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「もしかして、それでその眼鏡? それ、伊達だろ。そういうきつめのデザインが趣味なのかと思ってたけど、大人っぽく見せたいからなんだな」

 言われて、久遠から視線をそらす。

 きっと、そんなことしても見た目は変わらないって馬鹿にされるに決まってる。

「無理しなくてもいいのに」

「え?」

 意外な言葉に、つい久遠の顔を見返してしまう。久遠は、柔らかく微笑んでいた。それは、私が恐れていたような馬鹿している笑みじゃない。

「るなはるなで可愛いんだから、そのままでいいんじゃない? いくつに見られようと中身が変わるわけじゃないし」

 久遠の言葉に目を瞬く。

 絶対、笑われると思ってたのに。

 予想外の言葉に気が緩んだのか、私はつい、愚痴をこぼしてしまった。

「だって……見た目が若いのに25なんて、詐欺、みたいなものだから……」

 久遠がかすかに目を細める。

「誰かにそう言われた?」

『はあ? もっと若いと思ってたのにばばあかよ。見た目詐欺じゃん』

 そこまではっきり言われたこともある。失礼なそいつは、何も言えない私に代わって留美がぼこぼこに言い負かしてくれたけど。

 そんなこともあって、童顔は私のコンプレックスだ。

「気にすんなよ」

 ふいに、久遠が私の眼鏡を取り上げる。

「あ、返して!」

「俺の前では眼鏡禁止」

 取り上げた眼鏡を自分でかけて、久遠は言った。

「俺は、素のままのるながいい。怒って笑って喜んで、くるくる変わる表情のるなが一番」

 とくん。

 そう、言ってくれるのは嬉しい。

 でも。

 あなたは私の本当の名前すら知らない。

「おら、行くぞ。腹減った」

「あ……」

 立ち上がった久遠を、思わず呼び止める。

「ん?」

 伊達眼鏡の奥の目が優しい。そこに、初めて会った時の警戒感みたいなものはない。多分、それは私にも。

 ここで実は、ってちゃんと名乗ったらどうなるだろう。

「……なんでもない」

 久遠はけげんな顔をするも、それ以上聞くことはなかった。私も立ち上がって久遠のあとを追う。

 マスクをつけてカップを片付ける久遠の後ろ姿を見ていて、ふいにさっき誰かに似てると感じたことを思い出した。

 あ。

「クウヤ……」

 うっかり呟いてしまった私の声に気づいて、久遠が振り向いた。あわてて私は自分の口元を押さえる。

「クウヤ? って、ラグバの?」

「あ、うん。なんか、後ろ姿とか雰囲気が似てるな、って思っちゃった」

 クウヤは、タカヤと同じラグバのメンバーだ。私の言葉に、久遠は微かに顔をしかめる。

「あんなガキと一緒にすんなよ」

 そう。クウヤはメンバーの中でも弟のような甘えんぼの存在で、明るくて太陽のような笑顔が特徴の元気いっぱいの少年だ。仏頂面で口の悪い久遠とは、間違っても似ているわけではない。

 でも、時折見せる表情とか姿勢とか後ろ姿の肩の雰囲気とか、BRでよく見るクウヤのしぐさになんとなく重なるように見えたんだ。

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