第36話

 というわけで、やってきた表参道25号ダンジョン。


 ここは表参道15号と似ていて、青山通りの路地裏にある小さな雑居ビルがダンジョンの入口なんだけど、待機フロアにスカベンジャーさんの姿はなかった。


 予想通り、高ランクダンジョンには人がいないみたい。


 低ランクならまだしも、こんなところでモンスちゃんの大群に遭遇しちゃったら大変なことになっちゃうからね。


 まぁ、まおには関係ないけど。


 貸し切り状態なら、宝箱集めも楽にできちゃいそう。


 ちなみに、宝箱開封勝負は「宝箱を10箱開いてアイテム売却額の総額が高かったほうが勝ち」ということにした。


 売却額はダンカリを参照する感じ。


 勝負はわかりやすくね!


 というわけで、みのりちゃんとささっと準備をしてダンジョンに入って、配信開始をぽちっ。



「魔王軍のみんな、こんまお〜! まおのダンジョンさんぽ、はじめちゃいま〜す! 今日もみのりちゃんと一緒ですっ!」

「こ、こ、こんまおでござるっ!」


《おおおおお!》

《こんまお〜〜〜!!》 

《こんまおおおおおお!》

《みのりちゃんもこんにちは〜〜》

《スタンピード発生中なのに配信きたぁああああああ!》

《ありがとうありがとう》

《癒やしのオアシスがあった・・・》

《てか、入れるダンジョンあるんだw》

《トモ:まおたん!? ダンジョンに入っているのか!?》

《お》

《久しぶりのトモ様きたああああ!》



 久しぶりにコメント欄にトモ様が!


 最近忙しいみたいで、トモ様、配信もお休みしてるんだよね。



「そうなんですよ! 今いるダンジョンが偶然、中層まで開放されてて!」


《トモ:そうなのか・・・だが、気をつけるんだぞまおたん。何かあっても助けに行けないからな。試合が近くて練習が忙しいのだ》

《トモ様バスケ部のエースだからな》

《トモ様もがんばれ!》



 なるほど〜、試合前で部活漬けだったんだね。


 トモ様の試合、応援に行っちゃおうかな? 


 魔王軍のみんなと応援配信とか、楽しそう!



「それで今日の配信なんだけど、中層までしか行けないみたいだし、ちょっと趣向を変えて宝箱開封配信をしてみようかと思いますっ!」


《おお!》

《ガチャ配信キターーー!》

《みのりちゃんとガチャ勝負でもするの?》


「その通り! 10箱開けて、売却額の総額が高かった方の勝利って感じで!」


《おお、楽しそうw》

《わくわくしかしねぇwww》

《魔王様の大爆死、期待してます!》



 なんでよ!?


 お前ら魔王軍だろ!


 まおの勝利を期待しろ!



「……あ、そう言えば、まお殿」



 と、みのりちゃんがポンと手を叩く。



「最近ネット掲示板でダンジョンの宝箱に関するを聞いたのでござるが、ご存知ですか?」

「え? 気になる話?」

「はい。宝箱に潜むモンスさんの話でござる」

「エッ!? 宝箱に潜むモンスちゃん!?」



 なにそれくわしく。



「なんでも宝箱に擬態しているモンスさんみたいで、箱をあけたら、こう……ガバッと襲われちゃう、みたいな」

「お、襲われる!?」

「そうなんでござる。でも、オス同士でやってもらわないとありがたみがないっていうか……」

「オス同士」



 よくわからないありがたさだな。



《wwww》

《みのりちゃん相変わらずでワロタ》

《魔王様とみのりちゃんに襲われたい》

《トモ:みのりちゃんもかわいいな》

《トモ様wwww》

《部活に集中してもろてw》

《宝箱に擬態って、ミミックのことかな?》

《多分な》

《魔王様でも知らないモンスターいるんだな》

《宝箱あんまり開けたことないんじゃない?》

《wwww》

《モンスターにしか興味がないからな》



「……」



 こ、こいつらバカにしやがって。


 ええ、そうですよっ!


 宝箱探すくらいなら、モンスちゃん探しますっ!



《魔王様、価格勝負も面白いですけど、ミミック引いたら負けってのもいいんじゃないですかね?》

《↑天才か》

《面白そうwww》

《魔王様的にミミックはむしろ当たりなのでは?》

《それな》 

《ロシアンルーレット的な感じだな》


「……なるほど、ロリアンか」



 いいアイデアかもしれない。


 何だかしらんけど。



《ロシアンな》

《確かにふたりロリがいるロリアンズだけども》

《魔王様、取って付けたように難しそうな顔してて草》

《なんぞそれって思ってそうw》



 うっ、バレてた。


 最近、魔王軍のみんなが鋭くなってきてるな。


 というわけで、みのりちゃんの【モンスターシンドローム】対策でみろろんに来てもらい、上層をぐるっと回ってみることに。


 ここもお城の中みたいなダンジョンで、エリアがわかりやすく分かれててすごく歩きやすい。


 それに、スタンピードの影響もなく、モンスちゃんたちが群れている様子もない。


 ──だけど、宝箱は一個も見つからず。



《無いねww》

《これは・・・》

《き、企画倒れ?》


「ま、まずい……」



 ふたりあわせて20個の宝箱が必要なのに……。


 これ、最下層まで行っても見つからないんじゃ?


