第37話
みのりちゃんと宝箱開封配信をした次の日、まおの家に矢文が届いた。
……えっと、もう一回言うね?
矢文が届きました!!
言葉の綾とかじゃなく、正真正銘、弓矢に手紙がくっついたやつ。
ただ、玄関の壁にブスッと刺さってたわけじゃなく、ドアの前にそっと置かれてた。
だったら手紙でよかったのでは……と、思わなくもない。
「……八十神さんからだ」
矢にくくりつけられていた手紙を開いたところ、達筆でデカデカと「八十神マリア琴子」と名前が書かれてた。
う〜ん。
あの人、すんごく淑やかな雰囲気だったけど、結構残念な人なのかなぁ?
いきなし部室に登場してたし。
もしかすると、一般常識が欠落しているのかもしれない。
そんな八十神さんからの手紙の内容は、例の「
達筆すぎて解読するのにすんごく時間がかかったけど、要約すると明日、白金10号ダンジョンに来てほしいってことらしい。
そこでクリーナーズの関東チームの顔合わせをするんだって。
ただのダンジョン掃除なのに「関東チーム」とか大げさすぎない?
まぁ、白金なんてちょっとウキウキしちゃうけど。
だって、あの白金だよ?
白金といえば、噂に聞く超高級住宅街……。
まおは想像する。
日傘をさして、執事さんとかを連れて優雅に歩いているふりふりドレスのセレブさんたちの姿を。
ごきげんようセニョリーターとか真顔で言っちゃう人たちだよね?
そんな白金に住んでるセレブの呼び方があった気がするけど、何だったっけ?
ボロネーゼ?
余談だけど、ダンジョン部の新メンバーみのりちゃんが住んでるところは「南麻布」という白金とは別の高級住宅街らしい。
他人に教えたらだめだってお父さんから言われているらしいんだけど、こっそりまおに教えてくれたんだよね。
ほら、ああ見えてみのりちゃんってば、正真正銘のご令嬢でしょ?
みのりちゃんが言うには、「南麻布には大使館がいっぱいあって外国みたいな雰囲気」なんだって。
ダンジョン探索って外国人にも人気みたいだし、ひょっとするとスカベンジャーやってる人もいるのかもしれないな。
閑話休題。
というわけで翌日。
夏休みの午後、まおが一人でやってきたのは白金10号ダンジョンの待機フロア。
「……わ、たくさんの人」
すでに多くのスカベンジャーさんがいた。
若い人だけじゃなく、白髪交じりの人までいる。
あ、金髪美女の外人さん発見。
ダンジョンで外国の人に会うの、はじめてだ。
しかし、たくさんいるなぁ。
男女比率は半々くらいかな?
八十神さんの話では、このダンジョンは立ち入り禁止にしているらしいので一般のスカベンジャーさんたちはいないはず。
つまり、ここにいる人、全員がクリーナーズのメンバーってことだよね?
「まおたん!」
「……えっ!? トモ様ぁああっ!?」
たたたっと駆け寄ってきたのは、クール&ビューティのトモ様。
びっくりしちゃった。
だって、まさかこんなところでトモ様と再会できるなんて!!
「久しぶりだな、まおたん」
「ですね!! 部活でお忙しいみたいで」
「ああ、そうなんだ。部活のせいで、まおたんの配信をリアルタイムで観られないのがすごく悲しい。だが、安心してくれ! まおたん配信はアーカイブですべて履修済みだ!」
「そうなんですね! ありがとうございます!」
改めて、憧れのトモ様に観てもらえてるなんてうれしいな。
ちょっとだけ目が怖いけど。
「しかし、この状況ではバスケの練習がなくともダンジョンには潜れなさそうだ」
「そうですね。スタンピードでほとんどのダンジョンが立入禁止になってますもんね」
「ああ。一刻も早く私たちの力でスタンピードを沈静化させないとな」
凛々しい表情をするトモ様。
見た目も言う事も全部イケメンだなぁ……。
まおたちがやるのは、ただの掃除だけど。
「こんにちは」
と、ひとりの男性が声をかけてきた。
黒い鎧を着た、筋肉マッチョの爽やかイケメン。
「やはりキミも選出されていたみたいだね、魔王様」
「し、四野見さん……っ!?」
「……む? まおたん、四野見さんを知っているのか?」
トモ様が怪訝な顔をする。
「はい。先日のぴかどらちゃん事件のときにお世話になって……あのときは色々ありがとうございました」
「ああ、確かにあのとき会っていたな。私はてっきり四野見さんにダンジョンでナンパでもされたのかと心配してしまった」
「ちょ、ちょっとやめてくれるかい、神原? 僕、ナンパなんてやったことないから……」
苦笑いを浮かべる四野見さん。
四野見さんって、配信で良くリスナーさんからいじられてるけどリアルでもこんな感じなんだな。
なんだか親近感が湧いちゃう。
そんな四野見さんは新人スカベンジャーってわけじゃないけど、今回クリーナーズに初選出されたらしい。
BASTERDから選ばれたのがトモ様と四野見さんのふたり。
まおも知ってるアリサさんや東雲さんは選ばれなかったみたいだ。
まおやトモ様よりも配信歴が長い四野見さんはダンジョン業界に詳しいらしく、待合フロアにいるスカベンジャーさんたちについて説明してくれた。
「ええと、あっちにいるのがセブンスレインの刈谷さんとメリッサさんだね」
「セブンスレイン……」
って言ったら、RTAガチ勢の人たちだよね?
