第9話
というわけで到着した最下層のエリア10。
やもりんがいるとしたら、この最下層の最終エリアだ。
《あっさり最下層エリア10か・・・》
《RTAガチ勢のセブンスレインの連中よりも速くない?》
「そりゃあそうですよ! 中層、下層はスキップしましたから!」
《スキップw》
《え? そんなことできるの?》
《出来たらソロで潜るスカベンジャーだらけになってる》
《魔王様のユニークスキルだろ》
「え? 違うよ? わんさぶろうが頑張って走ってくれたからだよ? ねぇ、わんさぶろう?」
「わふっ!」
嬉しそうに尻尾をぶんぶん振りまくるわんさぶろう。
クウ~! 可愛いっ! その笑顔、守りたいっ!
コメント欄に《魔王様マジレスかわいい》とか《知ってる》とか《見てた》とか流れてきたけど、よくわからないので奥へと向かう。
いかにも「ここにやもりんがいるよ」って言ってる大きなドアを発見。
威勢よく、思いっきり蹴り飛ばして開け放つ。
こういうの、勢いが大事だよね。
「やもりんいますか!?」
《いません》
《友達の家に遊びにきた幼女かよw》
《友達の家に遊びに来る幼女は玄関蹴破らない》
《むしろカチコミ》
《ティアマットさん逃げて! (´;ω;`)ブワッ》
なんでよ!
せっかく会いにきたのに、また逃げちゃやだ!
ドアの向こうに広がっていたのは、だだっぴろい空間。
広さで言えば、学校の体育館くらいかな。
そして、そこに佇む、黒い影。
暗闇の中に赤い瞳がギラリと光る。
──いた! やもりんだ!
「ぐるるるぅ……」
まおに気づいたやもりんは、異様に発達している後ろ足の筋肉を使って立ち上がり、大きく両手を広げる。
お、挨拶してくれてるのかな?
お返しに両手をブンブン。
「やっほ〜、やもりん! こんにちは!」
《おいおいおい》
《いきなり威嚇してんぞ》
《強敵として魔王様を認識したみたいだな》
《てか、はじめてみたけど見た目ヤバすぎんだろw》
《筋肉すげぇ!》
《こええええええ》
《流石に逃げてよ魔王様!》
《トモ:ティアマットにソロは危険すぎるぞ! 逃げろまおさん!》
「……ぐおおおおおおおっ!」
コメント欄に呼応するように、やもりんが吠えた。
周囲の空気が激しく震える。
その声にびっくりしたのか、レベルが低い推しモンちゃんたちが一目散に逃げていった。
「……あれ? 今日はちょっとだけご機嫌ナナメかな?」
前来たときは速攻逃げられちゃったし。
う~ん、これは予想外だ。
ひょっとすると、寝起きに突撃しちゃったかもしれない。
まおも休みの日にお母さんに強引に起こされたらブチ切れるからな。
悪いことしちゃったかも。
《ちょっとどころじゃねぇw》
《ご機嫌直滑降》
《うっ、俺の古傷が疼く・・・》
《↑ウソ乙》
《てか、どうすんだこれw》
「う~ん、どうしよう……」
このままだと推しモンちゃんたちに被害が出ちゃいそうだし。
やもりんには悪いけど、ちょっと疲れて大人しくなってもらおうかな。
「よしっ! みろろん! わんさぶろう! 力を合わせてやもりんを疲れさせてっ!」
「ぶもっ!」
「わふっ!」
こくりと頷いたふたりは、やもりんに向かって猛ダッシュする。
「ぶもおおおおっ!」
最初にみろろんが強烈なタックルをぶちかます。
その衝撃で一瞬だけ体勢を崩すやもりんだったが、脅威の筋力でふんばる。
「わふっ!」
低い体勢でやもりんの体にしがみつく形になったみろろんを足台にして、わんさぶろうが跳躍。
首元に食らいつこうとするが、ムキムキの右腕でわんさぶろうの牙を防ぐ。
くぅ、いい勝負!
だけど、ナイス連携だよふたりとも!