 や、そもそもまおたちは中層までしか行けないんだけどさ。



「……あ、いいこと思いついた! 推しモンちゃんたちに手伝ってもらおう!」



 そうだよ。


 まおたちは中層までしか潜ることはできないけど、モンスちゃんだったらその下までいけるじゃん?


 気づきのまおだわ。


 早速、【この指と〜まれ♪】を発動。


 ダンジョンの奥から、どどどっと推しモンちゃんたちがやってくる。



《二度目の魔王軍召喚キターwww》

《局地的スタンピード》

《ここも立ち入り禁止にならないかこれw》 


「大丈夫! 宝箱を集めてもらうだけだから!」



 ちゃちゃっと集めてもらってちゃちゃっと帰ってもらう。


 ……まぁ、最近ご無沙汰してたし、ちょっとだけ愛でちゃうかもだけど。

 

 そこは御愛嬌ってことで。



「はい、みんな! まおに注目して!」



 引率の先生よろしく、ピッと手を上げる。



「みんなには、このダンジョンにあるエリアから宝箱を探してきてほしいの! 数は20個くらい! よろしくおねがいしますっ!」

「ぴぎっ!」

「わふっ!」

「ぶもっ!」



 推しモンちゃんたちは元気よく返事をすると、一斉にわ〜っとダンジョンの奥に消えていく。


 てことで。


 推しモンちゃんたちが帰ってくるまではちょっと雑談タイムに。


 みのりちゃんと、「ダンジョンに入りづらくなっちゃったからゲーム配信とか魔王軍のみんなと一緒に映画を見る『ウォッチパーティ』をやろう」なんて話しつつ、待つこと10分ほど。



「……あ、みんな戻ってきた!」

 


 ダンジョンの奥から、宝箱を抱えたモンスちゃんたちがドドドッと帰ってきた。



《わぁ・・・すごい光景》

《ちゃんと見つけてくるって、モンスターって賢いんだなwww》

《実にかしこい》

《この方法使えばダンカリで大儲けできるな。スタンピードの影響で出品数減ってるから価格上昇してるし》

《天才現る》

《たしかに大儲けできるなwwww》

《馬鹿野郎! 魔王様がそんな賢いこと考えられるわけないだろ! いい加減にしろ!》

《おいww》

《wwwwww》


「良くわからないけど、ディスられた気がする!!」



 推しモンちゃんたちは、お願いしたとおり20個の宝箱を持ってきてくれた。


 ひとりづつありがとうのナデナデをしてから、しばしのお別れ。


 みのりちゃんの【モンスターシンドローム】発動する心配なさそうだし、みろろんにも帰ってもらった。


 ありがとうね、みろろん。



「……よし、それじゃあひとつづつ開けていこうか」

「そうでござるな!」



 じゃんけんをして、まずはまおから開けることに。


 さて、どれにしよう。


 ひと口に宝箱って言っても、大きさや色は全く違う。


 こういう場合、小さい箱に良いものが入っているってのが定番だよね?



「よし、この一番小さいやつにする!」



 まおが選んだのは、ピンクの小さな宝箱。


 何が入ってるかな。


 どきどきするなぁ。


 ミミックちゃん、こい!


 パカッと開けたところ、小瓶が入っていた。



「あ、キュアポーションでござるね」

「……」



 入っていたのはただの回復薬。 


 ええっと、ダンカリ価格は……200円なり。


 ……ま、最初はね?


 はい次、みのりちゃん。


 選んだのは一番大きな箱。


 か〜っ! コレだから素人は!



「ミミックさんは嫌でござるよ……あっ」

「んああああっ!?」



 大きな箱の中に見えるのは、キラキラと七色に輝くドレス。



「こ、これって確か、シルクの魔法衣だよね!?」



 キラキラのラメ入りドレス! 


 ダンカリでみたことある! かわいいから覚えてるもん!


 ダンカリ価格……げげっ、22000円!?


 おまけに、ドレスだけじゃなく、拳銃がひとつと弾丸がいっぱい入っていた。


 へ、へぇ? いきなり複数アイテムゲットですか。そうですか。



《お、ハンドガンのマカロフだ》

《うおおお! ダンカリで7万円もするぞ!?》



 はああああっ!?


