第119話 立て直し

Side:ケアレス・リード


 売った金が全て偽物だとの噂を流した。

 ハンマーで割れば分かると。


 もちろん、バドガイは詐欺で訴える。

 じゃあ裁判だなと全員が言うように言ってある。

 バドガイは金が無くて、手の打ちようがない。

 徴税しようにも、クズ麦を集めてもそうそう売れない。


 私はバドガイの所に乗り込んだ。


「貴様はリード、よくも騙したな」

「うむ、騙した。だが、もう破産するしかないだろう。助けてやろうか?」


「くっ、もう騙されないぞ」

「じゃあ、この借金証文の金を払ってもらおう」

「買ったのか?」

「その通り」


「待ってくれ頼む」

「往生際の悪い奴だな。何でもするか?」

「する」

「ファラポスに後目を譲れ。毎月、平民が暮らしていける金は払うように言ってやる」

「贅沢ができんではないか」

「破産したらそれも出来ないぞ。下手したら爵位を売らねばならん。諦めろ」

「くっ」


 バドガイは隠居した。


「ケアレス、あなたは大恩人だ」

「窮状を知って見過ごすことなどできない。礼を言うまでもないさ」


 ファラポスからお礼を言われた。

 詐欺での告訴は全て取り下げられた。

 ここからが大変だ。

 タックス領には金がない。


 このままでは大変なことになる。

 とりあえずの食料としてクズ麦があるが、そんな物では長く持たない。


 走るしかないか。

 走りまくって、寄付を集めたが、なかなか金は集まらない。

 そうだこんな時こそ。

 自分自身に因果応報魔道具を使った。


 私は山を駆け巡り、ついにミスリル鉱石を見つけることができた。

 鉱山主になった。


 こんなに幸運が訪れていいのだろうか。

 この幸運は皆の為に使わせてもらう。


 鉱山を担保に金を借りて、それをタックス領を立ち直らせる資金とした。

 借りた金は鉱山からの利益で返せるだろう。


 とにかく、タックス領に貸し付ける金ができた。

 お金を譲渡することはできない。

 外聞があるからな。


 たかりする貴族の奴らの餌食になるつもりはない。


「立て直しの資金まで貸してくれて、この感謝の気持ちはどうすれば。はっ、一族の娘に良い令嬢がいる。どうだ?」

「やめてくれ、私は妻を愛している。側室を娶るつもりはない」

「では、今回のケアレスのことを歌にして歌わせよう」

「まあそれぐらいなら、問題ない。いや、ちょっと待ってくれ」


 手口が世間にばれると他の重税貴族に対して使えない。

 何か良い方法はないだろうか。

 嘘の歌を流すか。


 私の歌ができ上がった。

 歌によれば駆け付けた私は民衆に食料をばら撒いて、団結させ、隠居を迫ったとした。

 武力でやったように見せかけたのだ。


 他の重税貴族も軒並み嵌めた。

 因果応報魔道具のせいか、面白いように騙される。

 借金はまだできたので、他の領にもそれの資金を貸し付けた。


 鉱山を見つけられたのも、因果応報のおかげだろう。

 しかし、自分自身に因果応報するこの手は何度も使うまい。

 借金を返し終えたら、鉱山の利益は恵まれない人に寄付しよう。


「ケアレスよ、そちは反逆するつもりか?」


 登城せよと言われ、謁見の間で、王に問いただされた。

 何人もの貴族が面白そうにそれを見ている。

 見世物でないと言いたいが、今回はやり過ぎたのだろう。


「滅相もございません」

「わしはちと面白くない。そちの名声ばかり上がりおって、これではわしは愚王ではないか」


 王を不快にさせるつもりはなかった。

 だが、不快そうな顔ではない。

 それどころか笑っているような。


「申し訳ありません」

「謝るのなら、分け前を寄越せ」


 王の目つきが険しくなった。

 金銭とか言われたら大人しく払おう。

 まだ、ミスリル鉱山を担保にお金は借りられる。


「どのような?」


「いまなら、税制の改革を出来るだろう。好きに税を掛けていた貴族がみんな真っ当になったのだからな。わしの改革を後押しするように説得せよ」


 王は流石だ。

 愚王なんてとんでもない。

 この王国をよくするために色々と考えている。

 やはり私が仕えるだけのお方だ。


「了解致しました。走り回ってご覧に入れます」


 税金を上げる時の審査は表面上は王がやることになった。

 実際は王が信頼してる役人にやらせるのだろうがな。

 私は走るだけだ。


「ふむ、いったん税を白紙に戻し、税を掛けたり上げる時には王に申し出て審査してもらうのですな」


 今回、隠居させた貴族ではない貴族の元へも走った。


「ええ、その理解でよろしいかと」

「王が判断いたすのなら仕方ありませんな。それに……」

「それに?」

「いや、異論などない。忘れてくれ」


 みんな私の意見に賛同してくれた。

 怖がられているような雰囲気もある。

 歌では民衆を団結させて武力を使ったとなっているからな。

 さすがに、住民は恐ろしいのだろうな。

 とくに腹を探られると痛い貴族にとっては。


 王の威光のたまものとでも思っておこう。

 名声など浮き沈みが激しい。

 そんな物には頼らない心構えだ。


 リプレースと祝杯を上げた。

 友であるリプレースは税の監査の相談役に就任した。


「悪いな。友のおこぼれにあずかって」

「いいや、私はミスリル鉱山を得た。おすそ分けしたいと思っていたところだ」


「王の機嫌はすこぶる良い。税の制定は頭の痛い問題だったからな。長年の頭痛の種が消えた。我々の仕事は大変だがな。税を掛けたいとの申請が一挙にきた。まあ、これをこなしたら落ち着くのだろうが」

「けったくそ悪い税が廃止されたのが良かった。初夜税など悪税のさいたるものだからな」

「違いない。そろそろ仕事に戻らねば」

「ほとんど寝てないんじゃないか?」

「大丈夫だ。3時間も寝れば仕事はできる」


 リプレースには迷惑を掛けるな。

 リプレースの仕事が一段落したら、ミスリル鉱山の何かの名誉職を与えよう。

 私が生きている間はリプレースにいくばくかの金が入るに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る