懸河
小狸
短編
*
けんが【懸河】
傾斜が急で流れが速い川。
*
変化が苦手だ。
いや、いっそ嫌いだと言っても良いかもしれない。
昔の人は、「世は常に移ろいゆく」なんて気取ったことを言っていたようだけれど、そんな風に、一歩引いた所から見ることができる人は、きっと恵まれた人だと、私は思う。
幼稚園から、小学校へ。
小学校から、中学校へ。
中学校から、高校へ。
高校から、大学へ。
そして、次には就職活動が控えている。
今は、大学二年生の春である。
その度に、変化の
正直に言えば、学年が上がることも、私にとってはかなり苦痛だった。
ここでふと、私は気付いた。
私は単なる変化――ではなく、周囲の環境が大きく変わる際に、苦痛を感じるのだ、と。
クラス替えで、自分の周りに存在する人が変わる。
学年が上がって、校内での役割が変わる。
所属が変わって、建物から起きる時間まで変わる。
そうなると――そう。
安心――できなくなる。
安心。
そう。
私は、安心したかったのだ。
腰を落ち着けて、川を
そんな私でありたかった。
ずっとそのままでいたかった。
それが叶わないことだと、分かっていても。
変化に耐えきれず、新学期は、体調やメンタルを崩すことが多かった。
その度に皆に乗り遅れて、集団にもどんどん混ざることができなくなっていった。
「来年も同じクラスになろうね」と約束していた友達が、当日別のクラスになって、他の女子たちと、楽しそうに話していた。
私のことなど、目もくれずに、楽しそうに。
どうして。
どうしてだろう。
どうして皆は、当たり前のように、受け入れることができるのだろう。
分からなかった。
分からないまま、私は身体だけ、大人になってしまった。
次は就活である。
なりたい自分、ありたい自分――安心できる自分。
公務員講座の講義を履修し、独自に勉強も始めた。
将来のこと、これからのこと、考えている。
それでも。
皆が当たり前のように乗る奔流から外れた所で。
ずっと私の心には。
薄暗い石の淵で、
きっとそれは一生。
満たされることはないのだろう。
(了)
懸河 小狸 @segen_gen
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