幼女系底辺ダンジョン配信者、配信切り忘れてS級モンスターを愛でてたら魔王と勘違いされてバズってしまう

邑上主水

第1章

第1話

「……それじゃあ、まおのダンジョンさんぽ、今日はここまで~」



 ふわふわと空中に浮かんでいる丸くて小さいカメラ付きドローンちゃんに手を振って、リスナーさんたちに別れを告げた。


 わたしこと有栖川まおは、ダンジョン配信者をやっている。


 ダンジョン配信者というのは、ダンジョンを探索しながらダンジョン専用配信サービス、ダンジョン・ティーヴィー……略して「ダンTV」でライブ配信をする人たちのことだ。


 自分の大好きなものを発信して、みんなと感動を共有したい。


 ついでにお小遣いもちょっと稼げたらいいなぁ……なんて淡い欲望を抱きながら始めたダンジョン配信なんだけど──。



「う~ん、今日も同接2かぁ……どうしてなのかなぁ?」



 ポケットから取り出したスマホに映っているのは、前髪ぱっつん&銀色の髪に紫メッシュを入れた、ちびっこいまおが出ている配信画面。


 そして、配信画面に表示されている「2」という数字。


 これは配信を見ている視聴者の数──いわゆる「同時接続者」が最大2人だったという悲しい現実だ。


 この2人というのも、まおが確認用でチャンネルを開いているのと、マイシスター「あずき姉」が冷やかしで見てるだけっていうのが悲しいところ。



 十数年前、突如として日本中に現れた「ダンジョン」という異世界の迷宮は、大きなニュースになった。


 恐ろしいモンスターが徘徊する危険なダンジョン。その中には見たこともない金銀財宝が眠っている──。


 そんな話が広まって、世間はダンジョン一色になった。


 だけど、「ダンジョン内で得たものは外に持ち出せない」とわかって世間の興味は一気に冷め、さらに「ダンジョン内で死んでもリセットされて入口に戻されるだけ」と判明してからはゲーム感覚で楽しめる娯楽のひとつになっている。


 そんなダンジョンは日本にしかなくて、観光庁を中心にインバウンド事業として海外観光客を誘致しているみたい。


 今やダンジョン探索やダンジョン配信は、アニメや漫画に次ぐクールジャパン戦略のひとつになっているってわけだ。



「……とはいえ、そこで人気が出るのはすっごく大変なんだけどねぇ」



 思わず愚痴が出ちゃった。


 まおみたいな女子高生にもダンジョン探索や配信が人気なのは、初めてダンジョンに入ったときに「ユニークスキル」というものが与えられるから。


 ゲームの特殊能力って言えばわかりやすいかな?


 学校では目立たない子がダンジョンでは最強──みたいなことが頻繁に起きて、「一発逆転」を狙ってダンジョンに入る人も多い。


 そういう気持ち、わからなくもない。


 周囲を見返したい……っていうのかな?


 まおも、たまに会う親戚の叔父さんから「まおちゃん小学何年生になったの?」とか「小学校でお友達できた?」とか言われちゃうんだよね。


 こちとら16歳の立派な女子高生じゃい!


 身長は140センチだけど!


 だからいつかグラマラスな女性になって、親戚のみんなに土下座させてやるんだ。


 ……ごめん、ちょっと話しがズレちゃった。


 とにかく、一発逆転を狙っている人たちはダンTVで「最速ダンジョンクリア」とか「最深部のボスをソロで討伐」なんて配信をして人気を博している。


 まおは自分が可愛いと思うモノを共有したいって考えで始めたから、まったりダンジョンを散歩して「可愛いモノ」を紹介する配信をしているけどね。


 武闘派の探索者スカベンジャーと違ってヒリヒリするようなスリルはないけど、あんなに可愛いモノを紹介しているんだから絶対にイケると思った。


 だけど──結果はご覧のとおり。


 おかしいなぁ。


 全く原因がわからない。



「ま、悲観しても仕方がないか」



 うじうじ考えるのは、まおの性格じゃないし。



「……ん?」



 なんて考えていると、岩陰からぴょこぴょこと小さな動物がやってきた。


 ウサギのモンスター。名前はキラーラビット。


 おでこに小さな角が生えている以外は普通のウサギと変わらない。


 キラーラビットはスカベンジャー界隈では危険なモンスターって認識なんだけど、多分デマだと思う。


 だってまお、この子に危険な目にあわされたことないし。



「うふふ、その角、キュートだよね?」

「……?」



 キラーラビットちゃんが首をかしげる。


 ああ、そんな仕草も可愛い!


