第41話

 まおの提案で軽く自己紹介し合うことになった。


 だってほら、お互いのことを深く知ってたほうがボランティア活動にも熱が入るってもんじゃない?


 刈谷さんは都内で飲食店を経営しているみたい。


 少しだけ怖い見た目だけど、面倒見が良くてチームの中でも信頼が厚い──とメリッサさんは言っていた。


 ん〜、ちょっと想像できない……。


 運動は苦手で、銃火器を使った戦闘を得意としているんだって。


 そしてメリッサさんなんだけど──。



「……えっ、モデルのお仕事してるんですか!?」

「うん。『MeiMei』ってファッション雑誌なんだけど。知ってる?」

「あ〜……はいはい、あれですね! 知ってます!」



 ええっと。


 ほら、あれだよ。ファッション雑誌のMeiMei!


《知ってる(知らない)》

《魔王様、目が泳いでますよ?》

《無理しないで知らないって言いな? (´・ω・`)》

《魔法少女マニキュアの衣装を参考にしてる魔王様が現代のファッション雑誌なんて読むわけないだろいいかげんにしろ》

《あずき:魔法少女マニキュアの衣装図鑑なら、まおの部屋にあった気がする》

《あずき姐www》

《wwwww》



 こ、こらっ!


 赤裸々にプライベート公開するのやめてっ!



「でもすごいですね。まおとそんなに年齢変わらないのにモデルさんなんて……。将来は女優さんとかですか??」

「ん〜、そこまでは考えてないかな。だって、モデルやってるのもダンジョン探索を楽にするためだし」

「……へぇ?」



 と、頷いてみたものの、イマイチわからない。


 モデルとダンジョン探索ってこれっぽっちも関係ない気がするけど、どういうことなんだろう……?


 う〜む。美女の考えてることはわからん。


 そんなことを話ながらメリッサさんたちと一緒にエリア9をまわってみたんだけどモンスちゃんの姿はなく、エリア10に入る前にちょっとだけ作戦会議をやることになった。


 モンスターフロアみたいにたくさんのモンスちゃんがいるし、作戦なしに突っ込めば、大怪我は必至──というのが、四野見さんの意見。


 トモ様と四野見さんは息ぴったりだけど、刈谷さんとメリッサさんがどんなふうに戦うかは未知数だもんね。


 よし! ここはまおも真剣に作戦を提案しなきゃ!



「では、俺とメリッサが正面からモンスターを引き付けよう」



 最初に提案したのは刈谷さんだ。



「その間に、四野見と神原は迂回して奴らの背後に回ってくれ」

「なるほど……挟撃作戦ってことだね。同時に前後から攻めればモンスターを混乱させることができるだろうし、ターゲットの分散もできる」



 四野見さんが頷く。


 だけど、トモ様はあんまり賛同できないみたい。



「しかし、迂回中に見つかれば分断されたまま戦うことになるぞ? 逆にモンスターに挟撃されてしまう可能性が高い。ここは正面から4人で突っ込むべきでは?」

「バカ正直に正面突破はリスクが大きすぎる。あの数を相手するには息の合った連携コンビネーションが不可欠だ。俺とメリッサは大丈夫だが、即席パーティでは不可能だ」

「所持しているスキルを教えてくれれば、こちらで対応する」

「スキルだけの問題ではない。攻撃のタイミング、引き際の判断……その全てを阿吽の呼吸でできなければ、やられるのはこっちだ」

「確かに刈谷さんの言う通りかもしれない」



 四野見さんが唸るように言う。



「戦闘中って意外といろんなことに頭を使うからね。意思疎通にキャパシティを割くのは避けたい。だけど、神原の懸念も理解できる」

「……じゃあ、どうするの?」

「さて、どうしましょうかね。メリッサさん」

「……」



 重い沈黙が降りる。


 なんだか気まずい空気……。



《不穏な空気だなwww》

《百戦錬磨のスカベンジャーが集まってんだから勢いでやっちゃえよ》

《いやいや、流石にあの数のモンスターを勢いでやるのは無理だろwww》

《これだから素人は》

《魔王様、チーム組まないほうがよかったんじゃね?》



 コメント欄にも嫌な空気が流れ始める。


 ううむ。これはちょっとよくないな。


 ──ここはまおが大爆笑ギャグ……じゃなくて、みんなが納得してくれる超完璧な作戦を提案するしかない!



