ダイバーズ・マンション

葉野ろん

竜宮城のつくりかた

 こちらの建物などどうでしょうかね。ええ、この海域は塩味が濃いですから。うまくすれば本棚にいくらか、まだ読めるのがあるかも。古本、お好きですよね?あ、いっかい服の減圧しときましょうか。潜水時間が今で20分くらいですね。苦しくないですか?よーし、じゃあ開けますね。せーの。


 社宅だったんですかね。見た感じ破損は少ないですね。サッシもあんまり歪んだりしてないんで、作業が楽で助かります。この部屋がリビングで、個室がここにふたつ。キッチンの裏に浴室と洗面台。二階も見ましょうか。個室がひとつ、ここは収納か。浸水してもそんなに荒れてませんね。立て付けもいい。丁寧な施工です。こう沈んじゃったんじゃ、どうしようもないですけどね。いやあ、もう二年も経つんですね。大陸まるごと沈没なんて、まだ実感も何もないですけど。


 家具をざっと見た感じ、子供ひとりの三人家族で住んでらしたんですかね。お客さんは……独り身でしたか、失礼しました。抽選はどうなさったんで?はあ、技術者枠で。ええ、厳しかったそうですね。私だってそうですよ、独身の技術者枠。いえね、実は私の兄夫婦が追加抽選で当たってましてね。あっ、ここが書斎ですね。どうですか、読めそうな本は?


 もしよければ、このまま工事も始めちゃいますよ。外壁を耐圧のに替えて、外気のケーブルひいて海水も抜いて、二週間もすれば住めるようになります。はい、任せてください。これでも技術者なんでね。抽選落ちですけど。あ、いえすいません。


 あ、ほら見てくださいこれ。このケースね、対亜高速装備ですよ。ここ、抽選に当たったほうの家ですね。ひとつ残ってるってことは、出発前にひとり亡くなったのかな。よく聞く話です。兄たちだって、その空いた枠で乗ってるんですし。火星か木星のあたりまで行って、いつか地球に帰ってくるんですかね。失礼。ではこれより、海中における住居改修作業に入ります。お客様は母船で待機を。


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ダイバーズ・マンション 葉野ろん @sumagenji

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