第5話 昔のこと
少年は、私を「左京」にある小さな、3階建てのすいかマンション304号室に連れて行ってくれた。
寂れているこのマンション。白いコンクリートの壁に少しばかりツタが伝い始めている。さて、この部屋の住人は出てくれるか。
ピンポーン。
機械的な音が響いてきた。
「はーい。」
出てくれた。
「どなたですか。」
「碧園という者です。碧園一の遺骨を回収しに来ました。」
「分かりました。どうぞ入って下さい。」
ー私はここで待っています。ー
少年は言った。
部屋に入ってみれば、そこには、中年の男性(田中さんというらしい。)がいた。
「いらっしゃい。」
「こんにちは。」
「えっと、まぁ、話させてもらいますが、ハジメさんは、私の育ての親なんです。生みの親はまた別なんですけどね。春。桜の花びらが舞いを舞う頃、私は、小児がんを患ったのです。結局、治ることは無かったのですが、去年、『この国』のクヌギの樹液から骨が抽出されたんです。私は、その骨のDNAを調べてもらったんです。すると、その骨はハジメさんのものと分かったんです。それで、回収してくれる『現世』の人が来るまでここに収蔵してたんです。」
「そうなんですか。」
一瞬、無言が続いた。
「では、渡してもらえますか。」
田中さんは少し渋りたそうだったが、最良と思うものが何かを考え、碧園に渡した。
「ありがとうございます。」
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