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「ん! 美味しい!」
驚いた。味には期待してなかったけど、すごくおいしい!
麺が細麺なのも好みだし、スープのとんこつはこってりしているのにくどくない。トッピングはきくらげとチャーシューとネギだけのシンプルなラーメンだった。
「だろ? 俺好きでさ、ここのラーメン。よく来るんだ。もともと今夜だってここで食べるつもりだったんだけど、一緒に来るはずだった奴にドタキャンされた。あいつ、自分で誘っておいて残業だと? ぜってー許さねえ」
半分独り言のようにぶつぶつ言いながら、男は食べる気配がない。
「だったら一人で来ればよかったのに」
「言ったろ。一人で食べるの嫌なんだよ」
「そうみたいね。それより食べれば? のびるよ?」
私がすすめると、男はサングラスを外してポケットに放り込んでから割り箸を手に取った。私もラーメンを食べながら見ていると、やけにゆっくりと食べ始める。そこで、私ははたと気づいた。
「……もしかして、猫舌なの?」
「いいだろ、別に」
あら。そうなんだ。
しばらくは二人で食べることに専念する。ある程度冷めてしまえば、男が食べるのは早かった。餃子まで食べても私より早く食べ終わる。
「うまそうに食うな、お前」
今度は私の食べるのを見てた男が感心したように言った。
「ほ?」
むぐむぐしながら答える。ちょっとお行儀悪かったかな。
「そんなに豪快にラーメンすする女、初めて見た。嫁に行きたかったら、それ人前でやらない方がいいぞ」
「んぐっ。……余計なお世話よ!」
だって、通りすがりの名前も知らない男にまで気を使う必要もないし。好きなように食べさせてよ。
食べ終わってしまった男は、頬杖をつきながら話しかけてくる。
「なあ」
「ん?」
「ラグバ、誰推し?」
「私? ええと、私の推しはタカヤ。あんたは?」
どこの誰とも知らない人だけど、いや、だから、かな。好きな人のことを気負わずに話せるのって、今までは妹しかいなかったからちょっと浮かれてしまう。
まさか、この歳で自分がアイドルにはまるなんて思ってもいなかった。中学や高校の頃に、友達と一緒にアイドルにきゃあきゃあ言っていたことはある。けど、成人して社会人になってからはあまり興味を持てる人がいなかった。
そんな時、妹がラグバにはまった。一緒に見たコンサートの映像に、私も心を奪われた。
伸びのある澄んだ声。ノンブレスで三小節歌いきる技量にびっくりして、むさぼるようにそれまでの映像を見まくった。
5人いるメンバーがみんな歌がうまい、ダンスがうまい、トークも面白い。
あっという間に夢中になった。
「俺は特定の推しはいないかな。5人そろった時の、ハーモニーが好き。みんな歌うまくてさ、綺麗じゃん」
「……どの歌が好き?」
私は、ちょっとかまをかけるつもりで聞いてみた。話を合わせるためとかナンパ目的でラグバの名前を出したなら、有名な歌くらいしか出てこないだろう。
「そうだなあ。どれも好きだけど……『黎明の色』とか、『アコガレ』とか。あとは、『ready?』かな」
予想外の答えに、私は眉間にしわを寄せる。
「なんで『ready?』知ってるの?」
それは、ファンクラブだけが聞ける会員のための特別な曲だ。コンサートでも歌ったことはないし一般には絶対に流れない曲。
胡乱な目の私に、男はあっさりと答えた。
「ああ、兄貴が会員なんだ」
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