本命彼女だけにお返ししたいもの

羽間慧

第1話 キャンディーの場合

 この話は宇部松清さまの「サワダマチコの婚活」

 https://kakuyomu.jp/works/16817330664669144391


 の番外編である「サワダマチコのバレンタイン」


 https://kakuyomu.jp/works/16818023212812062465


 および「サワダマチコのホワイトデー」


 https://kakuyomu.jp/works/16818023213353522894


 の二次創作になります。ネタバレを含んでおりますので、未読の方はぜひ本編を先に読まれてくださいませ。

 なお、以前書いた二次創作「重い本命チョコでも受け取ってくれますか?」


 https://kakuyomu.jp/works/16818023213254859097


 は「サワダマチコのバレンタイン」の続編として公式認定されました。ありがたや。

 今回はホワイトデーにまつわる話を書きましたが、こういう世界線があったのかもしれないと温かい目で見てくださると幸いです。


 原作者さまと、あのホワイトデーの裏側あるいは続きが読みたい同志さまに捧げます。





 ■□■□






「これ、バレンタインデーのお返し。受け取ってくれたら嬉しい」


 自分のアパートに着いてから、俺はマチコさんに小瓶を渡した。手毬のように鮮やかな棒切飴が、ガラスの中に敷き詰められている。装飾品の類は無駄遣いに思われてしまうものの、マチコさんだって綺麗なものは嫌いではないはずだ。


 俺から小瓶を受け取ったマチコさんは、何も言わずに見つめていた。気に入っていないのではない。その証拠に、目をまんまるにさせ、小瓶を優しく包み込んでいた。


「食べてしまうのがもったいないですね。宝石みたいに綺麗で、写真を撮りたくなります」

「分かる。瓶に入っているだけなのに、見とれるよな」


 マチコさんは飴をひとしきり眺めてから、俺に写真を撮っても良いか確認する。


 いちいち訊かなくても、マチコさんの好きにして良いのに。だが、そんな律儀なところは、嫌いにはなれない。一生直さなくて良いとさえ思う。


「マチコさんのものなんだから、気が済むまで写真撮りなよ。そうしてくれた方が、贈ったかいがある。無理にとは言わないけど」

「撮ります! 撮らせてください!」


 デスクの上に小瓶を置いたマチコさんは、急いでカメラの準備をする。俺はちょっと考えてから椅子に座った。顔を上げたマチコさんが、ぎこちなく首を振る。


 どうするのか正解なのか、必死で考えていて可愛いな。


 飴にピントを合わせようとしたら、俺の着ているニットも映り込む。俺ごと撮るのか、当初の予定通り飴だけにするのか。マチコさんの待ち受けが俺に変わらないかなと思い、生まれた企みだった。


 どうする? マチコさん?


 頬杖をついた俺は、マチコさんに微笑んだ。映り込み目当てで俺の近くに行く女は、数え切れない。写真嫌いになった俺が自分から写りにくるのは、かなりレアなんだからな。


 撮りますよと、マチコさんが言うことはなかった。隠し撮りできそうな性格じゃないから、今回は不発かな。また折を見て実験するか。

 マチコさんを俺が座っていた椅子に座らせて、キャンディーを勧めた。


「何味から食べる? 苺とか蜜柑とか、たくさんあったぞ」

「しら、恭太さんも食べます? 好きなものを選んでください」


 食い意地を張った発言だと思われていたら嫌だ。俺はやんわりと断る。


「もらえるのなら一粒食べたいけど、先にマチコさんが食べてほしいな」

「じゃあ、これにします」


 淡い水色の縦縞模様が、マチコさんの口に運ばれていく。美味しいと言わなくても、マチコさんの顔を見ていればすぐに分かる。俺は満足してマチコさんの首筋に唇を当てた。痕が残らない程度の優しいキスに、マチコさんはくすぐったそうに肩を震わせた。


「マチコさん、何味の飴だった?」

「サ、サイダー味でした。しゅわしゅわ、します……」


 パキっと飴を噛む音が響いた。


「噛んじゃだめだよ」

「首だけじゃ、なくて」


 こっちにもくださいと、マチコさんは唇を差し出す。飴が溶けるまで待てないなんて可愛い。


「好きだよ、マチコさん」


 時計の短針が動くまで、俺はキスを続けた。



〈次話 キャラメルの場合〉

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