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資料ができあがるのと、コンサートが終わるのはほぼ同時だった。
「タカヤ、かっこよかったなー」
あえて口に出して言う。だって、そうでないと、どうしても目に入った久遠のことが気になっちゃって。
甘えんぼの弟キャラ。クウヤのことはそういう認識だったから、特に意識はしてなかった。私の好みは、頼れる年上なのだ。
久遠がクウヤだと知ってから、改めて家でBRを見てみた。化粧のせいで顔は全然違うけど、久遠だと思って見たら本当に久遠でびっくりした。普段長めの前髪は、顔を隠すためだったのかな。
5人の中にいても、でしゃばらず引くとこは引いて、でもちょうどいいタイミングで話を沸かせる。会話のセンス、こんなによかったっけ? 頭いいんだな、久遠。
ダンスの動きもすごかったし、やっぱり声がめちゃくちゃ好み。ソロなんて、聞いていて気持ちよすぎてぞくぞくするくらい。時折、他のメンバーが話しているのを聞いている時に、あ、久遠だ、って思う表情もする。
課長に似てるから、とタカヤに惹かれた。ファンクラブも、推しの登録はタカヤだ。なのに。
小さな画面の向こうにいる久遠は、本当にかっこよくて……こんな人と、私、ラーメン食べに行ったりしてたんだ。
あの時はすぐ隣にいたのに、今はすごく遠く感じる。ううん、もともとこれが私たちの距離だったのかもしれない。本当なら、手の届かない人だったんだ。
そう考えると、胸がずきりと痛くなる。
もう、会えないのかし……
「へえ。ラグバか」
考えていたらいきなり声がして、驚いて振り向いた。
「か、課長?!」
「あれ? これ、今日のコンサートだね。ライブ見てたの? 水無瀬さん、ラグバ好きだったんだ」
か、課長に知られてしまった……。まじまじ課長が覗き込んでいるから、今さらスマホを隠すこともできない。
アイドル好きなんて知られたら、子供だなって笑われるかも。いや、課長なら笑わない。けど、でも。
焦る私の横で、課長は残念そうに言った。
「会議さえなければ、俺もこれ見に行ってるはずだったのに」
「え? 課長、ラグバ好きだったんですか?」
意外。課長が興味持ってるなんて知らなかった。
「ああ。ラグバの歌、好きなんだ。みんな歌がうまいだろ? アイドルなんて、と最初は思ってたけど、あの表現力と声量を聞いて考えを改めた。いいよな、ラグバ」
「そう! そうなんですよ! ただのアイドルじゃないんです! みんながみんな、本当に歌がうまくて、ソロでも合わせても聞きごたえがあるんです! あれだけ動いて踊っているのに、まったく息も音程もぶれないんですよ! すごいことなんです! それが5人も集まって……!」
は、と気づいた。課長がくすくす笑っている。
(わ、また私やっちゃった……!)
久遠の時にもやっちゃったっけ。進歩がない。せっかく今まで大人っぽく見せてきたのに、台無しだわ。
落ち込んでしまった私に、課長は笑いながら言った。
「本当に、水無瀬さんてかわいいね。今、とても生き生きした顔していたよ。普段と違う表情を見られて嬉しかったな」
「……へ?」
変な声でた。課長は、微笑んだまま聞く。
「で、資料は終わった?」
「あ、はい。これです」
私が渡すと、内容を確認した課長はうなずいた。
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