第42話 いざ、海へ!
燦燦と降り注ぐ日差し。
鼓膜を洗う蝉の声。
長かった梅雨も明け、まさに夏真っ盛り、といった様相だ。
「っはよ~ッス! いやぁ~、あっちぃねえ」
「おはようございます、フィラトさん。今日はありがとうございます」
白のバンから顔を出したフィラトに、陸が頭を下げた。
高校が夏休みに入るのを待っての海水浴。
話を聞いたフィラトが「ウチも連れてけ」と要求し、海までの足が欲しかったおれたちは「車を出してくれるなら」と快諾したのだ。
で、フィラトが行くなら友人枠としてあと何人か呼ぼうということになり――
「やあ、真名井くん」
「おはよ、あーちゃん」
ベルデと日菜が、バンを降りて挨拶した。
「しかし色気もへったくれもねー車だな」
「大人数ならコレ一択っしょ。いつものトラックでも行けなくもないケドさ~、荷台はまじサウナよ? リナちん腐っちゃうんじゃね?」
「まあ、それもそうか」
ぼやきまじりに、リナがさっそく荷物を積み込みだした。
リナは、いつものメイド服からTシャツ短パン姿に着替えている。
身長の低さも相まって、小学生が一生懸命お手伝いをしているようで、見ているとなんか和む。
「ワクワクしますね!! ワクワクしますね!!」
すごいな。第一声どころか一文字目からうるさい。
そんなプラスィノを、ベルデが睨みつけた。
「なんで2回言った? というか、そいつが例のドライアドか」
「プラスィノ・エルバといいます!! よろしくお願いします!!」
「聞いていた感じとちがうな。真名井くん、コイツに誘惑されたのか?」
「はい!! 誘惑しました!!」
「あんたには訊いてない」
さっそくギスギスしてるなあ。
まあ、ベルデが一方的にという感じだし、それならいつも通りと言えるけど。
「大丈夫だよ、リナとモルテが助けてくれたから」
「落ちかけてるじゃないか」
「面目ない」
おれとしては苦笑するしかない。
「なんでそんなのをまだ置いている。しかも、遊びにまで連れていくだと?」
「仲間外れにしちゃあかわいそうだろ――って、そんな顔するなよ。まったく冗談が通じないな」
「こっちは真剣なんだ」
「ごめん。……でも、彼女に悪気がないのは本当だし」
「反省の色もなさそうだが」
ちらりと横目で見ると、陸たちとの会話で面白いことでも言われたのか、大口をあけて高笑いするプラスィノの姿が映った。
「だ、だからといって放り出すわけにもいかないし……」
「相変わらず人が好すぎる」
ベルデは呆れたようにため息をついた。
「モルテとしても、もうすこしようすを見たいって考えだから、そこはお互い納得してるよ」
「また誘惑されたらどうする?」
「リナが見張ってるから大丈夫。あと、消臭スプレーである程度匂いによる幻惑効果は抑えられるってわかったんだ」
「本当か! それは……割と大発見なのでは?」
「モルテも驚いてたよ」
噂をすればなんとやらで、モルテも準備を終えて邸から出てきた。
「お待たせしました」
モルテは白のワンピースにつば広の帽子という夏のお嬢様スタイルだった。
ベタにもほどがあるのだが、普段とは真逆の清楚な格好に、不覚にもドキッっとしてしまった。
おれも大概チョロい……
「では、出発しましょうか!」
モルテの号令一下、いっせいにバンに乗り込む。
おれは助手席。2列目にモルテ、陸、日菜。一番後ろにリナ、プラスィノ、ベルデが座った。
「なんか曲かける?」
フィラトが訊ねる。
「みんなで歌える曲がいいですね」
「おれ、最近の音楽はわからないな」
「はいはい!! こないだリナさんに観せてもらったトクサツってのが面白かったのでソレがいいです!!」
元気いっぱい、突き抜けるようなリクエストだぞ、プラスィノ。
耳が痛いからもうすこし声を抑えてくれ。
「特撮ぅ? それもあんまり知ないんだけど」
「逆に兄さん、なにならわかるの?」
「大丈夫です!! 昔の作品はメロディーもシンプルですから、霧矢さんでも歌えます!!」
「うわ……いますごい失礼なこと言われた気が」
「キリヤ君、知らない曲なら無理に歌わなくてもいいんですよ。聴いているだけでも楽しいものです」
「わ、わかってるよ!」
「は~い、そんじゃかけるよ。レッツシンギン!」
車内スピーカーから、どこか懐かしさのあるカッコよさげなイントロが流れ出す。
「ちゃん!! ちゃん!! ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃーーーーーん!!」
うおっ、やかましい!
マイクなしでこの音量かよ。
プラスィノの奴、遠慮とか一切なしに全力でノッてやがる……
しかし、彼女の言葉通り、往年の名作特撮のOPは憶えやすく、2番からは陸、リナ、フィラトも加わって大合唱になっていた。
その後も戦隊物、ロボット物の主題歌と続き、他のメンバーもそれぞれ自分の好きな曲をリクエストした。
陸は広く浅く、日菜は乙女ゲームのキャラクターソング、リナは洋楽、ベルデは時代劇といった感じに。
おれとモルテはほぼ聴き専だったが、この車内カラオケ大会を、皆大いに楽しんだ。
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