ワーカホリック・ゲーミング

麝香連理

第1話 始まりとテコ入れ

「準備は出来た?」

「はい、社長。後はこのボタンを押せばサービス開始です。」

「ここまで苦節三年、遂にか!」

「苦節って、社員其々がAIを使った仮のゲーム世界のどれを正式に使うか、決めかねてただけじゃないですか。」

「いやぁ、だってどれも魅力的で……」

「それは否定しませんが………もう宜しいのでは?」

「確かに、もうこんな時間か。」

「それでは、どうぞ。我々社員の給料の為にも。」

「ハッハッハ!そうだね、必ず成功させないと。

 いざ、開始!」

 












 

「どうだい?ゲームの調子は?」

「社長、お疲れ様です。そこそこって感じですかね。わが社の歴史が古い分、長らく利用してくださっている方々が遊んでくれています。」

「へぇ~つまり?」

「若い客層が食い付いてくれません。」

「やっぱり~?」

「そうですね。似たようなソフトはたくさんありますし、わが社のような吹けば飛ぶ会社よりも大手の方が良いと言うのはしょうがないですから。」

「テコ入れが必要と……」

「特に案はありませんよ?」

「…………しょうがない、今いる社員で作戦会議だ!」











「課金要素を増やす、グラフィックの向上、オープンワールド特有の自由度の増加……どれもぱっとしませんね。」

「でもオーディールちゃん、それくらいしか思い付きませんよ。」

 ここは、ネットの中。社員達が作った会議用の世界で我々は会議をしている。それにともない、名前もそのキャラクターの名前を使用している。

 名付けは社長である私だ。由来としては社員達がゲームで好きなやり方、と言えば良いのだろうか?

 オーディールは、自身が管理するAIを搭載したキャラクター達に試練を与えることが多いからだ。

「オブザーバー、無いなら絞り出しなさい。あなたは一番若いんだから。」

「はいぃ……」

 オブザーバーは丁度我々がAIを搭載したゲームを取り入れようとした時期に入社した子で、名前の由来はキャラクターを尊重し観察することが好きだからだ。

「そうは言われてものぉ、思い付かんわ。」

「弱音を吐かないで下さい、タンポさん。」

 タンポはターニングポイントの略だ。会社立ち上げの時から在籍してくれていて、唯一アバターが人ではなく、押すなと書かれた垂れ幕を下げた赤い押しボタンである。

 タンポもしくは岐路とも呼ばれている。

「イベントか何かを追加するとかは?」

「そのアイデアは?リソースは?」

「………」

 今論破されたのがカインド。名前はそのまま優しいという意味である。

「手詰まりか~。」

「社長も何か案を出してください。」

「うぅん………」


「おぉ、ハディードありがとう。」

 今のは、ネット内でタンポの助手をしている、AIのハディードだ。

 助手というのは、管理しているゲーム世界に派遣して管理をスムーズにしたり、これをしたらどうなるのか?等の実験をするためだ。


 むっ……………………………………………………

 ピーン!閃いたぞ!

「オーディール!良いことを思い付いたぞ!」

「何でしょうか。」

「その期待のない眼差しを向けないでくれ。

 我々、社員がゲームのキャラクターとして出演するのは、どうだ!」

「プログラムの管理は?」

「ゲーム内で出来るように上書きしよう!」

「いつから?」

「次に大々的にアップデートを行い、その時に新ワールド解放と共に我々がNPCとしてロールプレーするレイドボスが現れたことにするのさ!」

「新ワールドとは?今準備しているものではなく?」

「社員達が管理している世界をくっつけよう!」

「それではグラフィックや設定が……」

「それは何とかする!」

「いや…」

「それ以外に方法は無い!」

「………………皆様異論は?」

「無いです!楽しそうですね!」

「フム、ならワシも新しくアバターを作っておかないと。」

「僕も敵対しなければならないのでしょうか?」

「いや、カインドがプレイヤーの味方をする立ち位置でも面白のではないか?」

「そうですね!」

「オーディール、どうかな?」

「他の方々にも確認します。それと私は社内での仕事で、そういうロールプレーは苦手なので。」

「もちろん、強要はしないよ。」

 結果、私とオーディール、世界を作っていない社員を除いた全員がロールプレーを希望した。

 計算違いがあったとすれば、アップデートに半年も掛かってしまったことだ。プレイヤーもそれなりに減ってしまったが、ここから盛り返せば良いのだよ!







コンコンコン

「失礼します。」

「どうしたんだ?オブ…じゃないや。」

「いえ、構いませんよ。気に入ってはいますから。」

「含みがあるね?」

「可愛くないですからね。」

 それは……なんかごめんね。

「それで、話って?」

「あの後、助手AIの導入は皆さん否定的でしたよね?」

「確かに、何か問題が起きたらそのAIにも影響があるかもしれないからね。」

「その件なんですが、私の助手AIをゲーム内に入れて欲しいんです。」

「それはなぜ?」

「その方がその子が、コルテが喜ぶと思ったんです。」

「そうか。とりあえず今は保留でいいかい?何か重要な役割が出来たらそれを任せたい。」

「分かりました!では、コルテの資料を持ってきたので、時間がある時にでも目を通してくれると嬉しいです。

 それでは、失礼しました。」


 んーー今の所、保留で良いか。

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