第8話
この前まで同接2だったまおが、同接8万……?
ま、待って? そんな大勢の前でおしゃべりするなんて、恐ろしすぎるんですけど……。
というか、いよいよマズすぎやしませんかね?
このままじゃ、本当に魔王として全世界に認知されてしまうじゃないですか!
「す~は~す~は~……おちつけ、まお」
うう、考えただけでも気絶しそう。
だって、本気でまおが魔王だって広まっちゃったら、配信やってる場合じゃなくなるよね?
だってほら、討伐対象になるかもしれないし。
想像してみる。
十字架に張り付けにされて火炙りされるまお──。
そして、遠巻きに涙ながらに見つめる推しモンちゃんたち──。
か、悲しすぎる。
そんな悲しいことが起きていいのだろうか!?
いや、良くない!
「さ、ささ、さて、大いに盛り上がって来ましたし、そろそろ『まおのダンジョンさんぽ』メインコンテンツ……ダンジョン最下層まで軽く散歩に行きましょうかね!」
まおがやってるのは、平和的な散歩配信なんだ!
みんなわかってくれぇ!!
《は?》
《え?》
《最下層まで、散歩?》
《ここ、表参道15号だよな? かなりレベル高いぞ?》
《トモ:15号の最下層ソロなんて、自殺行為だぞ、まおさん!》
「あ、全然余裕ですよ。もう何度も降りてるんで」
《余裕で草》
《何度も?》
《ウソだろwww》
《RTA勢かよ》
《トモ様でも無理な領域にあっさり踏み込む魔王様》
《さすまお》
《さすまお》
いやいや、トモ様でも無理ってそんなバカな。
謙遜しなくてもいいんですよ?
「あ、そう言えば表参道15号ダンジョンの最下層には可愛いモンスちゃんがたくさんいるんですよね〜。散歩ついでに愛でちゃいましょうかね」
《愛でちゃう》
《配信では愛でないんじゃなかったんか》
《5秒で忘れる魔王様かわいい》
《目的が不純w》
《軸がブレブレww》
《がんばれ魔王様!》
「うん、がんばる!」
みんなの応援を受けて、いざ出陣。
ちなみに今、まおがいるのは上層階。
ここが地表に一番近い階層で、ひとつ下は「中層」、さらに下は「下層」。そしてダンジョン最深部の「最下層」という順番になっている。
各階層はだいたい10の
そこに階層ボスがいるから各層の10エリア目が一番危険っていうのが常識らしいんだけど……ぶっちゃけ、危ない目にあったことは一度もないんだよね。
デマってホントよくない。
「……でも、どうしようかな」
ちょっとだけ思案タイム。
表参道15号の中層とか下層には、可愛いもふもふ羊さんモンスターのバロメッツや、お馬さんモンスターのバイコーンなんかもいるんだよね。
あの子たちも紹介したいところだけど、ちょっと間延びしちゃうよね?
う~ん、ちょっと残念だけど、ここは最下層まで一気にババッと行っちゃったほうがいいか。
「はい、というわけで、これから最下層まで一気に突っ走っちゃいます」
《は?》
《突っ走る?》
《どこを?》
《世界征服への道を?》
「ダンジョンをだよ!」
早速【この指と~まれ♪】でわんさぶろうを呼ぶ。
「ごめん、わんさぶろう、ちょっと最下層まで行くから背中貸してくれない?」
「わふっ!」
はい、良い返事。
わんさぶろうの頭をナデナデ。
《おいおいおいおいおい》
《まじですか》
《さらっとオルトロス召喚キタ〜〜〜〜www》
《やゔぁい》
《( ゚д゚)ポカーン》
なんだかリスナーさんたちが騒いでるけど、うんしょとわんさぶろうの背中によじ登る。
「よし。それじゃあ推しモンのみんな、まおに付いてきてね!」
「がうっ!」
「ぶもっ!」
それいけ〜と、ダンジョンの奥に向かって走り出す。
まずは上層の10エリア目を目指して、最短距離をひたすらまっすぐに。
表参道15号の上層は古いお城の中みたいな雰囲気で、各エリアが大きな部屋になっていて細い通路で繋がっている。
モンスちゃんたちは大抵その部屋の中にいるから、通路は安全。だから探索中のスカベンジャーさんたちが一息つく場所になっているんだよね。
そんな中を推しモンちゃんと爆走するのはちょっとだけ気が引けるけど……。
「な、なな、なんだ!?」
休憩していたスカベンジャーさんたちがまおを見てぎょっとする。
「うわっ!? S級のオルトロスに乗った幼女と大量のモンスター!? まさか……スタンピードか!?」
「スタンピード!?」
「ああ、そうだ! モンスターの異常発生現象だ! 10年前くらいに一度だけ発生して、多くスカベンジャーがリセットされて──」
「ごめんなさい! まおです! 人畜無害の存在が通ります! ピース、ピース!」
「ぶもっ、ぶもっ」
「わふっ、わふっ」
みろろん、わんさぶろうと一緒に安全アピールしながら突っ走る。
ピースっていうのはVサインのことじゃなくて平和のピースのことね。
平和、大事!
