4年目の温度はぬるま湯、ここから出るタイミングを教えてください。
MERO
4年目の温度はぬるま湯 前編
学生時代の同じゼミだった男友達が彼女とついに同棲を始めるらしい。
ゼミ仲間での飲み会でそんな所から住む場所についての話に発展した。
「おいおい、もうファミリー物件見てんのかよ?」
彼が同棲するための、住宅の内見に行った話をしだして、それに対する他のゼミ仲間からの突っ込みだった。
「結婚を見据えてたらちゃんとお互いの個人スペースが確保できる家のほうがいいと思って」
他のゼミ仲間が聞いた。
「お前、ブランド好きだから、どうせ家賃高い場所なんだろ?」
「いや、そんなことない。埼玉県の大宮あたりなんだけど7万」
「ええっ、大宮あたりで? 3LDKだろ? 相場的にはそれ……事故物件じゃないのか?」
私が一人暮らしする家は1LDKで12万円。
女性向けの賃貸だから少し割高であるけれども、その金額でその広さの家が借りられることに、皆と同じく私も驚いた。
「そんなこともないけどな、まぁ、人づての紹介ってやつだよ」
私は1杯目のレモンサワーを飲みながら、横目で彼に対してさすがだなと心の中で拍手を送っていた。
彼は婚活するためにマッチングアプリを始めて1年ほど何人もの女性と会ってきて、やっと理想の女性に会ったと話していたのがつい先日のことだ。まだ交際は半年にも満たないが、将来を見据えたその行動力に私は男って結婚すると決めると早いというどこかのネット情報をうっすらと思い出した。
そうして私は真逆だなぁ……と彼氏を浮かべてどんよりとした気分になった。
彼とは4年ほど付き合っている。結婚はおろか、同棲の話すら上がらない。お互いのことを知りすぎてドキドキもせず、実は付き合っているのは情で、ただただ別れるという選択が面倒で惰性で付き合っているのではないだろうかと思うような状況である自分たちの姿とつい比較をしてしまった。
ただし、それは彼だけの問題ではない。
私にも可愛げがあった数年前、結婚情報誌を買って彼の部屋に持っていったり、彼の将来の展望を聞いたりもした。私のアピールと圧迫を彼は全く感じないぐらい、彼の頭の中には”結婚は自分とはかけ離れた世界の出来事”ぐらいの存在として認識しているようだった。私の持ってきたその雑誌を見ながら「結婚するのに、お金かかるんだな。世間の皆様はこの金額をどこから捻出するんだ、何、異世界?」と笑って閉じた。これからについては「ん――、かんがえとくぅ」と言ってあれからその答えは戻ってきていない。
私は彼のそんな姿をみながら自分の仕事が忙しく、楽しくなってきたこともあり、あえて問い詰めもせず、その後はこれからの事について何も聞かずに過ごしてきた。将来を放置して今だけを見る、を選択し続けているのは多分、お互い様だ。
「ほら、もう帰るよ、大丈夫? 理央」
私は話を聞きながら、いつの間にか何杯もサワーを飲んでいたようだ。
立ち上がれなくなった私を友人がかかえて、立ち上がらせてくれた。
会計を済ませた後、外に移動し、ゼミのメンバーとは解散した。
「りおぉぉ、ほんとに置いてって大丈夫なの?」
「外で少し冷たい風にあたっていれば、全然、大丈夫だよ。あー、そうそう何かあったら陸斗呼ぶし」
来ないであろう彼氏の名前を出して、友人を安心させる。
私はお店の横のスペースに座ってふぅと息をつく。
バックに入れていた水を取り出し、一口飲んでいる所に、電話が鳴る。
彼氏の陸斗からの電話だった。
珍しい。噂をしたせいからかな?
「なぁ、この前、うちにきたときにお前、スマホのバッテリーどこにしまった?」
「はぁ? 使ってないし」
「使ってないのは知ってるし、いや、お前以外にバッテリーどっかにやる奴いないだろ」
陸斗の言い方にカチンときた。
「知らないし、いつもその辺に置いてる方が悪いんじゃないの。はぁ」
「あーそうかもね、……お前、飲んでるだろ?」
”はぁ”っていうため息で気付かれた。
付き合いが長くなってきて、私の様子で指摘される。
言ったところで意味あるのかな?
彼の一言に機嫌が悪くなった私は彼に言う。
「飲んでて悪いの?」
「そんなことないけど。どうせ飲みすぎたんだろ?」
「あーそうですけど、だから何? 休んで帰るよ」
どうせ来てくれないであろう彼に対して私は押し問答を続けた。
「ほんと十分に休めよ。酔っ払ってる中の怪我はひどいからな。電話して悪かったな。後でわかったらバッテリーがありそうな場所、教えて」
そうだよね、社会人数年も経って飲みの量ぐらい自己管理するべきで、迎えにくることなんて思いつくこともないよね。彼の受け答えを見て、私も意地張って甘えたりしない。
そうやってさっきの自分の言葉がナイフとなって私を切りつけた。
私、何やってるんだろ。
「はーい、じゃあね」
この先、私たちはどこに向かっているんだろう。
別れに向けて、日々を更新しているのかな。
それでも――別れに至るような決定的な何か、例えば私が彼を嫌いになるようなことは起きない。
彼じゃない他の人、誰かとイチから恋愛をはじめることも想像できない。
こういうのを倦怠期と言うのだろうか。
今、ちょうどよい温度でここから出たら確実に寒くなるのがわかっている場所に長いまま浸かってしまい、出るタイミングを逃した人のように同じ場所で立ち止まってしまった。
そうわかっているのに、理由もなくどこにも動きたくないと言う自分がいる。
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