艶姿美人除霊師さん

三雲貴生

第1話「いつもの日常」


 某県某市に一風変わった職を生業なりわいにしている男がいた。

 その仕事は、主に【心理的瑕疵かし物件の除霊】である。

 やっている事は、毎日一般人に混ざって【住宅の内見】 をするだけの仕事。そこに悪霊が居れば除霊する。尤も男は除霊出来ない。依頼するだけだ。


「そうオレの事だ」


 今日も依頼者の住宅の管理主と名目上【住宅の内見】に来ている。


「ああ、ここ──は必要ないですね」


「でも──夜な夜なガタガタと物音がするんですよ?」


「きっと猫かなんかが屋根裏で暴れているんでしょう」


「入居者が何人も逃げ出しているんですよ?」


「心霊現象ではないと言うことです。それならオレでは専門外なんで──」


「10万円上乗せしますから──!」


「よろしいやりましょ──!!」


 除霊でない依頼も多い。


 とても多い。


 午前中は悪霊に出会わなかったが、猫を捕まえるだけで15万円。良い仕事をしたな──。


「ここは夜景が綺麗ですよ」


 綺麗な住宅販売員のお姉さんと綺麗な2世帯住宅を【内見中】だ。


「ああ──ビンゴだ!」


「はあ?」


「すいませんがひとりにしてくれませんか? 鍵は例の所に返しておきますから」


「いえあの──」


「コレが契約書です」


「除霊師さん?」


 販売員のお姉さんとはココでお別れだ。

 ココからは除霊師の仕事だ。


「美人除霊師のササさんお願いしま──す!」


「ハーイ。でも、イチイチ美人を付けるのは止めてもらえますか?」


 除霊師さんは巫女服でご登場だ。

 オレは霊は見えるが除霊は出来ない。なので優秀な美人除霊師さんと専属契約している。


「だから──イチイチ美人は要らないと──」


 先程の美人販売員さんの3倍は美しい美人除霊師さんのいつものお言葉を聞きながら、オレは霊の声に聞き耳を立てた。


「居ますか?」

「居ますね」


 除霊出来なければ、オレの存在意義がない所だが、幸いにも除霊師さんよりオレの方が霊に敏感らしい。

 霊を探し出すのがオレ。除霊するのがササさんとちゃんと役割分担が出来ている。


 オレは簡易祭壇を組み立てると、ササさんは祓串を構え祝詞のりとを唱える。

 突然ガタガタと窓が震えだした。洋風に言えばポルターガイストだ。床や天井からドンドンと足を踏み鳴らす音が聞こえる。

 次にササさんの身体が震えだした。

 悪霊からの激しい反撃が始まった。

 反撃は激しさを増し、ササさんの乳房が震えた。

 ササさんと専属契約している理由はこの圧倒的な光景だった。


「私をしっかり支えてくださいね?」


 堪らずササさんからのヘルプコール。

 

「分かりました。全力で支えます」


 尤も女性の身体に妄りに触れるのは失礼だと思い、オレは言葉だけで支えた。

 建物がギシギシ揺れ、ササさんの胸が激しく揺れ──。それを黙って見つめるオレ。


「ああーなんて無力なんだ! ジュルジュル」


 除霊は朝まで続いた。ササさんはビッショリと汗をかき、オレの手渡したタオルを濡らした。


「ご苦労様です。ササさん。依頼料は実家の口座の方へ振り込んでおきますから……」


「そんな事なさらなくても良いんですよ? 私の目的は、この街の彷徨える霊を残らず全て除霊する事ですから。無料でも……」


「オレも素晴らしいササさんの除霊を拝見させて頂きました。その見料という事でお収めください」


「はあ、見料?」


「まあまあ、ではまた次の夜にでもお願いいたします」


 こうしていつものオレの日常が始まった。

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