untitled

@rabbit090

第1話

 真正面切って、ヤバい顔。

 どっか浮かれていたのかも、とにかく、私。

 「大丈夫、すぐ済むから。」

 「すぐ?」

 そんなはずはない、そんな、早急なことではない、それは明白だったから。

 「適当なこと言わないで。」

 「言ってないよ、僕は、嘘はつかないんだ。」

 「…はあ。」

 まあ、いいけど。

 だってどうせいなくなるんだし、そんなの分かり切ってるんだし、だからこそ、大丈夫なのよ。

 「目、開けて。」

 「え?」

 けど、思わなかった。だって私、絶対にダメだって思い込んでいたから、そうか、彼の言う通り、私はついに、おかしくなってしまったのだろう。

 病気で、もうしばらくずっと、ちゃんとしたものすら食べられていなかったというのに、私の体は元のように艶やかで、健康的だった。

 「はは、じゃあ私、本当に死ぬのかな。」

 それは、ただ漏らしてしまった言葉だけど、彼は、笑っていた。

 「気にしなくていいよ、そんなの。どうでもいいんだろ?」

 「…まあ、そうだけど。」

 

 私が、この病気だって分かったのは、随分前のことだった。

 体調不良は続いていて、ついに起き上がれなくなった。

 そして、仕方なく病院へ行くと、私はどうやら、助からないということだけが分かった。

 彼は、その日は仕事だった。

 いつもいつも忙しくしているから、どのタイミングで、私が死ぬかもってこと、伝えればいいのかなって、悩んでいた。

 しかし、彼にはバレていた。

 彼は、私が切り出すのを待っていたらしい。そりゃそうか、私病院嫌いだし、無理に連れて行っても、おへそを曲げて、絶対に行かない、なんて言いかねないしね。

 「でさ、別れる?」

 「何で?」

 まあ、そうだけど、でも。

 私も彼も、若い。

 だから、死ぬかもしれない、なんて女は放っておいてくれたっていいじゃない。

 私、一人でも大丈夫なんだから。

 これは拗ねてるとかじゃなくて、ただただ不安だったのだ。

 私は、両親を失った。

 成人して、すぐのことだった。

 子供の時、とかではなくって、もう家族と、深く深く、知り合っているっていうか、とにかく絆のようなものができてるでしょ?だから、痛くて。

 経済的にも、自立しなきゃいけないし、でも私はまだ、大学生だったし。

 そして、何とか裕福な親族に金を借りて、卒業することはできた。

 しかし、彼にも、なんていうかそういう、大事である、的な存在がいなくなってしまうっていう、辛さを味わってほしくなかった。

 だから、

 「いつでもいいから。」

 そう、ごねた。

 けど、これは?

 何なのだろう。

 麻薬、かな。

 私の理性的な部分が、この現象をそう説明した。

 もう助からないから投与された麻薬で、私は幻覚を見ている。そう考えれば、つじつまが合う。

 ああ、でももういいか。

 彼とはすっぱり別れたはず、だよね。

 でも、もうあいまいだから。

 ただ、健康的な自分がいて、彼がいて、やっぱり幸せだった。

 私は、死にたくない。

 彼が、好きだ。

 だから、

 「だから、あのさ。本当はね、私。絶望しちゃった。パパもママも死んでるし、で、まだ20代なのに病気だって、それって、なんか理不尽。」

 「ああ、分かってるよ。」

 「分かってる、分かってるから。」

 そうか、そうだ。

 私は、彼を失うつもりはない、だから、ぜったに死ねない。

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