女一国一城記

そうざ

A Woman is Feudal Lord

 一生涯暮らせる家。周りを見渡せば、新築しか考えられないという女子は多い。皆、その為に血道を上げている。

 だけど、それは本当に最良の選択だろうか。環境破壊が進んでいる事は、誰もが肌で感じている。これまで通りの価値観で良い筈がない。


 初夏の一日、私は空き家探しに奔走した。中古物件を活用する事こそが新しい世代に求められる生き方だと悟ったのだ。

 やがて、私は或る一軒の屋敷に辿り着いた。

 庭木は茂り放題、板壁は腐り掛け、軒瓦が今にも落ちて来そうな、廃屋と言う方が早い、年季の入った古民家だった。以前の住人が引き払ってから一体どれだけの歳月が流れたのだろうか。

 とは言え、風雪で朽ちて行くのは天然の建材から作られた証拠でもある。軒の深さも気に入った。或る程度の修繕は覚悟の上だし、寧ろ持ち前の器用さを発揮出来る良い機会に思えた。

 それに立地は悪くない。街の中心部から遠く離れ、閑静で、空気が澄んでいて、緑に囲まれている。自給自足にも子育てにも持って来いで、先々に家族が増える事を考えれば最高の物件だろう。

 

 ――そうだ、私が本当に欲しいのは共に暮らす家族だ。

 あれは秋の頃だった。彼は唐突に現れ、私をいざなった。私は抗えない何かに突き動かされていた。私だけが軽率だったとは思わない。同世代の誰もが欲望の赴くままに行動していた。そこに微塵の後悔もない。

 私の体内には新しい命が宿っている。直感で判るのだ。

 彼は今頃、どの空の下を彷徨っている事だろう。彼が一所ひとところに落ち着けない性分なのは直ぐに判った。だから、私は引き留めようなんてまるで思わなかった。彼とは家族になれなかったけれど、彼は私に家族を与えてくれた。本当にどれだけ感謝してもし切れない。


 もう暫くは孤独な日々が続くだろうが、私はへこたれない。こう見えても、女手一つで立派に道を切り開いて来た家系の末裔だ。

 私は晴れて一国一城の主になった。この愛の巣できっと立派な女王蜂になってみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女一国一城記 そうざ @so-za

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画