 な、な、70000円!? この鉄砲が!? ウソでしょ!?



《すげぇwwww》

《というか、ダンジョンに銃なんてあるんかいwww》

《世界設定めちゃくちゃで草》

《銃火器は弾丸ないと使えないけど、かなり殺傷力高い強武器やぞ》


「えへへ、いいもの出たでござる」

「……」


 ほくほく顔のみのりちゃん。


 一方のまおは、チベットスナギツネみたいな顔──になってる気がする。


 ちなみに、拳銃の弾は一発100円くらいするらしい。ざっと数えて100発くらいある。


 ええっと、まおが出したキュアポーションって、拳銃の弾2発分ってこと?


 うわっ……まおの総額、低すぎ……?



《魔王様・・・》

《これはある意味神引きだねwww》

《魔王様、配信がうまい》

《wwww》

《さすまお》

《まだまだ巻き返せますよ!(白目)》



 そう! 諦めるのはまだ早い!


 だってまだひと箱目だし!


 残りは9箱!


 次から本気出す!


 ……なーんて意気込みながら、お互い合計9個の宝箱を開けたんだけど。



「と、途中結果報告しよっか?」

「は、はい」

「まお、キュアポーション9個。合計1800円」

「しょ、小生、シルクの魔法衣、拳銃、弾丸100発、ドラゴンメイル、チェインメイル、ライトニングソード、シャムシール……他にも色々あって、合計332000円」

「おかしい!!」


《圧・倒・的・敗・北www》

《むしろ9個あけてポーション9個って、どんな運してるんだよwwww》

《これはソシャゲの課金ガチャに手を出したら破産するやつ》

《魔王様にも弱点があって安心したわw》

《トモ:まおたん、まだ最後の宝箱がある! 応援しているぞ!》



 まおたちの前にあるのは、ふたつの宝箱。


 お互いに最後の一個づつ。



「ええっと……ほ、ほら、ま、まお殿! トモ様殿も応援してるでござる! まだ最後の宝箱があるでござるから!」

「そっ、そうだよね! まだ最後があるもんね!」



 ありがとうトモ様!


 ありがとうみのりちゃん!


 ここまでのは壮大な前振りだよね!?


 ここで一発どデカいのを引いて、「さすがまおたん! 最後の最後で全部持ってったね!」「かわいい!」「いじってゴメン!」ってなるパティーンだよね!?



「よ、よしっ……!」



 気合を入れて、いざ最後の箱を開けた。


 宝箱の中が口みたいになっていて、鋭いキバがズラリと並んでいた。



「んぎゃああああっ!?」

「わぁ……っ!」



 令嬢らしからぬ悲鳴を上げるみのりちゃん。


 一方、まおの口から漏れ出したのは黄色い声。



《おいおいおいww》

《wwwwww》

《まじかよwww》

《ミミックきたあああああ!》

《最後で神引きwwww》 

《ホント配信上手いなぁwwww》



 え? え? 


 これがミミックちゃん!?


 口だけなのに器用にぴょんぴょん飛び跳ねてるし……かっ、かわいいっ!!



「うひょ〜っ! か、かわいい! この可愛さは間違いなくダンカリ100万円レベルでしょ!? ほら見てみのりちゃ……ってみのりちゃん?」

「……はわわ、わわ」



 白目を剥いてぱったりダウン。


 あ、【モンスターシンドローム】で気絶しちゃってる……。


 しまったなぁ。みろろんを控えさせとくべきだった。


 残念ながら、みのりちゃんは気絶しちゃったので、彼女は10個目の宝箱をあけることができずゲーム終了ってことで。


 まおの独断と偏見で金額計算した結果だけど──。



「まおはミミックちゃん引いたので、1,001,800円! みのりちゃんは色々あって332,000円……はいっ! まおの圧倒的勝利っ!」



 やった〜〜。


 わーいわーい。


 やっぱりまおの勝ちぃ。ぶいぶい。



《いやいやいやいやいや》

《色々ちょっと待って?www》

《盛大な不正疑惑がwwww》

《ミミックはダンカリで売れませんよ魔王様!!!》

《異議あり!》

《トモ:かわいい》

《不正して勝ってどやってる魔王様はかわいいけどさww》

《wwwww》

《腹痛ぇwwww》



 なんとでも言いなさい!


 勝ちは勝ちだもんね! かわいいは正義なのである!


 ……なんてやってると、ミミックちゃんに頭からガジガジと噛まれた。


 けど全然痛くない。甘噛みだね。


 あ、ほら、【以心☆伝心】も発動しちゃったし!


 この子、名前は「ぱくぱく」ちゃんにしようっと。


 えへへ、これからもよろしくね、ぱくぱくちゃん☆

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