空気の読める美少女とオタク少年のロボゲー無双
天音伽
春斗、無双の少女と出会う(1)
深夜。
良い子は寝静まり、大人は明日に向けて英気を養い、若者は体力と引き換えに娯楽を謳歌する、そんな時間帯。
神山春斗は、ゲームセンターに居た。
「バトルフロントは深夜じゃないと出来ないもんな、なかなか……」
一人ごちながら、ゲームセンターの真ん中、大きなカプセル型の筐体が並ぶ一角へ足を運ぶ。
カプセル型の筐体は全部で八基。
八基全てに『対戦中』のランプが付いているのを見て、春斗は舌打ちをする。
「んだよ、やっぱ埋まってんじゃねぇか……」
暇人どもが、と呟いてみるが、自分もそれに当てはまっている事に春斗は気づいていない。
しょうがないので、筐体の傍に置いてある大きなモニターが付いた筐体に足を運ぶ。
筐体上部に42インチ、下にはタッチパネル式の小型、二枚のモニターが取り付けられたそれは『ターミナル』と呼ばれる筐体である。
そのターミナルの上部に、ゲーム名が記されたプレートが飾られている。
『鉄騎無双バトルフロント』
それが春斗の遊びたいゲームの名前だった。
春斗は慣れた手つきでタッチパネルを操作。ウェイティングモードを起動すると、タッチパネル横のセンサーにスマートフォンをかざす。
これが順番待ちの予約券の役割を果たしていて、順番が来るとスマートフォンが知らせてくれる。おまけに順番ぬかし対策としてスマートフォンを筐体にもかざさなければゲームを遊ぶことが出来ない。
スマートフォンに表示された待ち番号は『2』。
番号を見て、春斗は「ん……?」と思う。深夜とは言え、バトルフロントは昼間には数十人単位で待ちが出来るゲームだ。少し数が少なすぎる。
そんな事を考えながらターミナル上部のモニターに目をやると、答えが映っていた。
「んげ、『ネオス』がいるのか」
ネオス。
バトルフロントの中でも上位ランクに位置するプレイヤーの一人。『三六騎』の一に数えられるプレイヤーであるが。
そのネオスの試合が終わる。
筐体が開き、現れたのは金髪のいわゆる『ヤンキー系』の男だった。
金髪、ヒョウ柄のアウターに紫のパンツ。銀のネックレスにピアス。
「今日も雑魚しかいねぇなぁ」
そしてこれ見よがしな、大きな声。
目が遭うと確実に面倒になるので、春斗は目を伏せる。他にバトルフロントに集まっているプレイヤー達も、それぞれ談笑をしたりスマホをいじったりしているが、ネオスの標的にならないように『ふり』をしているだけなのは明らかだった。
ネオスはバトルフロントの近くのベンチにドッカ、と腰を下ろす。
それから、アウターのポケットに入れていたタバコを取り出し、一本。
ゲームセンターは最近禁煙の店が大多数で、この店もその内の一つだ。
それなのに悠々と煙草を吸い、店員も注意に行かないのは、ネオスのその風貌のせいである。
「本当にヤクザらしい」
「暴力団がバックにいるらしい」
そんな噂がまことしやかにバトルフロントのプレイヤーの中では囁かれている。
ネオスはこの辺りのゲーセンを根城にしており、いくつかの店舗に出没している。
そんな彼に最初の方は苦情を入れる店員も居たらしい。だが、『決して表には出ない方法』で黙らされてしまうとか、しまわないとか。
いずれにせよそんな噂が漂う彼に文句を言う人間はもうおらず、居るとすれば……。
「お前、ここ禁煙だぞ」
よっぽどの命知らずか。
良く通る声に、春斗ははっと声の方向を向く。それどころかゲームセンターにいる全員が、そちらを向いたかもしれない。
声の主は、ネオスの横に座っている少女だった。
見ない顔だ、と春斗は思う。少なくとも常連ではないし、常連であればこんな事は言わない。
短く切りそろえた黒髪に、黒のTシャツ。青のジーンズ。切れ長の鋭い目は意志の強靭さを見る者に伝え、良く通る声は非難の意志を伴って相手を突き刺す。
突き刺された方はどうするか。
「あ?なんだテメェ」
「人に名前聞くならタバコ消しなよ。煙たくて仕方ない」
「テメェこの……!」
ネオスがいきり立って立ち上がるが、周りの視線と、相手が女だと言う事に気付いたのだろう。
「なあ。嬢ちゃん。あんまりふざけた口聞いてると、怖いよ?」
おどけたような手を広げる仕草に、ドスの効いた声。正直真っ当に脅されるより嫌な声だ、と春斗は思う。
だが少女はそんな事も意に介せず、相手を見上げながら、
「いいからタバコ消しなよ。その位置で吸われると、灰被るんだけど」
「……こんの……」
遠目にもネオスが拳を握りしめる様が見て取れる。
「殴る訳?情けない。男が拳握りしめてさ!」
「……言わせておけばァ!!!!!!」
あ、この女の子終わったわ、と春斗は思った。
怒声。振り下げられる拳。
しかし、遠目に見ていた春斗はその拳が当たった、かと思う瞬間、少女がまるで瞬間移動でもしたように避けたのを見た。
当たるはずの力を逃したネオスが大きくつんのめる。対して少女はひらりと立ち上がると、ネオスに向けてこう言った。
「拳の喧嘩でもいいけど……あんた、このゲーム上手いんでしょ。周りの人が『三十六騎』だなんだって言ってたの聞いた。良く知らないけど」
「だったらなんだってんだ!」
「ゲームで勝負しろってんの。私が勝ったら大人しくケーサツ行って。あたしに暴力振るおうとした瞬間の録画データ、残ってると思うし」
確かにベンチの上の辺り、防犯カメラがくっついているのが見える。
「……俺が勝ったら」
「あたしの事、一カ月好きにしていいよ。いいように使って金巻き上げても、別にあんたが犯すでも構わない。ただ……」
少女は言い切る。
「負けないけどね」
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