魔の森の調査1
ギルドマスターに魔の森の異変について調査するように頼まれたアリイとセリーヌは、冒険者ギルドで簡単な情報収集をした後魔の森へと向かう。
セリーヌは魔物の知識についても豊富ではあるが、その魔物が普段魔の森のどこに生息しているかなどは知らない。
ブラッドベアを狩りに行った時は受付嬢に説明を受けたので、大体の位置を把握出来ていたが今回は狩りが目的ではなく調査が目的だ。
多少は魔の森について知っておかなければならない。
「森の最も浅い場所はそこまで異変があるとは思えぬな。今のところ、最下級魔物しか出てきていないと見える」
「そうですね。ゴブリンやコボルトなど、よく見かける魔物ばかりです。そういえば、アリイ様はコボルトを見るのは初めてでしたね」
コボルト。
二足歩行の狼とも言われるこの魔物は、ゴブリンに並んで有名な最下級魔物の一体である。
茶色の毛皮と手作りの槍。その口で噛み付いた方が絶対に強いだろと多くの冒険者からバカにされる、少し可哀想な魔物。
ゴブリンほど生息域が広い訳では無いが、基本的にどの場所にも存在する弱々しい魔物だ。
ただし、ゴブリンよりは少し強いと言われ群れで行動することが多いため新人冒険者にとっては、ちょっとした壁となる。
そんなコボルト達は、セリーヌの大鎌によって首を切り落とされていた。
セリーヌは、解体する手間とそれに対する金が見合わないとは思いつつ、目の前に落ちた硬貨を拾う。
昔から貧乏性だったセリーヌは、落ちている硬貨を拾わざるを得ないのだ。
「アリイ様、そちらを解体してください」
「大して金にもならぬのに、熱心なものよ。命を奪った者としてその者を無駄にしない心には感心するがな」
「この癖は、聖女となりお金に困らなくなっても直りませんね。アリイ様にもあるでしょう?こういう、昔からの癖が一つや二つぐらい」
「フハハ。あるな。週に一度は友を呼び出して遊ばないと気が済まぬ」
「あぁ........アリイ様は寂しがり屋でしたね」
セリーヌは、旅の途中焚き火を囲みながらアリイと戯れるサメを思い出す。
最初はセリーヌに気を使っているのか、こっそり隠しながらサメと戯れていたりセリーヌが寝た後に遊んでいたりしたのだが、最近ではセリーヌもサメと遊ぶようになっていた。
とは言っても、頭を撫でてやる程度だが。
確かにサメと触れ合う時間は楽しく、そして心が安らぐ。週に一度はサメと触れ合わないと気が済まないアリイの気持ちが、少しだけ分かった。
「アリイ様のご友人達を見ていると、私もそのような友人が欲しくなりますよ。愛らしく、そして共に戦う頼もしい存在が欲しくなります」
「そういえば、セリーヌは聖女の立場にあると言うのに、何らかの魔物や神獣を従えておらぬな。我の世界では、聖女に付き従う魔物がいるのが当たり前だったのだが........」
「そうなのですか?」
セリーヌはコテンと首を傾げながらも、解体の手を止めることは無い。
その血にまみれた手がなければ、セリーヌは万人を魅了する美しい少女だっただろう。
「魔狼の主フェンリルや不死鳥フェニックスなど、古くからその強大なる力によって人々に崇められ共生を築いてきた魔物が聖女と共に現れる。我の世界では、それか当たり前だった」
「フェンリルにフェニックスですか。もしかして、白銀の狼だったり炎の体の鳥だったりします?」
「おぉ!!そうだそうだ。どうやら、この世界にも似たような魔物が存在するようだな」
古着伝説は、世界が違えど同じらしい。
アリイとセリーヌは共通の話題を見つけて盛り上がった。
世界が違い、趣味嗜好も異なる二人だ。共通の話題というのは、話を繋げやすく盛り上がりやすい。
それが、伝説と言われる存在ならば尚更。
「この世界ではどのような扱いになっているのだ?我の世界では、知能が高く人々を守護してきた魔物として伝説に語られている。魔族にもその話が伝わるぐらいだ。戦場でその魔物の姿を見たものが、興奮のあまり立場を忘れて我の背中を叩きながら叫ぶほどにな」
