 そのための冒険者でもあるので随時、募集はある。


 魔物から受けた魔力帯被害者は、やむなく世界の平和のために冒険者にならねばならない義務が課せられている。隔離するのは差別に値するという判断から世界協議で定められたのだ。

 


 だから駆け出しの冒険者ほど時間を惜しんでレベルを上げる必要がある。

 回復を効果的に受けて無事に過ごすためには更なる魔力帯を必要とするからだ。


「呪い」によって死に至るには数年かかる。

 だから体力の向上が肝心なのではなく、多くの【魔力帯】を人類のためにも確保することが最優先とされるのだ。


 回復魔法も、攻撃魔法も【魔力帯】から生まれたのだから。


 その目的で『冒険者ギルド』が世界中で開局したのである。

 この『冒険者ギルド』は放送局も兼ねているので開局という言い方をする。


 か弱き小者ばかりを仕留めていても【魔力帯】の濃度がほとんど上がらなくなる。

 少し強く成っては少し強い敵に挑む。


 より強い敵は魔力濃度の高い【魔力帯】を周囲に巻き散らす。

 だがその場で倒し切らなければ、敵の放つ魔法には【魔力帯】を燃焼させる性質があるため、持ち逃げすることは、ほぼ不可能との報告も多数ある。


 討伐とは倒し切ることをいう。


 そうは言っても魔物は手強い。

 そこで他者の戦いからも戦術を研究学習するために報告書を上げさせるのだ。


 討伐力を上げるための分析が必要不可欠な世界なので、人類のために魔物の討伐情報をもたらす者にしか報酬が約束されない鉄則が、冒険者ギルドにはあるのだ。


 この報告書の記入が脳筋たちにとっては超がつくほど面倒くさいのだった。

 だから俺のような落ちこぼれでも、バラ色の人生を迎えられたのだ。



 ただ、それらに分類されず、怠惰に流され闇に堕ちて行く者。

 危険病原体のレッテルを張られた者。

 共に、

 その末路を体験したものは裏社会に移り住み、世界を陰から恨めしく見つめるだけの人生の敗北者となる。


 というのがオレの住む世界で、



 ここは、【オープンワールド】と呼ばれている。

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