第9話「笹道神社(夜)」

 オレは幽霊に恋をした。


 ササの夢は、この街の彷徨える霊を残らず全て除霊する事。


 いつかササが言っていた言葉を思い出す。


「え? 除霊の仕方を教えて欲しいですか? いつもやっているじゃないですか?」

「いつもは、ササさんに任せっきりでしょ? 自分でやってみたいんです」と真顔で言う。

「そうですねー。難しい事はわからないんですが……彷徨える霊は自分が死んだ事がわからないんです。だから言ってあげるんですよ。『あなたはもう死んでいるんですよ』ってそれが除霊です」


 ◇  ◇  ◇


 ササが行方不明になった2日後の夜。つまり、ご両親の居る笹道神社を昼間訪問した日の夜。


 オレはササにプロポーズした。

 

「じゃあ、バツを与えるしかないですね?」

「はい、何でも言って下さい」

「ササ。バツとしてオレと結婚して下さい。笹道神社ってあなたの実家ですよね? ふたりでご両親に挨拶しに行きましょう!」

「私は、お料理もお洗濯もお掃除も何も出来ませんよ? 出来るのは除霊だけです。こんな私でも貰ってくれますか?」


 ご両親との挨拶はつつがなく執り行われた。ご両親には見えないので、オレがうまく誘導した。身振り手振りでここにササが居ますよとアピールした。そしてご挨拶。


「ササさんをわたしにください。不幸にしません。幸せにします。死んでも……守りますから」


 ご挨拶の後はふたりで仲良く笹道神社の庭を散策する。

 

 乳房がふさふさと揺れている。


 素晴らしい眺めだ。

 

 とても抑えきれなくなり、ササに叶わぬ願いをした。


「おっぱい触りたいです」

「はいどうぞ。大丈夫です。男性はそういうものだと聞いております」

「あなたに触れたいっ!」

「はい、いつでも結構ですよ?」

「おっぱい、おっぱい、うーあーあー」

「もう、どうしたんですか? 赤ちゃんみたい」


 ササがオレの眼の前で笑っている。

 セリフはエッチな場面なのに、なんで……なんで泣いてしまうんだろう。

 ササはオレが落ち着くまで待ってくれた。

 

「ササ。3つの願いは叶いましたか?」

「はい。私は今、乙女の恋をしています」

「ご両親に挨拶は?」

「上出来です。猛反対されるかと思ってましたけど。主にウコンの顔と性格のせいで……ウソでーす」


「除霊の件ですが……」

「それはもう、真っ先に叶えて頂きましたよ?」


「……実はまだです」


「え?」


「最後の除霊が残っています」


「じゃあ、すぐ除霊の支度しますね?」


「いいえ。すぐ終わります。除霊はオレが行います。ササ……」


 オレはササに告げた。


「あなたは……もう死んでいる……んです。死んでいるんですよ」


 それを聞いたササは息を飲む様にして立ち止まった。

 

 そして暫くオレに微笑むとそっと静かに消えていった。

 

 こうして

 

 この街から徨える霊は全て払われた。

 

「除霊完了」


 オレはこの街を立ち去った。

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