「あの、四野見さん」

「ああ、ごめんね魔王様。もうちょっと待っててくれるかい? すぐに作戦を考えてエリア10に向かうから──」

「まおがひとりで突っ込みますよ」

「……今、なんて?」



 あ。四野見さん、なんだか面白い顔してる。


 他の三人も目を丸くしちゃってるし。


 まおの完璧な作戦に、ビックリしちゃってる様子……。


 ふっふっふ、キレキレの頭脳ですみません。



「……おい、魔王。お前一体何を言ってる?」


 

 刈谷さんが信じられないと言いたげな表情で尋ねてきた。



「あのモンスターの中に、単独で突っ込むだと?」

「はい。簡単な作戦ですよ。こう……突っ込んで、ダーンって」

「「突っ込んでダーン」」



 刈谷さんとメリッサさんがキレイにハモる。



「前にトモ様とコラボしたときに踏んじゃったモンスターフロアでも同じ方法でモンスちゃんふっ飛ばしたんですよね」

「「吹っ飛ばした」」

「はい。ノックバックで」

「「ノックバック」」

 


 あれ? もしかしてノックバック、ご存知でない?


《刈谷さんとメリッサちゃんの顔www》

《魔王様、初手でセブンスのふたりの思考を停止させる》

《トップスカベンジャーの思考すらワンパンしちまったか》

《メリッサちゃん、口ぱくぱくしててかわいい》



「……い、一体どういうことなのだ神原? 魔王はノックバックでモンスターを倒したのか?」

「ああ、確かにやっていたな。あれは……さすまおだった」

「……」



 サングラスがずれ落ちたまま唖然としている刈谷さん。


 ちょっとコミカル。


 それから、4人は再び作戦会議を始めたけれど、すぐに満場一致でまおの「ソロぶっ込み作戦」を決行することになった。


 というわけで、いざエリア10。


 さっき上から見たときより、モンスちゃんの数が増えてる気がする。


 ぱっと目についただけでも、コボルトちゃんの親戚、ワーウルフちゃん。


 歩きキノコちゃんに、ゴブリンちゃん。


 あ! カエルモンスのフロッガーちゃんもいる!


 表参道ダンジョンじゃ、あんまり会えないんだよね……。


 できれば友達になりたいけど……うう、とりあえず中層階段への道を切り開いてからだよね?


 待っててね、フロッガーちゃん。



「本当に一人で大丈夫なのか?」

「はい! 問題ありませんよ刈谷さん! だけど、まおの代わりにゴミ拾いお願いできますか!?」

「……? お、おう」



 ちりとりバサミを刈谷さんに託す。


 黒スーツでちりとりバサミ……意外と似合いますね!



「それじゃあ、やりますか!」



 と、その前にちょっとだけ準備運動。


 手足をほぐして、アキレス腱を伸ばして──。


 よし、準備万端!


 まお、突っ込みます!



「おりゃああああっ! ノックバック!」



 助走をつけて全力疾走!


 体当たりでドーン! 



「わおおおん!?」



 まおの体の倍以上の大きさがあるワーウルフちゃんが、嬉しそうな声を上げながら飛んでいった。


 なかなかの飛距離だ。



「どうです刈谷さん!? こんな感じでやるのがノックバックですよ!」

「……お」

「え?」

「お、俺が知ってるノックバックではないのだが!?」


《wwww》

《うん、そうだよね。そういう反応になるよね》

《ノックしてるけどフライさせとるからな》

《ノックバックっていうかノック・アンド・フライだよな》

《草草》

《魔王様のユニークスキルがひとつ増えたな! やったぜ!》

《刈谷さん! またグラサンがずれ落ちかけてますよ!www》



 ノックバックを初めて見るのか刈谷さんは唖然としてるけど、隣のメリッサさんは大喜び。



「すごい、すごい! なんだか楽しそう! ねぇ、刈谷! 私にもノックバックできるかな!?」

「や、やめておけメリッサ。あれは常人には無理だ」

「……え〜?」


《メリッサちゃんwww》

《すごく残念そう》

《だけど絶対ムリだと思うwww》

《全人類の中で魔王様しか出来ない所業》



 いやいやいや、ま〜たそんなこと言って。


 みんな難しく考えすぎだよ?


