天使との約束

「え?」


優希は驚きでしばらく固まってしまった。




「やっぱダメですよね、急に聞いてしまってごめんなさい。」


「いや、そんなことは無いですけど…僕なんかでいいなら。」


「私は夏目さんの料理好きなので。これからお願いします!」


「詳しいことについては後でしっかりと話しましょうか。」




ということで春宮さんの夜ご飯も作ることになったのであった。




午後1時半過ぎ、2人は片付けを再開することにした。


午後の片付けは慣れたこともあって午前中より作業効率は格段に上がっていた。




そもそも床にあったのが服や本、紙、タオル類といったもので細かいごみがなかったということもあるのだが。




午後6時を過ぎ今日の作業は一旦終了することになった。




「これなら明日の午前中には掃除が終わりそうですね。」


「春宮さんって本当に能率よく掃除できますね。さすがとしか言いようがないです。」


本当に春宮さんの効率は比べ物にならないほど高かった、というか自分が低すぎるということもあるとは思うが。




「今日もし良かったら夜ご飯食べていきません?掃除を手伝ってくれたお礼をしたいのと、これからのことについて話したいので。」




するとぱっと春宮さんの表情が明るくなった。


(そんなに料理気に入ってくれたのかな?)


思った以上の反応に戸惑いを覚えたものの嬉しさはあった。




「夏目さんが良いのならお願いします。」


春宮さん自身は表情を隠そうとしているようだが喜びが完全に顔に現れていて、表情と声の感情の相違に思わず笑ってしまったが幸い本人にはバレていないようなので助かった。




「春宮さんは好きな食べ物ってなにかあります?」


「わっ、私ですか? ハンバーグ、ですかね。ってなんですかその子供を見るような目は!」


春宮さんは顔を少し赤らめて恥ずかしそうに抗議してきた。




「なんか意外というか、別に子供っぽいなとかは思ってませんよ?」


「まあ今回は大目に見ましょう。夜ご飯作ってもらっていますし。」




ということで夜ご飯は急遽ハンバーグと付け合せに決まったのであった。




「なんでこんなレストランにありそうなプレート持ってるんですか?というか見た目完全にレストランのメニューですよこれ。」


「僕に聞かれても…多分お母さんが置いていったぽいんですがなんで3つもあるのかは分かりません」


このことについては後日、本人に直接聞くことにしよう。




「「いただきます」」




「このハンバーグ、いつも食べてるのより格段に美味しいです!」


春宮さんは満足そうな目で僕の方を見つめてくる


無邪気で子供っぽいなと思ったけど口に出したら色々とまずそうなので心の中で留めておいた。




「特に何の工夫もしてないんですけどね…喜んでもらえたなら作って良かったです。」


今までは自分の為だけに料理を作っていたのでこうやって喜んでもらえることは初めてで、少し自分も嬉しくなった気がしました。




「夜ご飯の件なんだけど…」


春宮さんがこれからの話題に切り込んできた。


それからしばらく2人でどういう風にするかを話し合って一定の結論が出た。




「料理のネタ切れを防ぐため桜は最低限週2は食べたいものをリクエストすること。」




文字通り流石に毎日夜ご飯を考えるのは大変なので春宮さんにも食べたいものを聞くことにした。当の本人は「リクエストしていいの?」と驚いた様子だったが。


(毎日きちんとした献立を立てるのは大変なんだよな)




「買い出しは週2日、火曜と金曜に行きスーパーでは二手に別れて買い物をすること。」




火曜と金曜は生鮮食品やよく使うものが特売なのだ。


二手に分かれるのは、万が一スーパーに同じ高校の人がいた時に噂が流れて面倒になることを防ぐためである。




「材料費は半分ずつ負担、桜は1~2週間に1度週末に優希の生活リズムの改善と掃除のために朝に家を訪れる。」




前半部分はなんの問題もないのだが後半部分が問題大ありである。




「夏目さん休日になると生活リズム崩壊するんだったら私が治さないとね?掃除もサボりそうだし。」


勿論拒否しようとしたが、小柄な桜からは似つかわしくないほどの強大な圧力を感じたので認めざるをえなかったのだ。




「(1週間後から)優希は桜に家の合鍵を渡し、夜ご飯は優希の家で食べること。」




1週間後からなのは単に合鍵を作りに行けるのが来週の土曜日だからである。


流石に桜は家の合鍵を悪用することは無さそうなので掃除のことも含め渡しておくことにした。




「このことは不可避的な事情がない限り他人に漏らさないこと(桜がハンバーグが好きだということも含めて)」




これに関しては両者共にばれた際にかなり面倒なことになるためごく普通と言えば普通である。


()内の部分は置いておくことにしよう。




これらのことが決まった時にはもう既に夜も更け始めていた。


大半は3つ目の後半部分の話だったのだが。




「これからよろしくね夏目さん。」


「こちらこそよろしくお願いします、春宮さん。」


こうしてこれから春宮さんと夜ご飯を共にすることが正式に決まったのであった。

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