第2話 巻き込まれ体質

「いでっ」

どこからその声が出てるんだろう。

クレイジーなピンク髪の人が表現のしようのない顔、まさに顔文字の><のような顔になった。

「あ、ゆかねえ」

「遅くなってごめんね、あかりちゃん」

ゆかねえ、私の東京での下宿先の主、従姉妹の望月ゆかり姉がとても怖い笑顔で現れた。

「全く、どうして私の家に勝手に上がり込んでるのさ。今日は忙しいから来るなって言ったでしょ」

「あかりちゃんが来るならお出迎えしてあげないとダメでしょ。だからこうして私が来てあげたのです」

誇らしげにピンク髪がお酒臭い息で胸を張る。

「いや、だいたい私は来るって教えてないでしょ」

「私に隠し事はできないのです!」

ゆかねえは諦めの表情になった。慣れたやりとりのようで少し暖かい気持ちになった。

「あー、あかりちゃん紹介するね。この人は雄琴さん。危ない人だから今後警戒して関わらないように」

「ひどーい!よろしくね、あかりちゃん。綾子っいうんだ。仲良くしてね!」

目の前に整った顔が近づいてきてドキッとしてしまう。

全てを溶かしてしまいそうな目の前の笑顔は次の瞬間悶絶へと変わった。

「あっ、あっ、だめ!頭!取れる!」

「はいはい、取れないから離れなさい」

ゆかねえも苦労してるんだなあ。


 ふふふっと笑ってしまった。

最初は怖かったけど、二人のやりとりを見ていると自然と気持ちがほぐれた。

「ゆかねえも遅くなるって聞いてたのに早く帰ってきてくれてありがとう。綾子さんもなんだかわからないけどありがとうございます」

2人の優しさに触れられたような気がして暖かい気持ちになった。

が、それがダメだったのかもしれない。

「よし、じゃあ、歓迎会として飲みに行こう!」

え、この人まだお酒飲むの?

「あかりちゃん、エビ好き?」

ええ、と勢いに負けて短く答えてしまう。

「私もエビ大好き!最強の一角よね!じゃあ、行こうか」

ゆかねえの方に目をやると既に普段用のコートとバッグを持ってきていた。

今から入れる保険はありませんか?

そうして私は黒塗りのタクシーで運ばれていったのだ。


 着いた先はおしゃれな家……?

恐る恐るついていくと、中は落ち着いた家に思える内装にカウンターがある料理屋さんだった。

「あら、雄琴さんじゃない。いらっしゃい」

初めからこの温かみのある内装に合わせて生まれてきたかのような「奥様」がふわりと挨拶した。

「今日は望月とその従姉妹ちゃん連れてきたで!」

台風のように私とゆかねえを巻き込んだ綾子さんが紹介してくれる。

というか関西弁?

「あ、私星野と言います。よろしくお願いします」

すごく暖かく優しい笑顔で「奥様」がよろしくねと言ってくれた。

「星野さんすごいセンス良いからまじですごい子やで。美味しいもの食べさせてあげてな!」

いやいやいやいや。

いきなり何を言ってるんだこの人は。

なんとか美大に入れはしたけど、私なんてまだまだだし。

というかなんで綾子さんは私のセンスとか言い出すの。

初めて会ったのに。

「え?そんなん見たら分かるやん」

私はポカーンとした人の顔になった。

「美大で何専攻なんかは知らへんけどな、ものを見るときの視線を見てたらだいたいわかる。まだ荒けづりなところも多いやろうけどめちゃくちゃ光るものがある。私がいうから間違いがない」

は?

理解が追いつかないのですが。

やっぱり私、どこかで間違えたのかな。

「ほら、雄琴さん。星野さん困ってるじゃないの」

この店の店主様が入口で硬直していた私を溶かしてくれた。

「雄琴さん、少し強引なところもあるけど根はいい人だから許してあげてね。面倒見も実は良いからなんでも相談すると良いわよ」


 もはや嵐だ。

ピンクの暴風雨だ。

助けてゆかねえ。

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