 軽く走って体当たりでダーンだよ?


 超簡単だし。


 なんてこと考えてたら、騒ぎを聞きつけてモンスちゃんたちがまおの周りに集まってくる。



「ぎゃおっ!」

「ぴぎぃっ!」

「わふんっ!」

「……あわわっ!?」



 そして、一斉にまおに抱きついてくる。



《うわああああっ!?》

《同時に襲われた!》

《魔王様!》

《くっ! 俺もまおたんに抱きつきたい!》

《↑つうほうした》



 突然しっちゃかめっちゃか状態。


 このままじゃノックバックは無理。


 距離をとらなきゃとモンスちゃんたちを押しのけようとするまおだったが、両手は動かなかった。


 やれない。


 まおにはできない。


 だって──こんな数のモンスちゃんにもみくちゃにされるなんて、幸せすぎるんですもの。



「マズい!! まおたん! 今すぐ助けにいくぞっ!」

「ありがとうございます! でも、平気です! まおとしては終わりたくないけど、すぐ終わらせるので!」

「……えっ?」


《えっ》

《えっ》

《終わりたくないけど終わらせる?》

《直訳すると「おかまいなく」だな》

《wwww》

《これアレだ》

《モンスターにもみくちゃにされて幸せ感じてるやつか》

《よく見ると魔王様、ニヤけてるし》

《あずき:まお、表情筋にちゃんと仕事させて!》


「えっへっへ……」



 我慢してたんだけど、つい笑みがこぼれちゃった。


 だって最高なんだだもん。


 まおとしてはもう少しこの幸せ時間を堪能してたい。


 だけど、そうも言ってられないよね……。


 というわけで、まおの頭をガジガジとかじってたワーウルフちゃんの腕を掴んでポイッ!



「……きゃいんっ!?」



 天高く舞い上がったワーウルフちゃんは、エリア外へ。


 お次はまおの体にくっついてたフロッガーちゃんを鷲掴みしてポイッ!



「ゲコッ!?」



 ゴブリンちゃんをポイッ!


 歩きキノコちゃんもポイッ!


 そんなふうに何匹か放り投げてたら、モンスちゃんたちがまおの周りから一斉にババッと飛び退いた。


 明らかにおびえている顔。


 モ、モンスちゃんに引かれるなんて、ちょっとショック!!


 だけど、これはノックバックのチャンスだよね!?


 走って、体当たり!



「えいっ! ノックバック!」

「ぎゃおっ!?」



 ドーン!


 モンスちゃんがぴゅーん!



「えい! ノックバック!」

「わおおおおん!?」

「こっちにノックバック! そっちにもノックバック!」

「ゲコッ!?」

「ぴぎっ!」



 次々と吹っ飛んでいくモンスちゃん。


 ちょっとだけ心が痛む。


 ゴメンねモンスちゃんたち!


 次遭ったときは、絶対お友達になろうね!


 数分もしないうちに、あれだけいたモンスちゃんがいなくなっちゃった。



「みなさん、終わりました! 行くなら今です! 中層に降りましょう!」

「……」



 だけど、みんな唖然とした顔で固まっちゃってる。


 あれ? どうしたんだろ? 



「……し、四野見?」



 刈谷さんの声が聞こえた。



「はい?」

「あいつは、人間じゃないのか? 本当に異世界の魔王なのか?」

「あ、あはは……どうなんですかね。神原なら知ってるかもしれませんけど」

「うむ! お見事! 流石はまおたんだな!」

「……?」



 四野見さんたち、なにか喋ってるみたいだけど、良く聞こえないな。


 笑ってるみたいだけど、なんだろ?


 けど、まぁいいか。


 そんなことより、早く中層のゴミ掃除をしないとね。


 というわけで、エリア10をクリアしたまおたちは、中層へと足を踏み入れるのだった。

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