配信は何度か見たことがあるけど、実際に会うのははじめてだ。
刈谷さんは、金髪オールバックにグラサン、黒いスーツに身を包んでいるいかにも「俺はチンピラだ」って雰囲気の人。
できれば近寄りたくない。
その隣にいる金髪碧眼美女がメリッサさん。
スケスケのセクシーなドレスを着ている。
なんていうかほら、ハリウッド女優がパーティとかで着てそうなやつ。
おヘソが透けて見えてるし、センシティブすぎて大丈夫かなってちょっと心配になったけど、ドレスの下に水着みたいな服を着てるみたい。
ああ、良かった。
四野見さんが言うには、メリッサさんは北欧の出身なんだって。
年齢はまおの1個上の17歳……。
ううむ。何を食べたらあんな良いスタイルになるんだろ?
他にも「白鯨」っていうトップスカベンジャーチームに所属してる人や、古参のスカベンジャーチーム「七本指」(これはダンジョンWikiで読んだことがある!)に所属してる人が選出されたみたい。
四野見さんってば超詳しい。
「新たに選出されたメンバーって、何人くらいいるんですか?」
「全体規模はわからないけど、今回関東エリアで初選出されたスカベンジャーは10名ほどらしいね」
それって結構いる、のかな?
よくわからないや。
まおたち新人10人以外は、古参メンバーみたい。
赤坂剛力兵団、志々雄十傑集。
セブンスレインにも古参メンバーがいるみたいで──。
「……え?
四野見さんが口にした名前を聞いてギョッとしてしちゃった。
「魔王様、知り合いなの?」
「はい。直接の面識はないですけど、同じ部活の子の友達なんです」
「へぇ、そうなんだ。あ〜、確かに喜屋武さんって学生さんって言ってたっけ」
「ああ、私と同じ学校だな。残念ながら面識はないが……」
どうやらトモ様も知ってたみたい。
そっか~、喜屋武ちゃんもメンバーなのか。
というか、セブンスレインに所属してるなんてすごいな。
喜屋武ちゃんのことはちずるんからよく聞いてるけど、実際に会うのははじめてだから楽しみだ。
……あ、でもちょっと待って?
喜屋武ちゃんって、まおと同じ学年だったよね?
前回クリーナーズが招集されたのって、確か10年前……。
ってことは、6歳のときからスカベンジャーをやってて選出されたの!?
ちょ、すごくない!?
「皆様、お待たせいたしました」
待機フロアに、ふわっと女性の声が浮かんだ。
きらびやかな黒いドレスを着た女性。
八十神さんだ。
「ようこそ、クリーナーズへ。改まして、代表を務めさせていただいております、八十神マリア琴子です」
八十神さんがスカートの裾をつまみ、お辞儀をする。
うおお、こんなふうにお辞儀をする人、リアルで初めてみた。
これぞ淑女って感じ。
矢文を送る人には見えない。
「10年前にも起きた未曾有の事態……スタンピードの混乱を沈めるのが私達クリーナーズの使命です。わたくしをはじめ多くのスカベンジャーさんたちが皆さんの尽力に期待しており──」
そうして八十神さんは、こんこんと現在の状況とクリーナーズの目的を説明する。
けど、いまいちピンとこなかった。
だって、まおたちがやるのはダンジョンのゴミ拾いだし。
「トモ様、ダンジョン掃除とスタンピードって何か関係があるんですか?」
「私にも詳しい原理は良くわからないが、ダンジョンにはびこっている異物を一掃すればスタンピードが落ち着く……というのが有識者たちの見解らしい」
「異物……」
って、ゴミってことだよね?
