おかしいだろう このパーティ魔女3人って
ひとえだ
第1話 おもらし魔女
1.おもらし魔女
美女と一緒に入浴している。
1時間前まではただの物乞いだった。
起こった事を整理しなければならない。5W2Hでまとめよう。
when
地球の尺度がここで当てはまるか分からないが、およそ1時間前の出来事だ
where
ここは地球ではないことはほぼ確実だ。村はずれの小川の辺で
who
僕とニールが
僕は“ウメサン”と名乗った。ニールは地球では存在が確認されていない魔女だ
what
ニールと二人で魔物を倒した
why
魔物と出会(でくわ)したから
how
木樵の斧で仕留めた
how much
お金は全く持っていない
ニールは僕に背中を向けて、髪を洗っている。長さはミディアムかセミロングだと思うが定義は知らない。日本でいえば高校生くらいか?童顔で全体的に幼いが腰回りの成長は早いようだ。凝視したわけではないが、女性の体の構造は地球の女性と同じだ。
視線に気づいたニールが微笑みを返す。少なくともニールは20歳の男と入浴しても恥ずかしくないようだ。地球では考えられない話だが。
ニールは体を隠すことなく湯船に向かって歩いてくると、大きな竹を輪切りにしたような桶に湯をすくって肩から掛けた。
何か言葉を発したが何を言っているか分からない。ニールは1時間前までケガしていた右脚から湯船に入りニールの左腕を僕の右腕に押し当てる
「由樹って誰?」
「前の世界で付き合っていた女性だ」
「”付き合う”ってどういうこと?」
合理的に考えてギリギリ辻褄が合う理解は僕が別の惑星に来たということだ。地球では大学生だった。可能性があるとすれば量子テレポーテーションだ。地球の身体とこの惑星の身体は同じに感じる。
「ねえ、答えてよ」
答えない僕にニールは回答を催促してきた。僕は湯船に口まで沈めてぶくぶく息を出した
「言わなくても、心を読み取っているんだろう?」
「”付き合う”って感覚は理解できない」
ニールと僕は言語が違う。地球では異世界モノの物語をいくつか見たが、ここではそんな都合がいいものではなかった。会話が出来ないということは生存性を極めて失わせる。
もう3日も食べ物にありつけていない。精神的に追い詰められるには十分な時間だった。2日目には由樹のことさえ思い出す余裕も無くなっていた。
ニールは精神系の魔法を操るらしく、感情のある生き物の感情を読み取る。この惑星に来て最初に会話できたのがニールだった。会話といっても言葉を交わしている訳ではない。
ニールの言葉が耳を介さず直接聞くことが出来る。ただ、接触していないと魔力を多く使うとのことで、戦闘以外では使わないと言っていた。
前の戦闘で右脚にケガを負ってパーティーに同行出来ず。集落の外れで訓練していたところ、僕の感情を読み取り、声を掛けてきたのが二人の出会いだ。
2人だけの風呂の中で、ニールに手を出さないのは、この惑星で生きていく為にはニールの能力が必要であったことと、地球で付き合っていた由樹に今でも義理を立てているからだろう。
「逃げろ!」
そう告げると、主人を亡くした斧を取って亀のような黒い魔物と対峙した。
斧は見た目に依らず軽かった。魔物は4つの目でこちらを睨んでいる。直ぐに襲ってこない。
「しめた、こいつには感情がある」
斧を下段に構えた、地球にいたときに学んだ鷦鷯(ささぎ)返しの構えになる。これで脚を怪我しているニールに1秒でも多く時間を与える事ができる。この世界に来て唯一の感動を与えてくれたニールへのせめてもの恩返しだ。
この魔物は僕を過大評価している。簡単に倒せる相手に何を躊躇しているのだろう?
