心の故郷を探して

O型はんなり

第1話

「こちらが次の家になります。ご確認ください」

 ここまで何件か案内されたがやはりどれもしっくりと来なかった。

 スタッフに促されて目を開ける。


 そこには古き良き日本の原風景を残す一軒の家が佇んでいた。しっとりとした苔が生えた石垣と、緑豊かな木々に囲まれ、どこかあるはずのない懐かしさを感じさせる。


 家に入り歩いて回ると畳の香りと木のぬくもりに包まれた。

「いかがでしょうか、この家の雰囲気は?」

「良いな。心が落ち着くような気がする」

「そういっていただけると嬉しいです」

 スタッフは誇らしげに胸を張って言った。


「この家は懐かしさを感じられる雰囲気つくりを大切にしていて、景色はもちろん体感できる香りにもこだわっております」

 なるほど、懐かしさの原因はそれか。


「実際に見たことはないが田舎というのはこんな感じなんだろうな」

「ええ、参考文献を基に再現には力を入れております」

 少しずれたスタッフの言葉に苦笑いを浮かべる。

「物質的に不自由のない現代ですが、やはり精神的な休息は必要ですからね。このタイプの家は世代を問わずに人気なんですよ」

 スタッフは案内を続けた。


「今は感じられない自然の美しさや雰囲気を感じられ、リラックスできる空間となっております。空気にもこだわっていまして」

 そういってスタッフは大きく息を吸う仕草をする。


「ほら、お客様も試しに深呼吸してみてください」

 促されて目を閉じ、深く深呼吸をする。冷たく新鮮な空気が肺を満たして清々しさを感じられたような気がした。


 どこまで行っても仮初の空間だと思っていた。

 しかし仮初とはいえリラックスできる事は事実だ。素直になって自分の心に従うことにする。


「案内ありがとう。ここにするよ」

 そう考え決断すると後は早い。私はその場で契約を交わした。

 そして機械的なアバターのスタッフは微笑みのようなものを浮かべながら答える。

「本日はフルダイビング・ハウジングをご利用頂きありがとうございます」

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心の故郷を探して O型はんなり @ogata_hannari

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