大掃除と天使のお願い
時は流れて約束の土曜日になった。
「はぁ、流石に徹夜だと眠気がいつも以上だけど仕方ないな。」
時計の針は朝5時30分を指し示していた。
優希は平日は日付が変わる前後に寝て5時30分位に起きるという規則的な生活ができているのだが、休日になると事情は一気に変わり気づいたら正午前ということもざらにあるのだ。
「起きるの遅れて約束の時間に間に合わないよりかは、こっちの方がマシだろうな。」
桜は8時過ぎにここに来るとのことだった。
それまでに掃除以外の家事は済ましておく必要があったので案外ゆっくりしている暇はなかった。
一段落着いたところでインターフォンが鳴った。
「春宮です。もう大丈夫ですか?」
「今開けるので少し待っててください。」
玄関の扉を開けるとそこには業者かと疑うような装備をした桜が立っていた。
「あの…業者の方ですか?」
「あなたの家これ位しないと綺麗にならないから持ってきたんですよ?あと終わりが遅くなると隣近所の方に迷惑になるので早くやりますよ。」
ということで早速優希の家の大掃除が始まったのであった。
「夏目さんは部屋を見る限り整理整頓というか、使ったものを片付けるのが面倒みたいな感じの人ですね。でも台所に関しては新居みたいに綺麗ですけど料理しないんですか?」
「台所は毎日使うから逆に整理整頓しながらだから綺麗なのかもな。片付けるのが苦手なのは否定しないけど。」
「料理するんですね。もしかして夏目さんのお母さんって料理研究家の夏目杏子さんですか?」
「そうだけど…なんで知ってるんだ?」
「実は数年前に杏子さんの料理教室に参加させてもらったことがあって、その時に息子さんがいて私と同学年の子だということを知ってもしかしたらと思って。」
「僕はお母さんと違ってそこまで料理上手くないけど知識だけはあるというか…不器用だから。ふぁあ……」
「まだ10時前なのにもう眠いんですか?目の下に隈もできていますし睡眠不足じゃないですか?」
「まあな。僕休日は寝たらいつ起きるか分からないので朝から用事がある時はいつもこんな感じだな。」
「整理整頓が苦手で更に生活習慣まで壊滅的とは…ダメダメじゃないですか?反省してください。」
「返す言葉がないです。なんかこう言われてみると僕生活能力ほぼ0じゃないですか。」
「とりあえず手を動かしてください。この調子だと今日中に全然終わりませんよ?」
その通りだった。3時間近く経ってまだ3分の1程度しか進んでいないのだ。
不要なものを捨てていっても一向にものが減る気配は感じられず、永遠に終わる気がしない。
しばらく2人とも黙々と作業を続けること2時間、昼時に差し掛かった時どこからともなく腹が鳴るのが聞こえてきた。
「もうそろそろ昼ご飯がてら休憩挟みましょうか。」
「絶対今私のお腹が鳴ったからそう提案してきましたよね?」
「それもそうですし、僕もそろそろご飯食べたかったので。春宮さんはもう昼家で用意されているのですか?」
「えっーと、私料理苦手で…近くのコンビニで買ってこようかと。」
意外な返答に驚いた。てっきりこんなに家事が得意で慣れているのだから料理もさぞかし上手いのかと思っていたのにまさか苦手だったとは。
「もし春宮さんが良かったらですけど、昼ご飯用意しますよ?リクエストあれば言ってくれれば変なものじゃない限りできますし。」
「えっ、いいんですか?内容は夏目さんの楽なものでいいのでお願いします。」
(一瞬見せた笑顔可愛かったな。)
普段は女子に全く興味がない自分でさえもそう思ってしまうほどなのだから、一般男子諸君は惚れてしまうのは訳ないだろう。
「なにかアレルギーとか嫌いなものとかってあります?」
「特にないですね。」
ということでいつも通り料理をすることにした。
「昼だし、まだ掃除も残ってるから軽めに焼きそばとサラダでいいかな」
「それで軽いんですか?私はいつも食べるとしてもどちらか一方だけなんですけど。」
「栄養バランス崩壊してないですか?バランスよく食べないと体調崩しますよ?」
「はい…気をつけます。」
20分くらいで料理が完成して準備もできた。
「できたので食べましょうか。」
「「いただきます。」」
桜は何も言わずに夢中になって食べているようだった。
そんな姿を見て優希は少し驚くのであった。
(なんかクラスの男子達が言ってた「完璧な少女」とは程遠いような?ただ初めて人に料理出したけど思ったより好評そうでよかった。)
2人ともご飯を食べ終わり、片付けをしていると桜が寄ってきて
「夏目さん、昼ご飯ありがとうございました。久しぶりにスーパーとかコンビニの弁当類以外の食べ物食べたのですがとても美味しかったです。」
「そう言ってもらえて良かったです。」
「一つだけ、もし良ければこれから私の夜ご飯も一緒に作ってくれませんか?勿論材料費プラスαはお出しするので。」
「…え?」
急なことに優希は全く動揺を隠すことが出来なかった。
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