当然のごとく、そんなことを考える隙を見せた僕に木樵を葬った左前足の鋭い爪が襲ってきた。それを避けると今度は右の爪が襲って来た。
見切れる動きだった。助走をつけて右前足の上に飛び乗ると亀の頭に向けて斧を振りかざした。
視界には鋭い尾が顔めがけて進んでくるのがわかった
”亀のしっぽだと思って油断した”
はらうのでなく、仕留めにきた。
先に斧が首に届けと願った。
鱗のような幾重の青い円が空中に生じ、盾となり尾の突き攻撃を防御した。
魔物は慌てて頭を甲羅の中に隠した。
僕は構わず甲羅の上に斧を振り下ろした。
ゆで卵を握り潰したような感覚があった。その後、鈍い音が耳に届いた。
魔物は鈍い光を放って、消滅し、一つの金属が生成された。放射線探知機を持っていないので近づくのは嫌だと思った程度で相手を倒した感慨は特になかった。
一つわかったことがある。ここは地球ではなく、地球より体積の小さい惑星だ。
振り向くと、小川の辺(ほとり)でニールが腰を抜かしている、さらに遠巻きには村人達の姿もあった。先程の円の壁はニールの魔法で出したのだろう、いつか見た物語に出てくるような魔法使いの杖、ニールは青い杖をこちらに向けたまましゃがみこんでいる。この星では魔法が存在するようだ。
命の恩人に御礼の言葉を掛けなければならない。地球の言葉しか話せないが
「フリダラを拾って!」
ニールは非接触の会話変換は魔法消費が大きいと言っていた。余程重要なのだろう。放射線が出ていそうで嫌なのだが、命の恩人の頼みは断れない。
踵を返して“フリダラ”と呼称する禍々しい金属を拾った。この星は地球より重力加速度が小さいので見た目より軽い。その下には木樵の服の破片が落ちていた。フリダラを左の手に持ち、右手でフリダラより丁寧に服の破片を拾った
「そのまま、こちらに走って来て川に落ちて」
こんな命令に従うのは、惚れた女か命の恩人だけだ。斧と金属を右肩に担ぐと
「ニール」
そう叫び、駆け足でニールに向かって突進した。抱きつくような勢いで。
ニールの顔が恐怖に怯えているのが分かった、ニールが目を閉じると足をもつらせたふりをして小川に飛び込んだ。
ニールは痛めている脚を庇いながら立ち上がると、2、3歩小川の方に歩くと脚をくじいて僕の胸に飛び込んできた。水遊びするには時季外れな気もするが。
接触をすればニールとは会話ができる。
「ありがとう防御魔法。命拾いした。君は命の恩人だ」
「驚いた、ブンゲーを一撃で葬るなんて」
「そんなに強かったのか?」
「既に昨日の戦闘で討伐隊の8パーティーは全滅させられている。私も脚をやられた」
「ならあの亀は油断したな・・・」
ニールの返答を待たず、斧と金属を陸に投げ、ニールを抱え陸に上がった。地球の言葉でお姫様抱っこをした。ニールは軽い。
陸に上がるやいなや、痛い筈の脚をものともせず僕の腕から飛び降りると、あの禍々しい金属を拾いに行った。ニールはまるで金塊を扱うようにフリダラに触れている。かわいい女性があの禍々しい金属を慎重に取り扱っている風景がおかしかった。
ニールが腰を抜かしたところを見たら濡れていた。なるほど、彼女の茶番の理由が分かった。
僕は斧を拾って詳しく観察した。きれいに研がれていて、あの衝撃にも刃こぼれがほとんどなかった。僕があの木樵に持った印象が適切だったことをこの斧が教えてくれた。
50mほど先に青い花が咲いていた。ニールの元を離れてそこまで歩いた。そこで穴を掘り始めた。木樵のお墓を作るためだ。
もう3日も食事をしていないので、めまいがする。休み休み穴を掘った。振り返るとニールの周りには人集りができていた。村長だろうか?貫禄と身なりの良い初老の男がニールの前にひざまずき、少し離れて村人達もひざまずき畏まっている。
8組のパーティを全滅させた怪物を葬ったのだから当然かもしれない。それよりニールの濡れた服がお尻にぴったり付いて色っぽかった事の方が興味があった。
僕はあの亀の尻尾に串刺しになっても悪くないと思っていた。この星に来てからの孤独と空腹は死を考えるのに十分だった。
ともあれ、この星にきて最初に僕を笑顔にしてくれたニールを助けられて、彼女が村人に祝福されている風景は心地良いものだ。
穴に、先程拾った木樵の服の破片と斧を置いて土をかけた。斧の柄の部分が墓標になるようだった。小川で手を洗うと墓前に戻って合掌して”般若心経”を唱えた。読経の途中で身体の右肩に気配があり、そのまま触れてきた。ニールだった。
<つづく・・・か?>
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