「........その兵士さん、中々見所がありますね。この世界でも扱いはそう対して変わらないと思いますよ。ただし、彼等は人の下に付かず、自らが住む場所を守護しています。聖女の元にひれ伏すということは聞いた覚えがありませんね。触らぬ神に祟りなし。正しく、触れてはならぬ伝説の存在とされています」
「ほう。我の世界では戦場に出れば見られる光景だったが、この世界では違うのだな」
「そうですね。何処にいるのか何をしているのかも分からないです。そもそも存在そのものを否定する人もいますよ」
古くから言い伝えはあるというのに、その姿を見たものは誰もいない。
アリイはそんな伝説の存在を探してみたいと思ってしまう。
別に戦いたい訳では無いが、誰も見た事がない伝説をその目に焼き付けたい。
アリイはこういう話にロマンを感じるタイプであった。その昔、海の主と呼ばれる伝説を探しに行った時のように。
「是非とも見てみたいな。我の知る伝説と同じなのか、はたまた言い伝えが同じであってその姿形は異なるのか。気になるではないか」
「噂話を集めれば、いつの日かそれらを目にする日が来るかもしれませんね。ですが、生涯をかけて彼らを探し、夢叶わず敗れた者も多くいると聞きます。伝説を探す前に人類が滅べば、その噂話すら聞けなくなりますよ」
「フハハハハ!!だから人類を殺すのは待てと?上手いことを言うではないか。そもそも、魔王を殺すまでは人に手を出すことは無いと約束しただろう?」
「そうでしたっけ?」
「........結構重要なことでは無いのか?」
人類の滅びに関してあまり関心がないセリーヌに、何故かアリイの方が心配してしまう。
この少女は、本当に自分の保身しか考えていないのだ。
全人類が滅んだその時は、自分の名を語り継ぐものも消えるためそれはそれでいいとすら思っている。
こんなのに人類の未来を託した、このシエール皇国は絶対に人選を間違えている。
アリイは強さと見た目だけで聖女を選んではならないのだなと、改めて感じた。
「よし、解体おしまい!!次の調査に行きましょうアリイ様。森の最も浅い場所は異常なしです」
そう言うセリーヌの顔は、どこか苛立っている。
セリーヌを苛立たせる理由など、この場において1つしかない。
コボルトの解体が面倒なくせに大して金にならないからだ。
解体せずに捨てればいいのだが、セリーヌの性格上それが出来ない。アリイはセリーヌに呆れた視線を送ると、一言呟く。
「........その顔に本音が出ているぞ。“金にならん”とな」
「そ、そんなこと思っていませんよ。こんな、金にも食料にもならない魔物が蔓延る森にいるだけ時間の無駄とか思っていませんから」
「その言葉、思っていなければ出てこぬよ。全く。これがだから、セリーヌは聖女には似つかわしくないと言われるのだ。昔からそんな感じだったのだろう?」
「私を聖女に選んだシエール皇国に言ってください。私は聖女の前にセリーヌと言う一人間なのです。その生き様を変えることは出来ないのですよ」
「フハハ。15しか生きていない少女がよく吠える。そういうセリフを言うには、後15年は必要だぞ?」
「うるさいですよアリイ様........ところで、アリイ様って何歳なのですか?」
「フハハ。それは秘密だ。紳士の年齢は聞くものでは無い」
「それを言うなら淑女でしょ........」
こうして、アリイとセリーヌはさらに森の奥深くへと入っていく。
今はまだ、魔の森は平和なままだ。
後書き。
兵士「見ろよ‼︎アレフェンリルだぜ‼︎」(アリイの背中バシバシ)
アリイ「お、おう。そうだな(困惑)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます