反逆者(リベリオン)
レーベスの街に来てから四日が経過した。
冒険者としての階級を上げるため、そして路銀を確保するためにアリイとセリーヌは毎日のようにダンジョンに赴いてはオークを次から次へと狩り殺す。
ダンジョンに潜り始めて三日しか経っていないものの、その数は500を超え、魔物が無限に湧き出るダンジョンでなければその場所にいるオークは全て絶滅する勢いであった。
落とした素材は全てアリイが回収し、その全てを冒険者ギルドに売り捌く。
気づけば、アリイ達の財布はかなり重たくなっていた。
「ふふふっ、これなら暫く路銀に困らなさそうで良かったです。ここから先は、大きな街に寄ることも少なくなりますからね。村でちまちまとした依頼を受けずに済みそうで何よりですよ」
「確か、この国を出るまではそれほど大きな街には寄る事は無いと言っていたな」
「はい。ここから先は村を転々としながら、ヒールクの街を目指します。国境に一番近く、その中では大きな街ですね。次の目的地にもなりますよ」
「そしたら、いよいよこの国とはおさらばするわけだ。フハハ。長い旅路になりそうだな」
アリイはそう言いながら、カップに入った紅茶をすする。
アリイの世界にも紅茶のような飲み物はあったが、正直あまり美味しくなかった。
しかし、シエール皇国で作られる紅茶は中々に美味しい。
アリイは、旅の間紅茶の飲み比べを楽しむのも悪くないかもなと思いながら、その香りと味を楽しんだ。
セリーヌも、優雅に紅茶を飲んで寛ぐ。
ただ1人を除けば、その空間は穏やかだっただろう。
「そいつは良かった。聖女様の顔を見なくて済むと思うと清々するぜ........何せ、毎日馬鹿げた量の素材を俺に押付けてくるんだからな!!帰れよ!!明日金は渡すから帰れよ!!宿で休め!!ここはお前らが寛ぐ場所じゃないんだぞ!!」
呑気に紅茶を飲むアリイとセリーヌを見て、青筋を浮かべながら怒鳴るギルドマスター。
彼の手には紙とオークの魔石が握られており、その顔には明らかな疲れが見える。
この三日間。普段では考えられないような数の素材を持ち込み、その仕事の全てをギルドマスターに押付けたこの二人は、ギルドマスターからすれば悪魔に見えるだろう。
しかも、毎回紅茶と茶菓子をたかるのだからタチが悪い。
勝手に食べるだけならともかく、準備までさせるその傲慢さには流石のギルドマスターだって文句を言う。
「仕方がないじゃないですか。アリイ様の魔法を見られると厄介なのですから。ギルドマスターならば、邪な考えを持たなくて安心できますからね」
「フハハ。すまぬな」
「百歩譲って、それは許すとしても、毎回俺に紅茶を入れさせて茶菓子まで強請るな!!俺はお前らの執事じゃないんだぞ!!」
「あら、私が貴方にしてあげた事に比べれば、この程度のことは許されると思うのですがね?どう思いますか?アリイ様」
「フハハ。我はセリーヌに付き合っているだけだからな。そこら辺は我の知るところでは無い」
サラッとすべての責任をセリーヌに押し付けるアリイ。
セリーヌと出会って約1ヶ月程。セリーヌの扱い方を理解しているアリイは、自分の保身に走った。
一切悪びれもせず、堂々と紅茶を飲みながらお菓子を摘む2人に、ギルドマスターの顔はさらに険しくなる。
しかし、実力行使はできない。
何故ならば、この2人はこの街の人間全てを相手にしても蹂躙できるだけの力があるからだ。
文句を言う分には許されるだろうが、実力行使をした日には間違いなく自分の首が飛ぶ。
権力よりも財力よりも、単純な暴力が1番勝るのである。
「クソッ、こんな女に借りを作ったがばかりに、こんな目にあうなんて........」
「そのお陰でその椅子に座れているのでしょう?感謝こそあれど、文句を言われる筋合いはありませんよ。ましてや、裏社会に精通する人にかける慈悲などありません」
「これがこの国の聖女なんだから終わってる。誰かこの悪魔を討伐してくれよ.......アリイさんも何か言ってくれ。紅茶を嗜むな」
「フハハ。ギルドマスターよ。我は一応セリーヌの部下という扱いなのでな。あまり意見は言えぬのだよ。後、我はこの紅茶が好きなのだ。意見する意味が無い」
「これが世界を救う勇者とか、もう終わりだよこの世界。誰か真の勇者様を召喚してくれ。俺は疲れた........」
そう言いながらも、魔石を数える手を止めないギルドマスター。
一応文句は言うが、どうせこの聖女が態度を改めることは無いと知ってる。特に、自分が優位に立っていると分かっているのだがら、その優位を手放すはずもないのだ。
聖女あるまじき行動である。
もはや、悪魔の方が慈悲深いのかもしれない。
「そういえば、暗殺者への対策はどうしたんだ?」
「何もしてませんよ。どうせ私を殺すのは無理ですしね。適当に泳がせて、ある程度情報が集まったら仕留めます。情報は集めているのでしょう?これでも、貴方に気を使っているのですよ」
「気を使ってるんなら、今すぐ帰って欲しいけどな。まぁ、多少情報は集まってる。特に、依頼主に関してだな」
「ほう?依頼主の話か」
暗殺者は依頼主について絶対に語ることは無い。もちろん、自分の命が惜しい場合はその限りでは無いが、話してしまえば信頼に関わるため今後のためにも口を滑らせることは無いのだ。
しかも、今回は外部からの暗殺。その依頼主の情報を集めるとは、かなりの腕前である。
アリイは素直に感心した。
「その依頼主とは?」
「まだ確定では無いが、幾つか絞れてはいる。1番可能性が高いのが、“
「報告書で見ましたね。なるほど。確かに有り得る話です」
勝手に話を進める二人。
この世界に来て間もないアリイはその組織がどのようなものなのか分からないので、質問を投げかける。
「どのような組織なのだ?」
「魔王が出現したと同時に活動を始めた組織です。世界各地に散らばっており、魔王軍の味方をする組織と言われています。要は、人のみでありながら人類を裏切った反逆者なのです」
「フハハ。どこの世界にも似たような者が居るのだな」
“
魔王が出現すると同時に活動を始めた組織であり、魔王軍の味方を自称する人類への反逆者。
その目的はハッキリとはしていないが、セリーヌが知っている中でもかなり巨大な組織だ。
暗殺、誘拐、テロ、ありとあらゆる犯罪行為に手を染め、人々に害を成す。
そんな組織が反逆者なのである。
(我の国にもいたなぁ。魔族でありながら人に味方をする反逆者達が。そして、その逆も)
一通りの説明を聞いたアリイは、自分の世界でも似たような組織があったなと懐かしむ。
人のみでありながら、魔族に与する者。魔族でありながら、人に与する者。
結局は自分の欲を満たすためだけの連中であったが、そんな組織がいくつもあった。
そして、この世界にも似たような組織がある事に親近感を覚える。
「その者達からすれば、セリーヌを狙わぬ理由がないな。むしろ、狙うのが遅すぎるぐらいか」
「全くだ。俺がその組織のボスなら、いの一番に狙うな。殺せるかは別として」
「異世界から並外れた戦力を呼び出せる存在ですからね。確かに今まで狙われなかったのが不思議です」
そう言って首を傾げるセリーヌ。
セリーヌは反逆者達にとって最も目障りで邪魔な存在だろう。なのに何故、今まで狙わなかったのだろうか。
「実は、狙っていたけど自覚がないとか?」
「フハハハハ!!セリーヌならば有り得そうだな!!」
「そうですかね?あ、いや、毒を仕込まれていたことは何回かあったような........」
サラッととんでもない事を呟くセリーヌは“あれって暗殺だったのかな?”と、頑張って記憶を思い起こすのであった。
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