第31話「終戦後・価値」




 染谷塩基は、拒絶した。


 その道を、選んだ。


「内定辞退、させてもらうよ」


「そう、ですか――分かっておりますよね。内定辞退をされるということが、どういうことか」


「分かってるよ。僕だって最近のメディアリテラシーのある若者だ。契約書にちゃんと目を通すタイプなんだよ」


「ならばここで、死んでいただきます」


「ははっ、やってみろよ――ラスボス野郎」


 次の刹那。


 染谷塩基が『共感神経シンパシー』の出力を最大にして頚城の意識を乗っ取るのと。


 四方八方にいるシークレットサービスによる銃撃で、染谷塩基と頚城躙彦の両名が蜂の巣になるのは。

 

 殆ど同時であった。


 情報漏洩を危惧するあまり、頚城は選択ミスをした。


 彼は自分か、もしくは染谷に何か変化があれば、構わず自分ごと銃撃するように周囲に命令を行っていた。


 周シークレットサービスはそれに従ったまでである。


 染谷にとっては最悪の選択だが――代表取締役は常に代わりが存在している。自分が生きようが死のうが、どちらでも良い。そう考えての事前通達であった。


 秘密を知った染谷を殺害する。


 


 これからまた、入間導のように天然の超能力者が現れるまで、就活戦争を行う意味は消失してしまった。


 いくらでも代表取締役になることのできる人間がいる。


 しかし――一人の人間の命はかけがえのなく、価値のあるものである。


 頚城はそれを失念していた。どころか念頭にさえ置いていなかった。


 だから、当たり前のように自分を犠牲にした。


 もっと物語風に表現するのであれば、きっとこうなるだろう。


 染谷塩基はゲームに負け。


 頚城躙彦は人の意志に負けた。


 敗北者しかいない戦争は、こうして幕を引いた。



 *


 頚城くびき躙彦にじひこ


 黒幕の男性。株式会社戦争社の七代目代表取締役を務める。頚城家の長男として生まれ、幼い頃から帝王学を叩きこまれ、戦争社に入社。現行の就職戦争の仕組システムの創設者の一人。全てを自分の掌上に置きたいという欲求のままに世の中のあらゆる超能力者を集め、それを解明の後に開発することによって、誰でも「すごい人」になることができる平等で優しい世界を目指していた。


(死亡)



 *


 戦考番号7番/染谷そめや塩基えんき


 共感の男性。自己と他己との境界をなくす能力『共感神経シンパシー』を持つ。自己を誰かと同一化させることにより、どこにでもいる自分、を演出することができる。存在感のない道欠と近いが、彼よりも非存在力が強い。また、それを応用し、相手の細胞を自分の細胞に置き換えて浸蝕、吸収することができる。自分の代わりはどこにでもいるという考えを持ち、自暴自棄で応募してみたら最終戦考まで行ってしまった。その反面、煽られると乗ってしまう少年らしい一面も持つ。電子書籍推進派であり、人類は紙の本を捨てるべきという考え方を持つ。


内定辞退しぼう


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