《( Д ) ゚ ゚》
《いやいや、何この怪獣大戦争www》
《まず配下から戦わせる戦略・・・流石魔王様だ》
《さすまお》
《ダンジョン崩れない?》
《A級とS級モンスターの縄張り争いなんて始めてみた》
《すげぇwww》
「がんばれみろろん! わんさぶろう! パンチパンチ! そこ! 今だ、ひっくり返せぇ!」
「ぶもぉおお!」
「わおんっ!」
まおの応援に応えるように、激しく動くみろろんとわんさぶろう。
だけど、ここに来るまでの疲れが出たのか、次第にやもりんに力負けしていく。
「ぶ、ぶもっ……」
ついにやもりんの体をがっちりロックしていたみろろんの腕が外れてしまう。
それを好機と踏んだのか、やもりんがみろろんの腰をガッシリと掴み、天高く持ち上げた。
「み、みろろん!」
「ぶ、ぶもぉ……!?」
じたばたと暴れるみろろんだったけど、そのまま放り投げられてしまった。
天井付近まで高々と投げられたみろろんが地面に叩きつけられる。
すぐさま立ち上がってやもりんに立ち向かおうとするみろろんだったけど、流石にストップをかけた。
「ごめん、ふたりとも戻って! 後はまおがやるから!」
これ以上、大切な推しモンちゃんを傷つけさせるわけにはいかないからね。
それに、ふたりのおかげでやもりんも結構疲れてるみたいだし。
あとはまおのスキルでエネルギーを空にしちゃえば、さすがのやもりんも大人しくなってくれて──。
「……ん?」
と、やもりんが妙な行動をはじめた。
喉をぷくっと膨らませ、舌を鳴らし始める。
《やばいぞタンギングしてる》
《魔王様、ブレスが来ますよ!》
《トモ:逃げろまおさん!》
舌を鳴らすタンギング。
やもりんがブレス攻撃を放つ前兆──。
「がおおおっ!」
咆哮と共に、強烈な火球のブレスが放たれた。
まおの体の数倍はありそうな火の球が、猛烈なスピードで襲いかかってくる。
だけど──。
「えい」
手のひらを使って、火の玉に思いっきりビンタした。
まおに叩かれて直角に曲がった火の玉は、壁にぶつかって大きく爆ぜる。
《え?》
《え?》
《火球をビンタしたw》
《( ゚д゚)ポカーン》
《いや、そうはならんやろwww》
《なっとるやろがい!》
《草すぎる》
《トモ:ウソだ!》
《ティアマットのヘルファイア素手で打ち返したんだがw》
《ヘルファイア触ってピンピンしてるとかありえねぇwww》
《いやいや、普通腕が消し炭になるって!》
《どうなってんだwww》
「あ、これはまおのユニークスキル【私ってば無敵すぎる】の効果で、ちょっとだけ体が頑丈になれます。だから叩いても平気」
《冗談だろwwwwww》
《ちょっとどころじゃないんですがそれは》
《安定のスキル名》
《確かに無敵すぎて草だわ》
《なるほど、それで今までモンスターに噛まれても平気だったのか》
《てか、魔王様ってばいくつユニークスキル持ってんだよw》
《普通、持っててひとつかふたつだよな?》
「ふっふっふ……」
称賛の声を浴びて、流石にちょっと気持ちよくなってきた。
千のスキルを持つJK……それがまおこと有栖川まおの正体なのだ!
まぁ、千っていうのはウソだけど。
「ぐおおおおっ!」
虎の子のブレス攻撃を弾かれたことに怒ったのか、やもりんが声高に吠え、こっちに突っ込んでくる。
大地が揺れ、砂煙が舞い上がる。
「まおと押し相撲をするつもり? いいよ、やろう!」
遊びたくなっちゃったみたいだね。
どっちが相手をこのフロアの外に押し出すか、勝負だよ!
「がおおおん!」
やもりんの頭がまおの体に直撃する。
ちょっと衝撃がすごかったけど──全く問題はない。
「どすこ~い!」
体のサイズは象さんと蟻んこくらい違うけど、突っ込んできたやもりんと四つ身で組み合った。
《wwww》
《どすこ~いw》
《トモ:うそだあああああ!?》
《いやいや、どうやって受け止めたの!?》
《ありえねぇ! 色々ありえねぇ!》
《ドラゴンとがっぷり四つを組む幼女》
《いきなり川柳やめろ》
中々なパワーだけど、そのくらいじゃまおを押し出すことはできないよ。
むんっと足に力を入れ、少しづつやもりんを押し返す。
《すげぇしか言えねぇ・・・》
《ティアマットが幼女に押し負けとる》
《これはティアマットが弱いのか、それとも魔王様がべらぼうに強いのか》
《パワー系幼女様w》
《幼女の体のどこにそんな力があんだよw》
こら! 幼女言うな!
怒りを力に変えて、やもりんをずんずんと押しまくる。
「が、がおっ!」
このままじゃ負けると焦ったのか、やもりんががぶりと食らいついてきた。
だけど全然痛くない。
これは──いつもの甘噛だ!
よっしゃあああっ! 仲良くなれる兆候きたあああ!
「エッへっへ! それじゃあ、しっかりと仕留めちゃうよ!」
《おお、魔王様!》
《やっちゃえ!》
《まさかティアマットを素手で仕留めるのか!?》
「はいはい、いい子いい子♪」
片手でやもりんの体を受け止めつつナデナデ。
頭がすぐ近くにあるので、撫でやすい。
《エッ》
《( Д ) ゚ ゚》
《いや、なでるんかいw》
《まぁそうなるよな》
《うん》
《知ってた》
《さすまお》
「かわいいですねぇ♪ でも、ちょっとおとなしくしてね……【元気吸っちゃうぞ♪】っ」
「……きゅっ!?」
まおと視線が交錯した瞬間、やもりんの力ががくんと弱くなる。
これもまおのユニークスキルのひとつ。
目を合わせた相手のエネルギーを奪っちゃう効果があるんだよね。
ちなみに、元々は【エナジードレイン】って変な名前だったっけ?
まぁ、速攻でリネームしたよね。
「そして……おりゃあああ! いくよ、やもりんっ!」
「……きゅっ!?」
力が弱くなったところで、一気に勝負をかける!
やもりんの大きな体を持ち上げて……ぶん投げる!
「どっせ~い!」
「きゅうううっ!?」
《投げた!?》
《うそお!?》
《幼女がドラゴンぶん投げたwwwww》
《ぅゎょぅι゛ょっょぃ》
巨大なやもりんの体が、綺麗な放物線を描きながら宙を舞った。
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