第五話
お披露目と言う名の死刑執行日
はい、という事で工房にメッサジェントとビアンカさんが来る日になりました。どうする事も出来ませんでした。僕はもうおしまいです。僕一人だけじゃなくてゴドウィンも道連れにします。ありがとうございました。
僕も頭を抱えているがゴドウィンもげっそりして目にクマができている。あっちもあっちで焦燥しているようだ。まあ、このプロジェクトの責任者だからな。もしかしたらギリギリ僕は助かるかもしれないけどゴドウィンは無理だろう。ご愁傷様。
戦犯であるアカンサスさんはご機嫌にそこらを歩き回って工房のドワーフにちょっかいをかけている。何故そんなに自信に溢れているのか聞きたいところだが、どうせ聞いても大した返事は期待出来ないだろう。
「おーい、馬車が見えたぜ。多分あれだろ?」
外にいたアスカさんが報告してくれた。その声を聞いてゴドウィンがバタバタと慌てて外に出ていく。どうしよう僕は何処かに隠れていた方がいいのか。でも挨拶しない訳にもいかない。うむむ。
悩んだ末、急に少し用事ができたから席を外そう作戦にする事にした。仕事だから仕方ない。あー仕方ない。久しぶりに心の癒し、ビアンカさんに会いたかったなー。
工房の裏口から出ようとした時に御両人が工房に入ってきた。
「ヒカルさん!お久しぶりです」
ビアンカさんが早速僕に気付いて声を掛けてくれた。相変わらず可愛らしい。それに気遣いも出来る。ただ壊滅的にタイミングが悪い。
「お久しぶりです。ビアンカ様、メッサジェント様」
とりあえず馬鹿みたいに丁寧に頭を下げて挨拶した。丁寧に対応して怒られる事はない。メッサジェントも声を掛けてきた。
「久しぶりだね、ヒカル君。元気そうです何よりだ」
「メッサジェント様もお元気そうで何よりです」
「それで?完成したトラックはどこだい?ゴドウィンに聞いても返事が煮え切らないんだ」
「あーそうですよねー」
「?」
僕は気まずそうに幕の方を見た。あれからトラックの前に張ってた幕はそのままなのだ。ゴドウィンが現実を直視したくないのかもしれない。
「あの幕の向こうにあるんだね?」
「どんなトラックか私楽しみです」
二人は期待に胸を膨らませている。そんな時にどこからともなくアカンサスさんの声が工房の中に響いた。
「それならばお見せしよう、若人よ!このアカンサスの最新作を!」
アカンサスさんは工房の二階の手摺りに登って仁王立ちしている。本当に危ないしパンツが見そうで見えない。いや見えた。
そして幕の端を持って二階から飛び降りた。アカンサスさんは幕に捕まりながら工房の反対側に落下する様に移動していく。それと同時に幕も開けていく。
幕が開くとそこにはそれはそれは立派なデコトラが鎮座されていた。初めて見た時と全く変わらない龍と鯉の絵が描かれている。誰が見てもデコトラである。
御両人は口を開けて驚いている。お付きの兵士達も馬鹿みたいに口を開けている。ゴドウィンは頭を抱えている。ルールルッルッルー今日もいい天気ー。言うてる場合か。
アカンサスさんは誇らしげに立っているが状況を理解できているのか。そうして少しの沈黙の後メッサジェントが口を開いた。
「素晴らしい……」
続いてビアンカさんも、
「こんな作品見たことない……」
嘘だろ。どんな感性してるんだ。いや、いい作品なのは間違い無いがこれ結婚式に使うんだが、それでいいのか?
「まさか、アカンサス様が私達の為に作品を描いてくれるなんて」
「こんな光栄な事はない」
「ふふふ、そうだろそうだろ」
なんか御両人とアカンサスさんだけで盛り上がっている。でも兵士達はポカンとしているのであの三人の感性がおかしいだけなのかもしれない。
後日知った事だがアカンサスさんは有名な芸術家らしい。ただ本人の性格とエルフ特有の時間感覚のせいで作品を作るのが十数年単位にも及ぶらしい。そんな伝説的な芸術家であるアカンサスさんの作品とだけあって二人は大喜びしている。
ゴドウィンもやっと安心したのか表情は穏やかなものになっていた。
ゴドウィンは芸術が分からないらしくアカンサスさんが有名なのを知らなかった。絵の上手い変わり者くらいの認識であった。
こうしてアカンサスさんのせいで取れ掛けた首はアカンサスさんのおかげで首の皮一枚の所で何とか耐えた。全てはアカンサスさんのマッチポンプだが生きている事を今は感謝しよう。
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