この家おかしいのですが。

ぱぷぅ

俺の理想郷

「さあさあ、土の勇者様、こちらでございます。」


 もう30回目を超えただろうか。異世界転移にも慣れた物である。

 今回は魔科学というものが発展している、比較的発展した文明を持つ世界だった。

 そこに召喚されたのは俺を含めて5人。

 本来は召喚でやってくるのは4人だと伝わっているらしいが、明らかに俺がイレギュラーな5人目だろう。

 だって異世界転移レギュラー勢だもんね。しょうがないね。


「見てください、この玄関。

 土の勇者様の属性を意識しておりまして、門からこちらまで花壇を広めにしております。

 玄関のドアはセラミック製で土属性魔法でロックも可能な一品です。」


 今回は勇者にそれぞれ家を用意してくれるらしく、しばらくはそこで暮らしながら訓練する予定らしい。

 勇者がそれぞれ違う場所なのは、属性と生活環境を合わせると能力の伸びがいいかららしい。

 それでも一緒に召喚された仲間だからと5人揃って住宅の内見に来ている状況だ。


「セラミックのドアって重くないのかしら?」


 流れるその美しい黒髪は水属性を体現しているかのようで、清楚オブ清楚と言っても過言ではないような白いサマードレス姿のお嬢様。

 そんな水の勇者が案内人に尋ねる。

 確かにその華奢きゃしゃな腕にはセラミックのドアは重いだろう。


「それがですね、土属性の方にはあまり重さを感じないんですよ。

 ある意味他の属性の方に対する防犯にもなるので便利ですよ!」


 この世界では相性で重さまで変わるらしい。

 いや、土操作の範囲内ということなのだろうか。


「ふぬぬぬぬ!くっそ重いなこれ!」

「ホントだ!僕が動かそうと思うと簡単に動く!」


 はしゃいでドアを開けたり閉めたりしているのはサルみたいな火の勇者と、チー牛みたいな土の勇者である。

 え?紹介が雑?気のせい気のせい。


「いいから早く中も見ようぜ」


 そう言ってドアを開けると中を覗く俺。


「……今この人普通に開けてなかった?」


 火の勇者にヒソヒソつぶやくギャル系の女の子は風の勇者である。

 ギャルはそんなに好みじゃないので雑である。

 だって俺の世代のギャルってオタクに優しくなかったんだもん!!!(逆恨み)


「さすがゴリラの勇者wwwパワー半端ねぇっすwwwwwwww草しか生えねえwwwww」


 そうなのである。

 5人目の俺は何故かゴリラの勇者なのである。

 予定していた火・風・水・土の4人の勇者以外に現れた俺。

 鑑定偽装は色々な種類を覚えたけど、来たばかりの世界までは対応出来ない事も多かったのだ。


【職業】:ゴリラの勇者

【位階】:しゃっこ機ボンド

【体力】:よっちょ無穂気んど

【魔力】:チーバスさ仮もけもけさー


 意味が解らないだろう、俺もわからない。

 鑑定スキルとか魔道具ってよくバグるんだよね。多分俺のせいじゃないけど。

 壊れることもあるけど俺のせいじゃないから!俺のせいじゃないから!!


 ちなみに火の勇者は


【職業】:火の勇者

【位階】:初階9位

【体力】:140

【魔力】:60


 位階は初階9位から上がっていって、1位の次は下階、中階、上階、特階と階の方が上がっていくらしい。

 俺には関係無いけど。

 なんだよしゃっこ機ボンドって。接着剤か。


 閑話休題。

 とにかく案内人に連れられて家に上がると、全体的に土を感じられる家だった。

 玄関入ってすぐは土間、壁は土壁、まであるけど灰は土っていうより火じゃないのかな。

 とにかく和を感じられるいい家だった。


 火の勇者の家は暖炉があり、北欧的な感じにまとめられていた。


 風の勇者の家は風車の付いた家で、多分建築家の人も考えるのに苦労したのだろう。

 建築学科を出ている俺も、建築家が悩んだであろう工夫を感じとる事が出来た。


 水の勇者ちゃんの家は中庭を広くとってある自然の多い四角の家で、中庭には滝が流れていた。

 裏庭には池まであり、中を覗くと魚が泳いでいた。

 裏庭には二羽ニワトリがいると思ったけどいなかった。


「そして、ゴリラの勇者の方の家はこちらです!」


 キーキーキーキー!

 アーオ!アーオ!


【ヒト科・ヒト属・ヒト】


「動物園じゃねーか!!!」


 どう見ても記念撮影用の人の檻である。

 この辺りは類人猿のコーナーなのか、両隣はゴリラとチンパンジーだ。

 屋根は一応あるが、壁は全て鉄格子だった。

 誰だよこんな読者が予想しそうな家第一位みたいな物件用意したのは!

 というか顔出しパネルレベルじゃねーか!

 あれついつい顔出しちゃうよね。


 ってそんな事どうでもいい!

 何で一人だけ家じゃねーんだよ!


「いや、だって急に1人増えましたし、なによりゴリラの勇者ですから……ゴリラと一緒の方がいいかなと。」


 ゴリラ属性ってなんだよ!俺の事か!ウホウホウホウホ!


「ふざけんな!俺は家に帰るぞ!」


 どう見ても怒っている俺に対し、チャラい感じの火と風の勇者は爆笑している。


「帰るって……檻の中に?w」


 陰キャっぽい土の勇者にすらバカにされているようだ。

 ふざけんなチー牛、エビフライぶつけんぞ!


「みんなふざけすぎだよ!

 土の勇者さんの家に一緒に住んだりとかじゃダメかな?」


 水の勇者ちゃんマジ天使!

 でもいいの、俺この世界もうヤダ。


 足元に魔法陣を展開すると、帰る時間と場所の設定をする俺。


「え?え?帰るって日本に!?

 自力で帰れんの!?ちょ、待てよ!」

「わ、私も帰りたい!ネイル予約あるし!」


 慌てたように縋り付いてくる火と風の勇者を蹴散らす俺。

 今更遅いんだよばーーーか!(知能低下中)


「わ、私も帰りたい!」


 わっかりました!水の勇者ちゃんは一緒に帰ろうね。

 即座に水の勇者ちゃんの手を取ると、元の世界へと転移を行う。

 セ、セクハラじゃないよ!一緒に帰るために必要だから合法だよ!


 こうして俺は魔王とかガン無視で元の世界に帰るのだった。


 余談だが、俺が魔王を倒さないと何度も同じ世界に召喚されるという事を思い出したのは、またこの世界に水の勇者ちゃんとセットで召喚された時だった。

 その時に用意されていた、ドラミングするゴリラの形をした家は即座に解体しておいたよ!

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