トラピカの繭(文学フリマ東京38用冒頭試し読み)

鹿森千世

(1)

雨の日の夢を見る。


細長い塹壕のかたちをした、灰色の空。

足元には、蛆虫の棲む不潔な泥水が澱み、

流れ着く先もなく、足の指を腐らせていく。


鳴り止まぬ、機関銃の音。

肌を裂く、錆びた有刺鉄線。


帰りたい。


温かいスープ。清潔な布団。乾いた石畳。

明るい、太陽の光。


帰りたい。


ただ、それだけのために、人を殺してでも。





***





エルシーと フランシスの 話を します

エルシーは おおきな にんげん フランシス ちょっと 小さい

ここを 小川Beckと 呼びます みずが きらきら トラピカの 糸


わたしたち トラピカ


フランシスの 肩に 乗る フランシス 笑う

トラピカは ちょっと 怖い

わたしは 楽しい エルシーの 肩に乗って

にんげん の ことば 覚えました


エルシーが おてんばTomboy と 言った

みんなは ちがう わたし だけ 

おてんば は きっと いいことば


エルシーと フランシス Cameo 持ってきた

黒い しかくい まんなかに まるい 目玉

トラピカを にらむ ぴしゃり 光る 雷 みたい

みんな 怖い 逃げる だから 


fairyを 描きました


fairyと エルシー fairyと フランシス

ぴしゃりぴしゃり 絵を 描きます

おてんば は 触りたい 近づいて 目玉に

ぴしゃり


トラピカが 繭を 編んでいる ときに


繭のような(a kind of cocoon と ドイルさん が

目玉の絵を 持って 小川 ここだ ここだ と 言って

トラピカは ドイルさんを 見たのに

ドイルさんは 見ない 目の前に 行ったのに

大きい にんげん は トラピカを 見ない

だけど あの人 ジェフリーは


ジェフリーと わたしの 話


ジェフリーは トラピカを 見ました

たいようの 髪  腕がない 男のひと

ちぎれた 肩のうえ 飛んでいって 乗って


ほそい 銀の すきま 繭を 編めば

編もうと 思いました だから

トラピカと お別れ したのです


ジェフリーと てつどう に 乗った

煙が もくもく 鉄の かたまり

ジェフリーの 肩のうえ 木の床が うたう


とたん とたん  とたん とたん


ジェフリーの ちぎれた肩が 揺れて


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