商店街で妖怪は笑う

寒川吉慶

プロローグ (あらすじ)

「大将軍商店街」の入り口には既に明人あきとが立っていた。

目が合うと軽く手を振った後、「遅いぞー」と口をとがらせた。

明人をこんなに待たせるつもりはなかったのだが、呼び出しにあまり気乗りがしなかったのも事実である。

これからすること。それは、『過去につながる電話ボックス』探しである。

その電話ボックスに入り、10円玉を1枚入れて*のボタンを4回押す。そして、受話器に向かい「トキサカ様におつなぎください」と唱えると過去に飛ぶことができる――なんて噂を明人はどこからか聞きつけてきた。そして、その電話ボックスが「大将軍商店街」の周辺にあるらしいということも。

もともと好奇心が旺盛な明人は目を輝かせていたが、俺は信じられなかった。


捜索開始から2時間。日も傾き、商店街は薄暗さに包まれる。

しかし、夕飯時ということもあり人通りは多くなり、夕日と少し古風な街並みも相まって、商店街の持つ温かみは増すばかりだ。


ふと。

商店街の入り口に目をやると、女の子が一人うずくまっているのが目に入った。

おかっぱ頭に白いシャツ、赤いスカートといった古風ないでたちで、服は薄汚れている。

店と店の間の、暗く狭い場所で腕に顔をうずめて肩を小刻みに震わせている。

泣いている?具合が悪いのだろうか?

明人と声をかけて事情を聴くという結論に至るまで、そう時間はかからなかった。

少女を怖がらせないように、そっと近づく。

少し背筋が冷たくなった気がした。


「ねえ、君。大丈夫?何かあったの?」


声をかけたのは明人だった。

少女はしばらくの間、ぐすぐすとべそをかいていたが、か細くつぶやくように答えた。


「お母さん、が、いなくなっちゃった……」


迷子か。一緒に探そう、と言いかけると、少女はそれを遮るように涙声で訴えた。依然として顔は見えない。


「お、おなか、すいたぁ……」


おなか、か……。

そういえば近くでメンチカツが売っていたな。

俺と明人は顔を見合わせ、立ち上がった。

口には出さなかったがお互い分かっていた。

俺か明人、どちらかが残って少女のそばにいる選択をとらなかったのは、一人になるのが怖かったからだ。それほどに不気味な雰囲気が彼女にはあった。

しかし、泣いている少女を放ってはおけない。メンチカツを買った後彼女のもとに帰らざるを得なかった。


「……はい。これ。食べられる?」


メンチカツを差し出した時、初めて彼女は顔を上げ、俺たちを見て口を開いたんだ。


「――ありがとっ!」



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