第2話 単騎無双

 今回の仕事は、ここ最近勢力を増してきている反社会集団、終の龍門ついのりゅうもんの支部の殲滅だった。


「基本は捕縛、抵抗するようなら殺す、だったよな?」


 斗真はスマホから依頼の要項をチェックした。

 普通のオフィスビル、そこの非常口から侵入する。


「うわ、悪趣味だな」


 そこには龍の絵が赤い墨で描かれていた。


 神経を張り巡らせ、気配を察知する。

 ここから1番近いのは……


 そうして右に足を踏み出した瞬間……


「あ」

「っ!」


 廊下の先にあるドアがちょうど開き、終の龍門の構成員と目があった。


「誰だおま、グエッ……」


 叫ぼうとした構成員Aに一瞬で距離を詰め、首筋に左の手刀を叩きつけた。構成員Aが倒れそうになるのを支えて床にそっと寝かせる。


 思わず、舌打ち。明らかに遅かった。絶対、今の音は聞かれただろう。


 実際、周囲から人が集まってきている音がする。

 数はだいたい50くらいか。

 一気に相手をしても、まあ勝てるには勝てるが、負担が大きいだろう。


 廊下の曲がり角を曲がって1人が現れる。向けられた銃口を避けながら左の窓を裏拳で叩き割り、外に飛び出した。

 すぐさまダクトホースを右手で掴み、腕の力だけで上に登る。


 そのまま屋上のを掴み上に登る。


 そこで腕を組みながら数秒。

 屋上にあるドアが勢いよく開いて、構成員たちが殺到した。


 飛来する銃弾を前方に倒れ込むようにかわす。

 その勢いのまま滑るように接近。


 斗真は左親指を強く握り込む。すると、スイッチが入り、『機構』が発動する。


 左の手甲から鉤爪が伸びる。


 それを振るい、一番手前の男の腹を切り裂く。そして、右手の完全に握った拳を叩きつける。


 男の胸板に突き刺さったその拳を間髪入れずにさらに強く押し込む。


 鈍い衝撃音が、響いた。


 男の胸が大きく陥没し、後ろの構成員たちを巻きこんで吹き飛ぶ。

 斗真は右腕を引き抜きながら一度下がる。爆音が轟き、肉片、砕けた骨、大量の血液が飛び散る。




 衝撃インパクト。右手の全ての指を握り込んだ状態で、さらに強く握り込んだ時に発動する機構。

 1回目の握り込みで右の手甲から金属製の杭が伸び、2回目の握り込みでそれを勢いよく射出する。この射出速度は亜音速とほぼ等しい。


 射出後1秒でその杭が爆発する。


 つまり、『拳による打撃』、『杭を勢いよく突き刺す』、『杭が爆発する』の3段仕掛けの大技である。




 斗真は腰のホルダーから追加の杭を取り出して手甲に装填する。


 そうして、今にも倒れそうなほど青ざめた『終の龍門』の構成員たちをニヤリと笑って見やった。


「お前らさ、今までいっぱい人殺してきたろ?」


 ゆったりと歩きながらそいつらに話しかける。


「つまり、お前らは狩る側だったってわけだ」


 左の手甲から再び鉤爪を伸ばす。


「ここで大事なことを教えてやろう」


 飛んできた銃弾をかわす。


 床を蹴って、加速する。


「今は、お前らは狩られる側ってこと」


 爪を振るって、男らを薙ぎ倒す。

 いくら仲間がやられたとはいえ、さすがはアウトローだ。攻撃を再開すると斗真を取り囲むように反撃してきた。


 数では圧倒されている。しかし、所詮ただ武装しただけの奴らだ。

 数人異能を宿した武器を持っているが、災級Iにも満たないその戦闘能力は斗真からしたら誤差程度。


 その程度の奴らに、負ける理由は一切ない。

 混戦状態に陥っている現状では左の爪はあまり有効ではない。切れ味は良いが、雑に扱って誰かの骨にでも引っ掛かったら抜けなくて面倒臭い。


 そんなことに気がつき刃を収納し、機構を用いない戦いに打って出た。


 男の足を掴み、ぶん回す。

 その勢いで周りの構成員を吹き飛ばし、いい感じになったところで真上に放り投げた。

 横薙ぎに払われた日本刀をダッキング。その低くなった姿勢で手のひらを着き、ブレイクダンスの要領で周囲の足を払う。


 そのまま蹴り上げ。

 手頃な構成員の顔面を蹴り付ける。

 1回転して、立ち上がる。

 武器を手に向かってくる構成員を迎え撃つように重心を落とした。




 見ると、斗真を囲む人の壁はかなり薄くなっていた。その立っている人も肩で息をするなど、無事なものはいない。


「お、お前……何者だ……?」


 日本刀を床についてかろうじて立っている男の質問に斗真は仮面の下でニヤリとわらう。


「八咫烏」

「カラスにはこんなバケモンがいるのか……」


 その男は震える腕で日本刀を構えた。それを見て拳を打ち合わせる。


「さて、やるか」


 斗真は笑いながら頬についた返り血を拭った。




「ここってどうやって解くの!?」


 終の龍門の支部を壊滅させた数日後のこと。斗真は図書館で柚月と勉強会をしていた。


 そして、ほとんどと言っていいほど問題の解けた様子のない柚月が数学の問題をこちらに見せつけてきた。


「ここの式がなんでこうなるのか教えて!」


 それを無感動に眺めて斗真はペンをノートに走らせる。


「まずこの式の右辺のこの値を部分分数分解して……」

「ぶぶんぶんすうぶんかい……」


 なんか部分分数分解って語呂いいよな。




 勉強会を通じてとりあえず、理解した。この少女、結構アホだ。

 勉強ができないというか、本質的に、抜けている。


 とは言え、それだとありがたい。探りを入れやすくなるのはもちろん、斗真の行動を見透かされることもないだろう。


 さて、見極めさせてもらうとしよう。

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