スカベンジャーさんへの対応も完璧なんて、流石まおだわ。
広間を通過するときに、まおのことを見つけてくれたモンスちゃんたちが遊びたいって近づいてきてくれたんだけど、心を鬼にしてガン無視する。
うう、ごめんねモンスちゃんたち。
「ごめんね! また今度遊んであげるから! はい、みろろん!」
「ぶも~!」
みろろんが近づいてきた半魚人モンスターのサハギンちゃんの腕をガシっと掴んで、ぽいっと放り投げる。
「ギャハ~ッ!?」
サハギンちゃんの楽しそうな声が響く。
その声に惹かれたのか、次々とモンスちゃんたちが集まってきちゃった。
「あわわわ……わんさぶろう、お願い!」
「わふっ!」
今度はわんさぶろうが腕をがじっと噛んで投げ捨てる。
立ちはだかるモンスちゃんをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
──いや、実際にはちぎってはなくて、遊んでるだけだけどね?
ダンジョンがモンスちゃんたちの楽しそうな声であふれかえる。
遊ぶ時間は無いかなって思ってたけど、楽しんでくれてるみたいで良かった~。
《( ゚д゚)》
《すげぇ》
《阿鼻叫喚ww》
《俺たちは一体何を見てるんだ・・・》
《なぁ、ここって高レベルの表参道15号だよな?》
《瞬殺ワロ》
《流石ミノタウロス》
《流石オルトロス》
《流石魔王様》
《あ、今、階層ボスのB級モンスいたぞ。ぶん投げられてたけど》
《wwww》
《ガン処理》
「それいけ~~~!」
あっという間に上層をクリアして、中層に突入。
中層も変わり映えしないお城エリア。
ちょっとカビ臭いのがアレだけど、中庭みたいなエリアがあって、バロメッツちゃんがのんびり草を食んでたりするんだよね。
う~ん、ちょっと癒やされに行きたいところだけど、ここは我慢。
中層と下層をすっ飛ばし、最下層に足を踏み入れる。
「さて、そろそろ最下層ですね。見てくださいこの風景! 何ていうか……ええっと、最下層って感じですよね!」
《そりゃあ最下層だからな》
《あずき:まお、ちゃんとやれ》
《魔王様、語彙力》
《おまいら小学生に語彙力求めんなよ》
「まおは高校生だから!」
失礼なリスナーさん!
次言ったらBANだよ!
最下層は今までのお城エリアからガラリと雰囲気が変わって、ザ・ダンジョンという見た目だ。
ゴツゴツとした岩肌に、鍾乳洞。
場所によっては地下水脈が流れている。
そんな湿気が多いじめじめとした場所だから、サハギンちゃんや蟹モンスの「キラーキャンサー」とか、「帝王ペンギン」みたいなキャワイイモンスちゃんがいっぱいいるんだよね。
「特に皆さんに見てほしいのが、ここにいる大きなトカゲちゃんなんです。知ってますかね?」
《トカゲ? そんなやつ15号の最下層にいたっけ?》
《最下層なんて行ったことないからわからん》
《教えて~プロの人~!》
《もしかしてボスモンスターのティアマットのこと?》
「そうそう! ティアマットの『やもりん』!」
黒い鱗に覆われたおっきいトカゲちゃん。
まだお友達にはなってないんだけど、名前は決めてるんだ。
前に会ったときは逃げられちゃったんだよね。
今日会えたら、【以心☆伝心】で仲良くなる予定!
《ちょまwww》
《ガチで言ってんのか?》
《なるほど、ティアマットか》
《ティアマットって、確かA級のドラゴンだよな?》
《ティアマットのやもりん・・・》
《見たことねぇ・・・》
《おれも》
《てか、やもりんてw》
《あ、家守をもじったのか》
《いや、たしかにティアマットも広義で言えばトカゲだけどさw》
《なぁ、普通ボスモンスターの名前を呼ぶときって、もう少し畏怖するもんじゃないの?》
「トカゲって可愛いですよね! お目々が大きくてちょっとぼんやりした顔で、同じトカゲのリザードマンちゃんとか、お目々もぱっちりしてぎゃんきゃわなんですよね! それに、体はぽてっとしてるし近づいてナデナデすると猫ちゃんみたいに喉をぐるぐるって鳴らしてくるし! ああもう、可愛すぎてしんどい!」
《急に早口になるのやめろ》
《かわいいww》
《あずき:やめろまお、気持ち悪い》
《トモ:まおさんかわいい》
思い出したら会いたくなってきちゃったな。
やもりん、いると良いな!
んああああっ! バイブスぶちあがるわぁ!
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