メッセージ

ボウガ

第1話

「1件の映像メッセージがあります」

 A子は目覚めてから、白い部屋に隔離されていた。自分が何ものだったかを思い出せず、ただ、ひどく長い時間そこでそうしていた。食べ物はブロック型の固形物、クッキーのようなものと、水が時折はこばれていく。どういうしくみか知らないが、トイレはその場でしたところで消臭と地面に吸収が一瞬でなされる。


 何不自由ない生活だ。ここに娯楽や、勉強のできるものがあれば暇はしないだろう。問題はただ無為に時間がすぎていくことくらいだ。

「あ、ああー、俺は……Bといいます」

 モニターからいつものメッセージが流れる、いじれるのはこのモニターだけだ。タッチパネル画面を操作し、録画できるプログラムと、それをどこか(おそらく相手のモニター)に送る昨日しかない。


「私はあなたを信用できないわ」

 録画せずに、無為に時間を過ごす。A子は疑ぐり深いのだ。何か裏があるにきまっている。そう、かつての自分はいつも、きっと親だろうか?いつも何かをずっと強要されて生きてきた気がする。体をみるにまだ20代前半といった感じだろうか。好きになる人間だって自分で選びたい。だが送られてくるメッセージはBのものだけだ。


 Aは無視をしつづけた。だがBはめげずにずっとメッセージを送ってきた。最近あった出来事、小さな気づき、思い出した記憶。いつのまにか、そのメッセージはAの心の支え、日々の楽しみになっていった。そのことを言い出せないまま、時は流れた。だがついに、彼女はある日メッセージを送り返そうとした。が、画面にメッセージが流れた。


「俺は、もうだめかもしれない、返答がない孤独の中で、ずっと……画面の向こうに本当に人がいるのか?俺は励ましつづけられているのか?マニュアルには、たしかに男女一対で閉じ込められてあるとかいてあったのに、すまない、俺はもう、この孤独に我慢できない、もう何年も、何年もずっとこうだ、俺は、もうだめだ、これを見た人よ、わがままだろうが君は、できるだけ頑張って生き延びてくれ」

 

 Bは、自分の舌をかみちぎるといって、音声メッセージが途絶えた。次に送られてきたメッセージは口から大量の血をながして倒れているBのメッセージだった。


「どうして!!どうしてこんなことに!!」

 だが、いまさら何ができるというのだ、自分は罪を背負ってしまった。もし彼と助け合えたら、その時期だけでも幸福な人生があゆめたかもしれないのに、すべてが何かの罠だったとしても。


 Bからのメッセージが届いた。Aはメッセージを送ったが、すでに1か月も返信はなかった。モニターが点滅する。Aは……画面の中でよこたわっていた。


 BはAからのメッセージをひらく。

「本当はあなたからのメッセージに励まされていました、今まで返事をしなくてごめんなさい、あなたを追い込んでしまったこと、生きてきて一番後悔しています」

 Bは画面ごしに、その様子をみていた。1か月の間彼は迅速に治療をされ、奇跡的に一命をとりとめたのだ。その間の意識はほとんどないが、気づいたらまたその部屋にいた。彼はもはや迷わなかった。もうこの世界に彼女はいない。Bもまた、死を選んだ。


 その様子をモニターでみながら、宇宙人のような影がつぶやく。

「やはり、孤独にも順応できなかったか……これがホモサピエンスの一対の最後の生存者だったが……暴力的で、破壊的で、自己中心的な種に残された道は、孤独に、我々に監視され、関心されることで動物園の動物のように生き延びること道しかなかったのに」








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メッセージ ボウガ @yumieimaru

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