ダンジョンにはびこっているゴミ……あ! わかったかも!
ダンジョンって「排水口」みたいなもので、ゴミが詰まっちゃうと上手く空気が流れなくなるのでは!?
ほら、空気が汚れてモンスちゃんが「こんなところで暮らせない!」って暴れ出してスタンピードが起きちゃうってわけ。
だから、そのゴミを取り除けばいつものダンジョンに戻る。
……うんうん、そうだ。絶対そうに違いない。
あ〜、我ながら自分の頭のキレに感心しちゃうわ。
八十神さんが言うには、今回の顔合わせは「合同探索」らしい。
古参メンバーと新人メンバーの合計数十名で、ここ白金10号ダンジョンのスタンピード被害調査をしつつ、ゴミ掃除をするってわけだ。
ちなみに、探索中は配信してもいいんだって。
クリーナーズの活動を広めることにつながるし、むしろ推奨してるとか言ってた。
だけど、トモ様と四野見さんはやらないみたい。
まおはやっちゃおうかな?
だってほら、楽しくゴミ掃除できたらまおも頑張れるじゃない?
「ちょっと、そこのオチビさん」
「……ん?」
呼ばれた気がして振り向くと、見知らぬ女性が立っていた。
黒のストレートヘアに黒のキャップ。
背が高くて、体にピッタリとフィットしているスポーツブラっていうか、ランニングウェアっぽい服を着てる。
スカベンジャーっぽくない格好。
ボディーラインがくっきり出てて、さっきのメリッサさんと違うタイプのセクシーさがある。
誰だろ?
「へぇ、聞いてたとおり、すごく可愛いね?」
「え、えと……?」
「あ、ごめんごめん。お互い会うのははじてだよね。あたし喜屋武」
「……えっ! 喜屋武ちゃん!? ちずるんの幼馴染の!?」
「そうそう。ちずるちゃんの幼馴染」
にこやかに笑う喜屋武ちゃん。
けどなんだろう、笑ってるんだけど目が笑ってないっていうか……。
はじめてだし緊張してるのかな?
よし、ここはいつものコミュ力を発揮して、喜屋武ちゃんの懐に飛び込もう!
「あ、あの、ダンジョンのゴミ掃除するのははじめてなんですけど、精一杯頑張るのでよろしくお願いします、先輩!」
ぺこりとお辞儀。
学年は一緒だけど、クリーナーズでは先輩だからね。
「ああ、そういうまどろっこしいのは良いから」
「き、喜屋武ちゃん……」
固くなる必要はないってこと?
うわぁ、なんて優しい人だろう。
流石はちずるんの幼馴染だ──と思ったんだけど。
「だって、あたしはキミをよろしくするつもりはないし、仲良くする気もない」
「……ふぇ?」
素っ頓狂な声がでた。
「ほら、あたしって小さい頃からちずるちゃんと一緒じゃん? 幼稚園も一緒だったし、小学校も中学校も一緒だった。だから、ぽっと出てきて、あたしからちずるちゃんを横取りしようなんて企むキミは……排除すべき『敵』なんだよね」
「え? え?」
どど、どういうこと?
「いい? オチビさん?」
「……っ!?」
喜屋武ちゃんが、ズズイッと顔を近づけてくる。
その分、後退りしてしまうまお。
圧がすごい。
「良く覚えててね? 今回の合同探索は、メンバーの顔合わせなんて生ぬるいもんじゃない。ちずるちゃんにふわさしいのはあたしだってこと、キミに身を持って理解してもらうための『わからせダンジョンアタック』だから」
「……え、ええええっ!?」
ちょ、ちょちょ、ちょっと待って!?
なにそれ!?
色々と重くない!?
や、そりゃあ、ちずるんは可愛くてついナデナデしちゃいたくなりますよ?
だけど、まおの数少ない友達ってだけだし!
大切な部の仲間!!
というかそもそもの話、ちずるんから聞いた話では喜屋武ちゃんは「頑張り屋」の「心優しい女の子」だったと思うけど……。
え? この人、別人じゃないよね?
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