 この子が危険だなんて絶対嘘だよ。


 体はモフモフだし、こんなふうに人懐っこいし。



「配信してないし、ちょっと愛でちゃおっかな♪」



 配信中は可愛いモンスちゃんを紹介するだけだから、モフったりするのは配信外だけなんだよね。


 本当は配信でもいっぱい愛でたいんだけどそこはちゃんと一線を引いてるのだ。


 うん。まおって本当プロだねぇ。



「あはは、甘噛みしてきて。そんなに遊んでほしいのかな?」



 ナデナデしてあげたら、ガジガジと指を噛んでくる。


 遭遇したモンスちゃんたちはいつもこうやってじゃれてくるんだよね。


 ホント可愛い。


 でも、こっちもやられてばっかりじゃないからね。


 両手を使ってナデナデナデナデ。


 うりうりうり。


 あらあら、お腹をみせちゃって。


 このこのっ、可愛い奴めっ。



《以心☆伝心が発動しました》 


「ありゃりゃ、心許してくれちゃったねぇ♪」 



 これがまおのユニークスキルの


 効果は「心を許してくれた動物を手懐ける」という、まさに動物好きなまおにピッタリのスキルなんだ。


 【以心☆伝心】で友達になった、まおの推しモンスター……略して「推しモンちゃん」たちは、別のユニークスキル【この指と~まれ♪】で呼び出せちゃうのもグッド。


 つまり、こんなふうに偶然見つけたモンスちゃんたちを愛でてもいいし、推しモンちゃんを呼んで愛でちゃってもいいってわけ。


 ああ、なんて最高なスキルなんだろう。


 ちなみに、このスキル名は、まお好みに改変させてもらいました。


 元々は【従属化】っていう超可愛くない名前だったんだよね。


 誰がつけたのかわからないけど、センスを疑っちゃう。



「……ああ、幸せ」



 可愛いモンスちゃんをモフモフしてたら、そりゃあ笑みもこぼれちゃうってもんだ。


 同接が2でも、こうしてモンスちゃんたちを愛でることができていれば幸せ。


 そんなこと言ったら、あずき姉に「ダンジョンストリーマとしての自覚を持て馬鹿野郎っ!」って怒られちゃうけどね。



「あれ? 他の子も来ちゃった?」



 気がつけばまおの周りは、可愛いモンスちゃんだらけになっていた。


 キラーラビットに、ポイズンスライム。


 キノコモンスターのマタンゴに、オオコウモリ……。


 トテトテと近づいてきたみんなに、ガブガブと甘噛みされちゃった。


 どうやらまおと遊んでほしいみたい。


 しかたないなぁ。



《以心☆伝心が発動しました》

《以心☆伝心が発動しました》

《以心☆伝心が発動しました》



 ナデナデしてあげるとすぐにスキルが発動した。


 まおの周りには、デレデレになったモンスちゃんたちだらけ。 


 う~ん、なんだろう? 


 この幸せ空間。



「うふふ、みんな今日も可愛いですねぇ~、ほらほら、ここをナデナデして欲しいの──んがっ!?」



 そのとき、ドスンとダンジョンが揺れて、つい変な声が出ちゃった。


 配信外で良かった。


 一応、まおは可愛い少女系キャラで通してるし、キャラ崩壊は避けないとね。


 ……ま、同接は2だけど。



「というか、今の何だったんだろう?」



 スマホにアラートが出てないから、地震ってわけじゃないみたいだし。


 だけど、変な事故に巻き込まれて死んじゃったら「所持品&ステータスリセット」になっちゃうから、とりあえず地上に戻ろうかな?


 そう思って、推しモンちゃんたちとしばしのお別れをしようと思ったんだけど──。



「……えっ?」



 ダンジョンの奥……中層エリア方面から何かがやってきた。


 大きさは牛さんくらいありそうな、銀色に輝く毛並みの大きな狼さんだ。



「うええええっ!? すごく大きな狼さんが出てきた!?」

「グルルルゥ……」



 狼さんはまおを見つけると牙をむき出しにして威嚇してくる。


 だけど、そんな姿を見てもまおは全然驚かない。


 だって──めちゃくちゃまおの好みにどストライクな、激カワモンスちゃんなんだもん!



「はわぁああああ! はじめてみる可愛いモンスたんっ!?」



 まおのテンションは最高潮!



「ね、ねぇ狼たん! ちょっとまおにモフモフさせてくれませんかっ!? だめだったらナデナデだけでいいので! むり?」

「……ガ、ガウ?」



 あ。狼たんの尻尾がしなってなっちゃった。


 もしかして、まおが推しモンちゃんたちと一緒だからびっくりしちゃったのかな? ごめんねびっくりさせちゃって。


 でも、安心して!


 今からいっぱいナデナデしてあげるから! 

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